中国、台湾攻略のシナリオ練り直し ウクライナ長期化で

中国、台湾攻略のシナリオ練り直し ウクライナ長期化で
「台北の短期制圧は困難」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM113VY0R10C22A4000000/

『中国の習近平(シー・ジンピン)指導部が台湾攻略のシナリオ練り直しを迫られている。ロシアによるウクライナ侵攻の長期化を受け、従来の想定よりも中心都市台北の制圧は困難との認識が広がっているためだ。当面は台湾の「独立派」を封じ込め、米軍の介入を抑止するための核戦力増強に注力することになりそうだ。

「仰ぎ見てきたロシア軍が苦戦している現状は党内にも大きな衝撃を与えている」。ベテラン共産党員は打ち明ける。

ロシア軍は2月24日、隣国ウクライナに北部、南部、東部の3方面から侵攻した。ロシアのプーチン大統領は情報機関の楽観シナリオを信じ、数日間で首都キーウ(キエフ)を制圧、ゼレンスキー政権を転覆させる短期決着を思い描いていたとされる。

実際にはウクライナ側は各地で激しく抵抗し、北部ではキーウへの進軍を図ったロシア軍を押し戻すことに成功した。ロシア軍は東部・南部の制圧へと作戦の切り替えを余儀なくされている。

中国の軍事関係筋の話や日本の安全保障の専門家の分析をまとめると、中国の台湾侵攻計画もまた短期決着を想定して練り上げられてきた。

まずサイバー攻撃で通信インフラなどを機能不全にし、短距離弾道ミサイルや巡航ミサイルで防空システムや空軍基地を破壊し無力化を狙う。制空権を確保したうえで海と空から兵員や戦略物資を大量に送り込むというものだ。

台湾から約600キロメートル離れた沖縄本島には在日米軍が駐留する。中国の軍事関係筋は、侵攻時に米国が国内手続きを終えて軍を台湾に送るまでに必要な期間を「7日間程度」と見積もる。米軍到着前に台北を落とすことが作戦の成否を握る。

ところが、中国人民解放軍OBによると、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化でこのシナリオに「黄信号」がともっているという。

軍内の認識が特に新たになったのが、台北攻略の難しさだ。台北市の人口は約260万人とキーウ(約290万人)とほぼ同規模だ。しかし、台北市の人口密度はキーウの3倍近い。

そのうえ台北市をドーナツ状に取り囲む新北市には約400万人が暮らす。上陸作戦がうまくいったとしても、台北市内への進軍で相当数の民間人が巻き添えとなるのは避けられない。

民間人の犠牲を抑えようと、慎重に攻撃を進めれば米軍の到着を許してしまう。台湾軍や市民の抵抗を排除しながら蔡英文(ツァイ・インウェン)総統を捕らえる「斬首作戦」の実行はさらに難しい。

台湾海峡は幅にして百数十キロメートルもあるうえに、潮流が速い。海峡を渡って上陸する作戦に適した時期は4、10月などの2、3カ月しかない。台湾軍も巡航ミサイルや地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)などの配備を急ピッチで進めている。ウクライナ危機を契機に「海峡を越える難しさが改めて認識されるようになった」(解放軍OB)。

3月5日に公表した政府活動報告で習指導部は「新時代の台湾問題解決の総合的な方策を貫徹する」と初めて書き込んだ。平和統一を軸にしながらも武力行使の可能性を排除しないと示唆したと受け止められている。

習氏は2022年秋の共産党大会で党トップとして異例の3期目入りが確実視されている。その任期が切れる27年までの台湾侵攻決断がかねて危険視されてきた。表向きの強硬姿勢は維持するが、シナリオの練り直しを迫られた。今後はどのような選択肢があるのか。

中国の安全保障問題に詳しい東大の松田康博教授は「台湾の武力統一のハードルが上がっただけに中国は核による軍拡スピードを加速させる」と予想する。巨大な核戦力を構築して米国の介入を退け「独立派」を封じ込めるとの見立てだ。

防衛研究所地域研究部長の門間理良氏は「台湾本島の攻撃を見込みにくくなった習指導部が実績づくりのため、(台湾の南西に位置し、台湾が実効支配している)東沙諸島の奪還に動くシナリオも捨てきれない」と警鐘を鳴らす。

(北京=羽田野主)

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