[FT]ウクライナ侵攻で小麦減産へ 穴埋め狙う南米の農家

[FT]ウクライナ侵攻で小麦減産へ 穴埋め狙う南米の農家
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『ブラジル・サンパウロ州内陸部リベイラン・プレート近郊でサトウキビと大豆を栽培するホセ・オディロン・デ・リマ・ネトさんは、2022年は別の作物を初めて栽培しようと考えている。
ブラジルは小麦の「純輸出国」に転じる可能性を秘める=ロイター

「ウクライナとロシアで夏の作付けが難しくなるため、小麦を作ってみるチャンスかもしれない」

ロシアのウクライナ侵攻以降、小麦の国際価格は高騰している。世界で取引される小麦の約30%を占める両国からの輸入に依存する多くの国への供給が滞るとの懸念が生じているためだ。

国連の食料価格指数は記録的な高さに達しており、軍事侵攻で国連食糧農業機関(FAO)が「破滅的な飢餓」と呼ぶ状況がさらに悪化している。
ロシアのウクライナ侵攻が広げた波紋

(ウクライナから)数千マイル離れた南米に位置し、大豆、牛肉、トウモロコシからオレンジまであらゆる農畜産物を生産する主要農業地帯のブラジルやアルゼンチンでは、食糧危機の兆しが波紋を広げている。

南米の農業関連企業は食料価格高騰によって収入を増やそうとしており、デ・リマ・ネトさんのように増産したり新たな分野に移行したりする動きもある。

だが同時にコストの上昇や燃料、肥料や家畜の飼料など農業に不可欠な物資の不足が懸念されており、世界の食糧安全保障に十分な役割を果たせない可能性もある。

ロシアのウクライナ侵攻は、ラテンアメリカの夏の作付けやブラジルのトウモロコシの二期作の計画が決まった後で始まった。そのため生産者は即座に対応することが難しかったと、コンサルティング会社ストーンXのアナリスト、ビトール・アンドリオリ氏は話す。

「紛争が長期化し商品価格が高止まりするならば、南米大陸で穀物や油糧種子の増産を後押しするだろう」と同氏は述べた。

国土の多くが熱帯気候であるブラジルでは小麦の生産は限られるが、22年に入ってからの小麦の輸出は21年通年の輸出を超えた。栽培技術の進歩で、伝統的に小麦の純輸入国だったブラジルが将来は小麦を自給可能できるようになるだけではなく、純輸出国に転じる可能性すらあると専門家は見ている。
増産しても輸出先はどこに

ブラジル・アグリビジネス協会(ABAG)のカイオ・カルバリョ会長は、短期的には農業セクター全体で生産を大幅に増やす可能性は低いと話す。ウクライナ侵攻がいつまで続くのか、また増産した農産物をどこに輸出するのかはっきりしないためだという。

「商品を販売する市場という保証がなければ、生産者は冒険をしてまで供給を増やすことはできない」と同氏は指摘した。ブラジルは中国、中東やロシアに農産物を輸出しているが、多くの先進国市場への門戸は閉ざされたままだという。

南米最大の経済大国であるブラジルは、当面トウモロコシの供給減を補う役割を果たせる。米農務省の最近の報告では、ロシアの侵攻前にウクライナはトウモロコシの輸出でブラジルをわずかに上回り世界3位になると予想されていた。

大豆と同様、トウモロコシは大半が家畜の飼料となる。ブラジルは米国と中国に続いて世界3位の生産国で、ブラジル国家食糧供給公社(CONAB)は22年のトウモロコシの輸出が前年比75%増加すると予測している。

「大きな商機だ」とトウモロコシ生産者協会のセザリオ・ラマーリョ会長は話す。「ブラジルでの生産拡大のために、非常に魅力的な価格になっている」

一方、アルゼンチンの肥沃なパンパ地域の農家は、ひまわり油の供給の混乱を受けて栽培量を増やしている。ひまわりは乾燥した土地でも育ち、肥料も少なくてすむ。化成肥料の価格が上昇しており、今年は雨が少ないとの予報も農家にとっては追加のインセンティブ(誘因)となっている。
アルゼンチンでの増産には多くの課題も

だが、アルゼンチン政府に批判的な人々は、国家の介入や50%を超えるインフレが農業セクターでの新たな動きを妨げていると指摘する。

また、輸出品への最大33%の関税やパンなど一部品目への価格統制といった厳しい保護主義的政策や外国為替相場の混乱で、農家が国内の状況が落ち着くまで様子を見る可能性もあると主張している。

「増産の合図が生産者に届かないリスクがある。これはアルゼンチンだけでなく誰にとっても良いことではない」と国内最大の農業経営グループ、ロス・グロボを率いるグスタボ・グロボコパテル氏は話した。「アルゼンチンの農業生産は現在の水準より40%高くあるべきだ」

さらにアルゼンチンではディーゼル燃料不足でトラック運転手がストを決行した。収穫作業や輸送への影響も懸念されている。

南米は世界有数の肥沃な地帯だが、農業生産の伸びの鈍化や経済的打撃をもたらした深刻な干ばつからの回復途上にある。

ブラジルではウクライナ侵攻開始前から価格が上昇していた肥料が特に懸念材料となっている。国内で消費する肥料の85%を輸入に頼っており、その約4分の1はロシアから購入している。

「9月の作付け時期に肥料が手に入るかが大きな問題となる。不足すれば生産性の低下につながりかねない」。ABAGのカルバリョ氏は「深く懸念している」と言う。
畜産業者は国内消費の落ち込みで苦境に

耕作農家を潤す商品価格の高騰は、一方で穀物を飼料として使う畜産業者を厳しい状況に置く。

世界最大の牛肉と鶏肉の輸出国であるブラジルは、ウクライナ侵攻で失われた供給を補完できるとアナリストは指摘した。

だが、食肉の一部では、海外需要が増えても、生産コストの上昇と国内の購買力低下を相殺できないのが現状だ。インフレ率が2桁に達するなか、低所得層は生活必需品を買い控えている。

ブラジル中西部のゴイアス州で養豚業を営むエウクリデス・コステナロさんは供給過剰と売却価格の低下に苦しんでいる。同業者と同様、飼育頭数を5000頭から3800頭に削減した。

「どの生産者も1頭転売するたびに200〜350レアル(約5500円〜9600円)の損失を出している。これほど深刻な影響はこれまで経験したことがない」

エスピリトサント州で3000頭の牛を飼育するナビ・アミン・エル・アワールさんのような牧場経営者も困難に直面している。

「輸出は増えたが、国内消費の落ち込みを完全に補うほどではない」

By Michael Pooler, Bryan Harris and Lucinda Elliott

(2022年4月18日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2022. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation. 』