[FT]米LNGの対欧輸出、コスト高と脱炭素で視界不良

[FT]米LNGの対欧輸出、コスト高と脱炭素で視界不良
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『米ルイジアナ州の港の桟橋に横付けされたタンカーは、液化天然ガス(LNG)を積み込んでいた。テキサス州やペンシルベニア州のガス田から掘削されて液化されたこの超低温燃料は、海外への出荷に向けて、凍り付いた配管を通り、断熱材で覆われた船倉に注入されていた。

米国の液化天然ガス(LNG)輸出拠点、サビンパス輸出ターミナル(米ルイジアナ州)でえい航されるLNGタンカー=ロイター

米LNG大手シェニエール・エナジーのサビンパス輸出ターミナルは、米国で稼働している7つのLNGターミナルの1つだ。エネルギーを喉から手が出るほど欲しがっている世界の市場に供給するため、どのターミナルもフル稼働している。

ロシアのウクライナ侵攻を受けて欧州がロシア産天然ガスへの依存度引き下げを迫られるなかで、世界最大のガス産出国である米国のLNG輸出企業がブームにわいている。投資家は関連企業に積極的に投資、LNG貿易を専門とするシェニエールの株価は過去最高値を更新した。

もっとも、十数に上る米国の液化設備の新規プロジェクトの先行きは依然として不透明だ。建設コストの上昇や米ガス価格の急騰に加え、気候変動対策から政策立案者らが長期的には化石燃料からの脱却と温暖化ガス排出量の削減を目指していることがその理由だ。最も進展しているプロジェクトでも、世界に追加供給できるまでには数年かかるだろう。

米国は6年前、シェールガスから生産したLNGの輸出に乗り出した。水圧破砕(フラッキング)を使って新たなガスを供給できるようになったことで、シェニエールは輸入貨物を扱うために設計されたサビンパスに、輸出インフラを整備した。

現在の米国のLNG生産能力は年1200億立方メートルだ。2025年までに新たに3つのプラントが稼働する予定で、そうなれば年産能力は700億立方メートル増える。さらに計2060億立方メートル相当の生産能力を持つプラントが連邦政府の認可を得ており、出資者の賛同を待っている。

フォンデアライエン・バイデン合意に沸く業界

欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は3月、バイデン米大統領とエネルギー協力の拡大で合意したと発表した。この合意により、EUは長期的には年間500億立方メートルのLNG需要を保証する。EUは21年にロシアから1550億立方メートルのガスを輸入したが、その一部を代替する計画だ。

トランプ前米政権でエネルギー長官を務め、現在は米センプラ・インフラストラクチャーの社長に就くダン・ブルイエット氏は「誰もがこの3~4週間で大いに高揚感を味わったと思う」と語った。センプラはルイジアナ州にあるキャメロンLNGプラントの過半数株を保有する。米国の化石燃料に対する欧州の姿勢は「180度転換した」とも述べた。

米LNG各社の幹部は今や、新たな建設ラッシュが迫っていると確信している。

ヒューストン南部の輸出ターミナルを運営する米フリーポートLNGのマイケル・スミス最高経営責任者(CEO)は「米LNGの未来は上振れしている」と話す。「欧州は再生可能エネルギーだけで現状(エネルギー危機)を脱却できると考えるのではなく、LNGが必要だと認めている。これは大きな前進だ」

ヒューストンに拠点を置くシェニエールのジャック・ファスコCEOは、欧州が環境に配慮したグリーンな経済活動を定める「EUタクソノミー」に一部の天然ガスを加え、エネルギーの脱ロシア依存を決めたのは、エネルギー安全保障とクリーン資源への移行に果たすLNGの役割について「現実的な見方」ができるようになったという意味で、「明るい」兆しだと指摘する。

米国の新規プロジェクト案が全て実行に移されるとはみられていない。LNGプラントは建設コストが高く、投資を回収するのに数年かかるからだ。開発各社は通常、計画を実行に移す前に顧客と20年以上のLNG購入契約を確保し、生産能力の80%以上に売り先を手当てしておかなくてはならない。

脱化石燃料の取り組みを考えると、EUがLNG購入を保証し、LNG価格が世界的に急騰しても、結局は開発各社が期待するほど需要は増えないとアナリストはみている。欧州委員会が3月に発表したエネルギー政策方針「リパワーEU」は脱ロシア依存を掲げる一方で、全般的な「化石燃料の利用削減の加速」にも言及している。

米LNG支持派は、LNG生産には石炭発電よりも二酸化炭素(CO2)排出が少ない電源が使われており、一部の国では急速な排出量削減に寄与すると主張する。だが、ガスのインフラから漏れ出るメタンやLNG輸出プラントの(生産から廃棄の過程を含む)ライフサイクル全体でのCO2排出量を考慮すると、この主張の説得力は弱まる。

プロジェクト開発各社はCO2回収技術を活用すれば排出量を削減できると強調する。フリーポートは天然ガスの液化プロセスに電動システムを導入している。それでも、欧州の電力・ガス会社の長期需要はなお見通せないとアナリストは指摘する。

LNGに詳しい米戦略国際問題研究所(CSIS)のニコス・ツァフォス氏は、欧州について「LNGを求めている大口顧客がいるが、需要がどの程度続くのかはよく分からない」と指摘する。「いずれにせよ、欧州はガス事業自体からの早期脱却を図っている」
高騰するプラント建設費

開発各社はサプライチェーン(供給網)の混乱と労働市場の逼迫もプラント新設の足かせになる可能性があると認める。米ベンチャーグローバルのルイジアナ州にある最新のプラント「カルカシューパス」はわずか2年5カ月で稼働にこぎ着けたが、他の新規プロジェクトの進展はもっと遅い。インフレが米経済を直撃しているため、コストは上昇しつつある。

スミス氏は「これは主に鉄鋼を使うプロジェクトだ。鉄鋼(価格)はこの2年で2倍に跳ね上がった」と嘆いた。

同氏はさらに、プロジェクトの建設コストはLNG生産能力100万トン当たり約5億ドルだったが、今や10億ドルに迫っていると示唆した。

米天然ガスの価格はなお欧州やアジアよりも割安だが、このところは08年以来の水準に急騰し、100万BTU(英国熱量単位)当たり7ドルを超えている。輸出ターミナルに振り向けられるLNGが増えたのが一因だ。

米エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)のアナリスト、クラーク・ウィリアムス・デリー氏は、LNGの供給が逼迫しているのは「豊かな先進国がLNGの小さなパイを奪い合っている」ためだと指摘する。LNG業界が成長のけん引役になると期待されていたアジアの新興国は、LNGの輸入計画を見直す可能性があるとも語った。

欧州に向かうべき米LNGのほとんどは出荷済みで、22年の輸出量全体の約70%を占めている。EUは特に次の冬に向けて備蓄に力を入れており、米国はロシア産の突然の供給寸断をただちに代替できる立場にはない。

ファスコ氏は「欧州にもっと朗報を届けたいのはやまやまだが、これほどの規模の供給を増やすにはもう5年はかかる」と語った。

By Derek Brower

(2022年4月18日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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