ウクライナ緊迫、穀物相場に火種小麦・トウモロコシ高値圏、急騰なら中東不安定化も

ウクライナ緊迫、穀物相場に火種
小麦・トウモロコシ高値圏、急騰なら中東不安定化も
2022年2月12日 2:00
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO80089900R10C22A2EA3000/

『緊迫するウクライナ情勢が農産物相場高騰の火種となっている。ロシアは世界最大の小麦輸出国、ウクライナは小麦やトウモロコシなどの幅広い農産物を供給する。有事となれば、両国からの農作物の供給が減る懸念がある。相場が跳ね上がれば、両国産の穀物に依存する中東の政情不安や、一段のインフレ圧力に見舞われる恐れがある。(1面参照)

国際指標の米シカゴ商品取引所のトウモロコシ先物(期近)は1ブッシェル6.2ドル前後と前年比で1割強ほどの高値圏にある。小麦先物(同)は1ブッシェル7.6ドル前後と前年比2割高い。1月下旬に一時8.3ドル台まで急騰、2021年11月につけた9年ぶり高値の8.6ドル台に迫るなど、穀物相場は神経質な動きが続く。

市場関係者が注視するのは、穀倉地帯を揺るがしかねないウクライナ情勢だ。約10万人のロシア軍がウクライナと国境付近に展開中とされ、侵攻を防ぎたい米欧とロシアのけん制が続いている。

世界の小麦生産シェアをみるとロシアは1割、輸出シェアは2割を持つ最大輸出国だ。ウクライナは小麦で1割と世界5位。トウモロコシでも1割強を占める。食用に使われるひまわり油や、主に飼料用に使われる大麦でも高いシェアを誇る。

世界最大の小麦輸入国であるエジプトはロシアから6割、ウクライナから3割弱を調達。中東・北アフリカは小麦の世界最大の需要地域だ。水資源に乏しいため、穀物は輸入に頼る。ウクライナのトウモロコシの輸出先は中国が3割を占める。両国は世界の食糧安全保障に重要な役割を担う。

ロシアの産地は、ウクライナとの国境に近い南西部に集中している。ウクライナは全土に肥沃な黒土が広がり、中央部や南部で小麦やトウモロコシなどを生産している。

有事となれば、農作物の産地への被害や黒海沿岸の港から世界への穀物輸送にも影響が及ぶ恐れがある。米欧の制裁はロシアからの穀物輸出を制限しかねない。

世界の小麦市場は人口増加や所得向上による生活水準の上昇から、需要拡大が続く。主要生産国のカナダや米国は高温乾燥で21~22年度の生産量が前年度に比べて減る見込みだ。世界の小麦の同年度の期末在庫は3年ぶりの低水準になる見通し。ウクライナ情勢の悪化が重なれば、一段と需給が逼迫する事態となる。

トウモロコシも需給が引き締まりやすい。世界2位の輸出国ブラジルは高温乾燥に見舞われ、21~22年度の生産量見通しの下方修正が続く。ウクライナ情勢は市場関係者にとって「不安要因」(グリーン・カウンティの大本尚之代表)という。

世界最大の養豚国の中国は、最大のトウモロコシ輸入国だ。主に家畜の餌として使っている。輸入量の約3割をウクライナに依存。農林中金総合研究所の阮蔚理事研究員は「ウクライナ産は遺伝子非組み換えで、比較的価格が安い」という。

ウクライナからの供給が急減すれば、中国は最大の輸入先の米国から調達を増やすとみられる。中国が家畜伝染病のアフリカ豚熱(ASF)で減った豚の増産を目指して米国産の輸入を増やした20年から、トウモロコシの国際相場は上昇した。

市場では「ロシア、ウクライナの穀物の輸出量は膨大で、紛争となれば価格が急騰する可能性がある」との声も出ている。ロシアのプーチン大統領が14年3月にウクライナのクリミア半島を併合すると表明するまでの2カ月ほどで、小麦の国際相場は20%強上昇した。

食料インフレは家計を直撃する。特に途上国には打撃だ。国連食糧農業機関(FAO)が3日発表した1月の世界の食料価格指数(14~16年=100)は135.7と21年12月に比べ約1%上昇。パン高騰などに怒った民衆が独裁政権を打倒した「アラブの春」が起きていた11年2月の最高値137.6に迫る。穀物高は中東地域を不安定化させかねない。

足元の原油価格の高止まりに食料高が加われば、インフレ圧力は一段と強まる。世界の主要中央銀行が金融引き締めを強めれば、新型コロナウイルス禍からの回復途上にある脆弱な世界景気を腰折れさせる恐れがある。

(皆上晃一、黒瀬幸葉)』