[FT]「中国は外国ワクチンに切り替えを」 専門家が提言

[FT]「中国は外国ワクチンに切り替えを」 専門家が提言
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『新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」に対する中国製ワクチンの有効性について懸念が募るなか、科学者らが中国に対し、オミクロン型の感染拡大と闘うため2種類の国産ワクチンに代わるワクチンを探すよう呼びかけている。
人影のない上海の街路=ロイター

中国は新型コロナのパンデミック(感染大流行)下で最悪の感染急拡大に直面し、2つの問題に苦しめられている。1つは追加接種(ブースター接種)のペースの鈍さで、当局は今週、60歳以上の人口のうち3回の接種を完了した人が57%にとどまると明らかにした。もう一つは外国製ワクチンより効果が大幅に劣る国産ワクチンだ。

複数の研究は、中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製ワクチンは、独ビオンテックや米モデルナが生産している「メッセンジャーRNA(mRNA)」ワクチンなど、より効果が高いワクチンの追加接種で免疫を補強することを推奨している。中国医薬集団(シノファーム)製ワクチンについてはデータがほとんどないため、多くの研究者は同社製ワクチンもオミクロン型にあまり効かないと考えている。

米スクリプス・トランスレーショナル研究所のエリック・トポル所長は、データは「限られている」ものの、ウイルスの死んだ部分を使って生産される「不活化ワクチン」は競合ワクチンより効果が劣り、時間とともに効果がさらに落ちると話す。

オミクロンで問題が露呈

「ワクチンの有効性は60%で、そもそも有望ではなかったが、オミクロンによって問題がすっかり露呈した」

中国は直近の感染拡大に対処するため、国産ワクチンのブースター接種を急速に進めるだけでなく、外国製ワクチンの承認に消極的な姿勢も克服しなければならないかもしれない。さもないと、莫大な数になりうる死者を防ぐために、中国は恐らくより厳しく、コストもかかるロックダウン(都市封鎖)を余儀なくされるだろう。

3月に発表された香港大学の研究では、シノバック製ワクチン「コロナバック」を2回接種した60歳以上の人は、ビオンテックと米ファイザーが共同開発したワクチンを2回接種した人に比べ、新型コロナで死亡する確率が3倍に上ることが分かった。

この論文はピアレビュー(同分野の専門家による評価)をまだ受けていないが、どちらのワクチンでも3回目の接種は重症化を防ぐ高い効果があると結論づけている。

シノバックにコメントを求めたが、返答がなかった。

香港大学の疫学者ベン・カウリング教授は、中国製ワクチンの3回目の接種は「ブースター」ではなく、単に最低限の接種コースの完了と見なすべきだと話している。

「世界保健機関(WHO)が高齢者には不活化ワクチンの3回接種を推奨しているのを知っておくことが重要だ。2回では不十分だと指摘している」

重要なのは、香港大学の論文が、3回接種の効果がどれくらい続くか示すのは時期尚早だと記していることだ。同大の金冬雁教授(ウイルス学)は、論文で検討された3回目の接種の多くは香港での2022年の感染拡大の波の直前に実施されたため、コロナバックがオミクロン型に対して時間と共にどれほど効果があるかは実証されていないと語る。

どんな効果も急激に衰えるとの懸念から、多くの科学者は今、不活化ワクチンに依存している国は別のプラットフォーム(基盤技術)で作られたワクチンでの追加接種を検討すべきだと提言している。中国はワクチン外交戦略の一環として、低所得国や中所得国に国産の不活化ワクチンを送っている。

ブラジルでは、21年9月から22年3月にかけてエビデンス(科学的根拠)を収集した研究で、コロナバックのブースター接種は追加の予防効果が限られていたが、ファイザーのブースター接種は少なくとも3カ月間、重症化を防ぐ効果があることが分かった。

米エール大学の研究はさらに踏み込み、不活化ワクチンを2回接種した人はmRNAワクチンのブースター接種が2回必要かもしれないとしている。

エール大の免疫学者で論文の執筆に携わった岩崎明子教授は、不活化ワクチンはCD8と呼ばれる(タンパク質を発現した)免疫系のT細胞から大きな反応を引き出さない傾向があると語る。つまり、長期的な効果が当てにならないかもしれないということだ。

「このため、シノバック製ワクチンを2回接種した人は、中和抗体価(抗体の量)をmRNAワクチンの3回接種と似たようなレベルに引き上げるためだけに、mRNAワクチンのブースターを2回接種する必要がある」

中国製品使用減る国も

多くの国は別のワクチンで追加接種を実施している。インドネシア、パキスタン、ブラジルは中国製ワクチンを大量に受け入れた国に数えられるが、英医療調査会社エアフィニティによると、3カ国ともブースター接種では中国製ワクチンの使用が大幅に減っている。

ブラジルの生物学研究機関、フィオクルス財団の感染症専門家のジュリオ・クロダ氏は、大半の中南米諸国は特に高齢者については、別のワクチンプラットフォームを推奨していると語る。

だが、一部の国は不活化ワクチンに代わるワクチンを入手できず、世界でのワクチン供給全体に占めるシェアも小さいという。

ビオンテックはファイザーとの提携を発表する以前、開発に成功したコロナ向けmRNAワクチンを中国に提供するため、20年3月に上海復星医薬との提携に調印していた。だが、それから2年以上たった今も、中国は本土での使用についてビオンテック製ワクチンを承認していない。

金教授は、中国当局は「直ちに」同ワクチンを承認すべきだと語る。

中国企業は独自の新型コロナ向けmRNAワクチンの開発に取り組んできた。康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)は最近、国内でmRNAワクチンの臨床試験(治験)を始める許可を得た。シノファームもmRNAワクチン候補を開発している。

だが、金氏はこうしたmRNAワクチンも同じように有効かどうかは誰にも分からないと話す。mRNAワクチンは遺伝情報を使い、免疫系にウイルスの「スパイクたんぱく質」を認識するよう教える仕組みで、一見シンプルに見えるが、成功したワクチンには特許で保護されている多くのイノベーションが盛り込まれている。ワクチンメーカーの独キュアバックは21年、市場のリーダーより有効性が低かったために、初代のmRNAワクチンの開発を打ち切った。

中国企業による努力は最近、挫折に見舞われた。艾博生物科技(アボジェン・バイオサイエンシズ)が開発したmRNAワクチン候補について、オミクロン型に対抗できるほど多くの抗体を生まないことが初期の研究で示された。

研究機関インフォーマの医療専門家、ブライアン・ヤン氏は、中国当局は国産ワクチンの開発に力を入れてきたが、mRNAへの投資は必ずしも成功につながらないと指摘する。

「中国は常に、十分な資金と正しい専門知識をつぎ込めば必ずうまくできると考えるが、mRNAは大量の蓄積された知識が必要になる」

By Hannah Kuchler, Eleanor Olcott and Andy Lin

(2022年4月20日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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