G20決裂、「戦後秩序」構想いまこそ 侵攻が世界に問う

G20決裂、「戦後秩序」構想いまこそ 侵攻が世界に問う
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『制度や秩序にも寿命がある。約30年前の冷戦終結後、経済のグローバル化が進み、日米欧の主要7カ国(G7)の力だけでは国際秩序の綻びを覆い隠せなくなった。21世紀に定着した20カ国・地域(G20)はロシアのウクライナ侵攻で機能不全に陥った。G7は改めて結束を問われ、国際社会は「戦後秩序」の再設計を迫られている。

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ノルマンディー上陸に続く激戦がまだ続いていた1944年7月、連合国44カ国は米ニューハンプシャー州で第2次大戦後の国際金融秩序を決めるブレトンウッズ会議を開いた。米財務省が戦後構想の検討に着手したのは、さらにその3年前の41年に遡る。国際社会がいまから新たな「戦後秩序」を考え始めても、決して早いとはいえない。

「経済問題と安全保障を含む国益を切り離すことはますます難しくなる」とイエレン米財務長官は語る。ロシアの蛮行とウクライナの善戦は米欧日など「西側」の結束を高め、ロシアへの厳しい制裁を実現した。世界が民主主義、自由、人権、規範の重要性を再確認し、権威主義国の暴発を抑え込むことが出発点であることは疑いがない。

G7はまず、民主主義を掲げる先進国として結束し、インフレや途上国の過剰債務、エネルギーの安定供給など世界経済が抱える課題の解決に取り組んでいく必要がある。それは結果として、権威主義国に対する民主主義国の存在感を高めることになる。

問題は、民主主義国と権威主義国を二分するだけでは世界が抱える長期的な課題を解決するのに不十分なことだ。

次の30年を見通せば、米国にとって最重要の戦略的競争相手は中国となる。30年前、世界の7割近かったG7の国内総生産(GDP)のシェアは約45%に低下した。一方で経済交流がほぼなかった冷戦時代の米ソと異なり、米国のモノの貿易額のうち中国向けは約14%を占める。中国抜きの国際協調は実効性を伴わない。

その中国は今後10年程度で米国の経済規模を抜くことを視野に入れ、習近平(シー・ジンピン)国家主席は「衰退する米国、台頭する中国」という世界観で米国をみる。中国からのこうした冷えた視線を感じるからこそ、台湾や日本、米国では「中国が覇権拡大へ武力を使うこともためらわなくなるのではないか」との懸念が消えない。

秩序の緩みを招いたのは、米国自身でもある。トランプ前政権が脱退した環太平洋経済連携協定(TPP)にバイデン政権は復帰せず、アジア経済戦略の空白が続いている。党派対立で分断された議会が国内市場の開放でまとまるメドが立たないためだ。

経済力は国力の源泉だ。米国はいったん中国に経済規模で世界首位を譲るものの、今世紀半ばに再び中国を上回る――。日本経済研究センターは米中が拮抗する未来を予想する。米中両大国の取引に振り回される世界が安定するとは思えない。

民主主義という価値を軸に、各国が協調して自由で公正な経済の恩恵をいかに広げるか。「プーチン後」のロシアを見据える視野も必要になる。混乱の先を描く構想力が試されるのは米国だけではない。中ロを隣国に持つ日本がまず貢献すべき課題だ。

(ワシントン支局長 大越匡洋)

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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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ひとこと解説

そもそも戦後の世界秩序は冷戦時代には米ソ対立の状態に直面していたので、今の状況は格別なことではない。

ロシアによるウクライナ侵攻で何が変わったかというと、冷戦終結以来の経済優先、国際協力の流れが頓挫したことにある。G20の機能不全はこうした流れを顕著に象徴しているのではないか。

この記事の最後の一文は重く、中ロを隣国とする日本には日米同盟強化以外にも大きな役割が求められている。

2022年4月22日 7:49 (2022年4月22日 7:51更新)

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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分析・考察

ロシアのウクライナ侵攻で武力により破壊された国際秩序をどう立て直すか。重要なテーマだが、妙案がなかなか出てこないテーマでもある。

民主主義という価値観で世界をまとめるという理想論は、強権独裁のメリットを前面にだしている中国の台頭、そして自国の安全保障面で無理筋の要求をつきつけて暴発するロシアの存在により、絶望的な状況に陥った。

では経済的なメリットでつながれるかと言えば。政治・軍事と経済が不可分であることが、米中さらには米欧・ロシア間で展開されている経済制裁合戦により、事実上否定されている。

何か探すとすれば、地球温暖化対策か。人間が住んでいる惑星が壊れてきていることに、もう一度目を向けられないか。

2022年4月22日 7:39

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白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
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分析・考察

新興国・途上国はそれぞれ各国に個別事情をかかえており西側の民主主義や自由公正な競争を全面に掲げる国は多くはない。

G7では世界経済の相対的な影響力が低下しているからこそ、G20が重視されてきた。

しかし、G20でも世界的課題を解決することが難しいことが明らかになっていた中でウクライナ問題でそれが露呈した。

西側の国家感を他の地域にひろげていくことが現実的に可能なのだろうか。新興国・途上国の相対的な経済規模が大きくなっておりなかなか難しそうだ。

むしろ各国地域の異なる事情・歴史・パワーバランスを理解したうえで、対話を継続しながら共通に取り組める課題に焦点をあてた外交が重要になっていくと思う。

2022年4月22日 7:13 』