[FT]世界経済秩序の刷新を 米国は「価値観の共有」重視

[FT]世界経済秩序の刷新を 米国は「価値観の共有」重視
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『イエレン米財務長官は先週、大々的には報じられなかったが極めて重要な発言をした。貿易体制を再び、価値観と結びつけたのだ。

イエレン氏は、米国が多数の信頼できる国・地域に供給網を整備することを目指すと語った=ロイター

イエレン氏は13日、ワシントンで開催された米シンクタンク、アトランティック・カウンシルでの講演で、ドルを基軸通貨とする第2次大戦後の金融秩序を定義したブレトンウッズ体制のような新たな枠組み作りや、今週春季総会を開催中の国際通貨基金(IMF)と世界銀行の改革を呼びかけた。

また、プーチン大統領のロシアがウクライナに侵攻したことと、米国をはじめ30カ国以上が実施している対ロシア制裁に中国が協力しなかったことが世界経済の転換点となったと明らかにした。

今後の米通商政策は単に市場の自由に任せる方針から脱却し、一定の原理原則を守ることを軸に据える。この原理原則には国家主権やルールに基づく秩序、安全保障、労働者の権利などが含まれる。イエレン氏は米国は「自由かつ安全な貿易」を目指すべきだと語った。
信頼できる国・地域に供給網を整備

さらに、どの国・地域も「重要な原材料や技術、製品に関する市場での地位を利用して、経済を混乱させるための力を持ったり、不必要に地政学的影響力を得たりする」ことは許されるべきではないと述べた。

これは明らかに石油を政治的手段として使うロシアを念頭に置いた発言だと思われるが、半導体製造における台湾や、レアアースをため込む中国(新型コロナウイルスの流行時には個人用防護具も対象となった)などにも無理なく当てはまる。

イエレン氏の講演ではこのポスト新自由主義時代を表す新しい言葉も飛び出した。「フレンドショアリング」だ。米政府は今後は「世界経済のあり方について一定の規範と価値観」を共有する「多数の信頼できる国・地域にサプライチェーン(供給網)を整備するフレンドショアリング」を目指すという。

また、デジタルサービスや技術規制といった分野でも、(イエレン氏が陣頭指揮を執った)2021年の国際課税に関する新ルールでの合意のように原理原則に基づく連携を模索するという。

これは「米国孤立」でもなければ「米国第一」ですらない。だが、自由貿易は各国・地域が共通した価値観のもとに対等な立場で行動しなければ本当の意味では自由にならないという、政治が深く絡んだ経済の現実を認めたことになる。

これは、過ぎ去りつつある新自由主義時代と異なる部分もあれば、重要な点において似ている部分もある。

もともとの「新自由主義」の意味

「新自由主義」という言葉が最初に使われたのは1938年にパリで開かれたウォルター・リップマン会議で、経済学者や社会学者、ジャーナリスト、実業家らが集まって世界の資本主義をファシズムや社会主義から守るための方策を議論した。

当時の状況は様々な意味で今と一致する。欧州は第1次大戦でずたずたになっていた。29年まで約10年にわたって金融緩和政策が続いたものの急激な政治的・経済的変化に対応できず、社会に深刻な分断が生じた。

労働市場や家族構成も変化しつつあった。スペイン風邪のパンデミック(世界的大流行)、インフレ、そしてその後は大恐慌やデフレ、貿易戦争に突入し、欧州の経済は壊滅的な状態にあった。

当時の新自由主義者らは世界の市場をつなげることでこれらの問題を解決しようとした。各国を超越した一連の機関によって資本と貿易をつなぐことができれば世界は無秩序に陥りにくくなると考えた。

この考え方は長い間機能した。その一因は自国の利益と世界経済とのバランスがあまりにもかけ離れることはなかったからだ。確かに、保守派が強かったレーガン米大統領、サッチャー英首相時代の80年代でさえも世界貿易は各国の利益のためにあるべきだという感覚があった。

レーガン氏は自由貿易を推進したかもしれないが、日本に制裁関税を科し、国ぐるみの産業政策を支持した(他のアジア各国の大半や多くの欧州の国々でも同じことをしていたし、今もしている)。

米国では90年代のクリントン政権下で変化が表れ始めた。米国は各国と相次いで自由貿易協定を結び、最終的には2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟にこぎつけた。

当時は中国が豊かになればもっと自由な国になるだろうという希望があったからだ。もちろんそれは実現しなかった。そして今、あらゆる国・地域の指導者が一国二制度ならぬ、「一世界二制度」がもたらす現実を受け止めている。

中国が新自由主義体制の恩恵を大いに受けてきたこともあり、イエレン氏は世界が「二極化した制度には行き着かない」ことを望むと述べた。「だが、真の課題が浮上している」と続けた。「中国は様々な面で国有企業に依存しており、米国の安全保障上の利益を不当に損なうと思われる行為をしている」

また、多数の国・地域にまたがるサプライチェーンは「非常に効率的でビジネスコストの削減という意味で優れているが、レジリエンス(復元力)は低かった」とした。どちらの問題も解決する必要があるとの考えを明らかにした。

第2次大戦後の状況と相似

岐路に立つ今の世界経済はもともとのブレトンウッズ体制を作り上げた新自由主義者らが直面していた状況と似ていなくはない。その出発点はレッセフェール(自由放任主義)の市場は素晴らしいという信念ではなく、極めて現実的な問題に対処することだった。

当時の人たちは戦争で引き裂かれた世界を継ぎ合わせ、自由と繁栄が保障された、安全でまとまりのある社会の実現に向けて模索した。市場だけではそれを実現できないため、新しいルールが必要となった。

これは今の我々がいる状況と一緒だ。振り子が戻る時機はとうに過ぎていると考えるのは筆者だけではないだろう。世界の資本主義はこの20年間、個々の国の国内の課題を置き去りにして、ひたすら突っ走ってきた。

政治や経済はもとより倫理的な枠組みさえも著しく異なる国があり、そのすべてが世界共通のルールで競ってきたわけではない。こうした状況では公正で自由な市場は崩壊し始める。

新しいブレトンウッズ体制を作る過程は始まったばかりだ。だが、自由民主主義にとって大切な価値観を出発点としたのは幸先がよい。

By Rana Foroohar

(2022年4月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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