7回目の核実験はいつ? 北朝鮮に「中国リスク」

7回目の核実験はいつ? 北朝鮮に「中国リスク」
編集委員 峯岸博
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK214IQ0R20C22A4000000/

『日米韓など周辺国は警戒したが、4月15日の故金日成主席生誕110年に合わせた北朝鮮による核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の再発射は確認されなかった。28日までの日程で18日に始まった米韓合同軍事演習や25日の朝鮮人民革命軍創建90年の記念日に照準を定める可能性も排除できないが、北朝鮮で通算7回目となる核実験を強行するには、金正恩(キム・ジョンウン)総書記にとっても相応の覚悟が求められる。

「(北朝鮮が)核実験に踏みだした場合、中国がどう出るかは見ものだ。だが、北京(=中国指導部)に相当な負担をかけるので、最終的に平壌(=北朝鮮指導部)はやらないと思う」。1月19日の朝鮮労働党の会議で金正恩氏が、中止していた核実験とICBM発射の再開を示唆したとき、金正恩体制に精通する北朝鮮筋はこう予告していた。

北朝鮮の核実験を「中国は『絶対ダメ』」

米本土を射程に収めるICBMの実験ならば、中国の対米戦略の選択肢を広げることにつながり、習近平(シー・ジンピン)指導部も受け入れやすいとの分析は1月28日公開の本コラム「北の大型挑発はICBMか、カギ握る中国」で解説した。実際、北朝鮮は3月24日に新型の「火星17」だと主張するICBMを日本海に向けて飛ばし、翌25日に開いた国連安全保障理事会の緊急会合では常任理事国の中国が、ロシアとともに北朝鮮への制裁強化案に反対した。

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豊渓里(プンゲリ)核実験場では坑道修復の動き=米Planet Labs PBCの衛星画像をもとに米ミドルベリー国際大学院モントレー校加工

一方、「核に関しては中国は『絶対ダメ』だ」(同)というのが北朝鮮側の受け止めである。中国が北朝鮮の核保有と、それにつながる核実験を容認しないとの見方だ。

北朝鮮指導部は「あのとき」を忘れることができないはずだ。「ICBM搭載用の水素爆弾の実験」と称し、過去最大級の6回目の核実験を強行した2017年9月3日とその後の中国の「怒り」だ。

6回目の核実験後、中国は経済、軍事で圧力

当時、中国外務省は直ちに声明を発表した。目を見張ったのはその内容だ。「北朝鮮は国際社会の反対を顧みず再び核実験を実施した。中国政府は断固たる反対と強烈な非難を表明する」。報道官談話よりも格上の政府文書の体裁をとり、「断固たる反対」「強烈な非難」と、トーンを上げた厳しい言葉を並べた。

3月25日、北朝鮮のICBM発射を受けて開かれた国連安保理会合(ニューヨークの国連本部)=AP

中国は言葉だけで済ませなかった。11日に国連安保理が採択した北朝鮮への厳しい追加制裁決議に賛成し、実際に石油精製品の輸出制限を履行した。決議を待たず、北朝鮮にとって石炭に次ぐ稼ぎ頭だった衣料品の禁輸に踏み切ったとの情報も伝わった。

決定的だとみられたのが、北朝鮮への軍事的な威嚇だ。17年12月に習指導部は北朝鮮との国境地帯で数十万人を収容できる難民キャンプを設営するよう指示した。軍駐留施設も増設し、朝鮮半島「有事」への備えに相次ぎ、動いたのだった。

当時のティラーソン米国務長官は講演で、半島有事の際の難民対策や核兵器の管理について、すでに中国と協議したと明らかにした。米軍による北朝鮮侵攻と撤退方法を巡り、中国と一定の事前調整に入ったことが確認されたわけで、異例中の異例のコメントだった。米中が手を携えて経済、軍事両面で猛烈な圧力をかけてきたと、北朝鮮を震撼(しんかん)させた。

中朝のパワーバランスが崩れる可能性

中国からみれば、北朝鮮の核大国化は、地域情勢を不安定にするだけでなく、中朝のパワーバランスも崩しかねない。この頃、北京で公明党の山口那津男代表と会談した中国共産党序列4位の汪洋(ワン・ヤン)副首相(当時)は、北朝鮮の核保有に「断固反対だ」と明言した。そのうえで①中国が最大の被害者になるかもしれない②朝鮮半島の混乱と戦争にも反対する――と訴えた。

中国の強硬姿勢に、朝鮮戦争をともに戦った中国との「血で固められた関係」が、利害でつながっている現実を金正恩氏はあらためて思い知っただろう。

北朝鮮は6回目の核実験後も北海道上空を通過する弾道ミサイルを発射した。その後、17年11月のICBM「火星15」発射実験によって「国家核戦力の完成」を宣言すると、18年2月に韓国で開催された平昌(ピョンチャン)冬季五輪への参加を機に国際社会との対話路線へと急旋回していく。

「朝鮮半島の非核化」を追求する中国の原則は変わらない。19年6月に訪朝した習氏は金正恩氏に対し、非核化をめぐる米朝協議を継続するよう促した。

2019年6月、平壌の朝鮮労働党本部を訪れた中国の習近平氏(手前左)と握手する北朝鮮の金正恩氏=朝鮮中央通信・共同

かたや北朝鮮が21年1月の党大会で決めた兵器システム開発5カ年計画のリストには「戦術核兵器の開発」や「超大型核弾頭の生産」が掲げられている。米国だけでなく中国からも現在の独裁体制を守るための「核」を伝家の宝刀とみており、4年半以上中断している核実験の再開は不可欠だとみなしているに違いない。

中国との対立避け事前調整か

足元では、ロシアによるウクライナ侵攻が北朝鮮の「核信仰」を強めているとみられる。北朝鮮は17日、戦術核の運用に向けた「新型戦術誘導兵器」の発射実験に成功したと公表し、多様な核保有への執着をあらわにした。

核実験場がある北朝鮮北東部の豊渓里(プンゲリ)では、最新の衛星画像で地下核施設への坑道を修復する動きがとらえられている。安保理の対北朝鮮制裁委員会の専門家パネルによると、核開発施設のある北西部の寧辺(ニョンビョン)でも5メガワットの原子炉の稼働が21年7月から次々と再開された。

半面、北朝鮮経済の悪化は、制裁の長期化に新型コロナウイルスのロックダウン(都市封鎖)政策に伴う深刻な物資不足と自然災害が重なる「三重苦」が追い打ちをかける。近年、北朝鮮が中国やロシアとの友好・協調をアピールする背景だ。石油などの戦略物資の調達で依存する中国との決定的な対立は避けなければならない事情を抱える。

中朝の接近は常に緊張との背中合わせだ。北朝鮮の出方には不透明感が強いが、しばらくは核実験にせよICBMの再発射にせよ、国連での制裁論議まで視野に入れて中国との事前調整を重視するとの分析が強まっている。

峯岸博(みねぎし・ひろし)

1992年日本経済新聞社入社。政治部を中心に首相官邸、自民党、外務省、旧大蔵省などを取材。2004~07年ソウル駐在。15~18年3月までソウル支局長。2回の日朝首脳会談を平壌で取材した。現在、編集委員兼論説委員。著書に「韓国の憂鬱」「日韓の断層」。
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