[FT]極端に少ない中国のコロナ死者 真実を覆う公式統計

[FT]極端に少ない中国のコロナ死者 真実を覆う公式統計
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB183NA0Y2A410C2000000/

『中国による新型コロナウイルスの感染者数の分類方法や死者数の報告方法のせいで、変異型「オミクロン型」の真の影響が見極めにくく、パンデミック(世界的大流行)から2年以上たつのに公衆衛生上の対処を難しくしている――。複数の医療専門家は指摘する。
上海の医療施設に運び込まれる酸素ボンベ=ロイター

中国当局の報告では、3月1日以降の新型コロナの新規感染者数は44万3000人を超えているが、死者数はわずか2人でともに北東部吉林省の患者だ。人口2600万人の上海市では2週間近く、1日2万人を超える新規感染者が報告されているが、死者はゼロだ。もっとも、何人もの市民がフィナンシャル・タイムズ(FT)の取材に対し、身内が検査で陽性と判定された後、死亡したと話している。

他国と異なる死者数の数え方に問題

専門家らは中国の公式発表で死者数が少ないのは数え方に問題があるためで、実際にはもっと多いとみている。

新型コロナの死者数を正確に評価するのは難しいと専門家は指摘する。公式発表の感染者数が信頼できず、ワクチンの効果が不透明な上に、中国の死亡数全体についての公開データもないからだ。

公式発表への疑念から、中国政府の新型コロナ対応への批判が再燃する可能性がある。中国政府は2020年初め、武漢から始まった感染拡大を軽視していたとして批判を浴びた。

香港大学の金冬雁教授(ウイルス学)は、米国や香港などでは新型コロナ感染後に死亡した人を死者に含めるが、中国本土では異なる数え方をすると話す。

中国の病院では新型コロナの感染者でも、がん、心臓病や糖尿病などの慢性疾患を死因にする傾向があり、こうした患者は新型コロナの死者数に含まれないという。

金氏は「死者数は正確ではないが、上海の病院が意図的に除外しているとは限らない。中国はもともとこうした数え方をする」と語った。

英オックスフォード大学のチェン・ゼンミン教授(疫学)は、中国は新型コロナの感染拡大前から西側諸国に比べてインフルエンザの死者数が少なかったと指摘する。

意図的な隠蔽とはいえないものの

「これは故意の隠蔽とはいいがたい。むしろ、中国では感染症での死亡診断プロセスが限られていると言えそうだ」

米ワシントン大学(ミズーリ州セントルイス)のマイ・ハー准教授(病理学、免疫学)は、中国政府は自国のコロナ対策が西側諸国よりも優れていることを示すため「統計をごまかしている」と主張する。

「(まん延している)都市やウイルスの型は変化しており、パンデミックから丸2年がたっているが、中国での透明性の欠如と科学や医学への政治的圧力は変わらない」と同氏は批判した。

オミクロン型の感染拡大による死者数への疑念は、20年の武漢での感染拡大への懸念に通じるものがある。

中国政府の疾病対策機関に所属する研究者らは英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)で発表した論文で、20年1~3月の武漢での新型コロナの実際の死者数は公式発表よりも少なくとも16%多いと推計した。

英誌エコノミストの分析では、この期間の武漢での平年の死者数を上回る「超過死亡」は1万3400人と結論づけた。これは新型コロナの公式の死者数の3倍以上に上る。

新型コロナの影響を実際よりも少ないか誤って報告していると非難されているのは中国だけではない。英医学誌ランセットに掲載されたある研究では、世界の新型コロナの死者数は公式統計の3倍に上る可能性があるとしている。

報告が届くまでに時間がかかるシステム

他の国でもみられる報告の遅れも、中国で死者数が少ないという事態に一役買っている可能性がある。チェン氏は「死者数が統計システムに伝わるまでに時間がかかる」と指摘する。

チェン氏は中国でのオミクロン型の感染拡大により、今後数週間で中国の死亡率は西側諸国を上回り、死者数も増えるとみている。中国では感染者数が多く、3回のワクチン接種を完了していない高齢者の「割合が非常に高い」からだ。

上海での無症状者と有症状者の分け方も、当局がオミクロン型の上海への影響を正確に把握できていない一因だと専門家は指摘する。公式発表では新規感染者数の大部分が無症状者で、この1週間の上海での新規感染者の92%以上を占めている。

中国疾病予防コントロールセンター(中国CDC)に近いある当局者は、上海がどの程度感染拡大が続くかを正確に予測できないのは、有症状者の数が実際よりもかなり少なく数えられていたことも原因だと明かす。

この人物によると、上海は肺の画像診断で感染が確認された場合にしか患者を「有症状」と判断しない。つまり、検査で陽性と判定され、風邪のような症状がある数万人は、他の多くの国とは違い「無症状」と記録される。

中国CDCと上海支部にコメントを求めたが、回答はなかった。

削除された高齢者施設での大量死亡の情報

中国の死者数の数え方のせいで、死因も分からないまま愛する家族を奪われた人もいる。
上海にある高齢者介護施設「上海市東海老年護理医院」の入居者の家族によると、同施設ではここ数週間で少なくとも27人が新型コロナ検査で陽性と判定された後に死亡した。

73歳の入居者の娘である女性は、この施設でオミクロン型の集団感染が発生し、多くのスタッフが隔離を余儀なくされていた3月24日、父親が陽性判定を受けたと語った。

「父は13年に脳卒中で倒れた後、話すことも動くこともできなかったので、心配していた」とこの女性は話した。「病院にも施設にも連絡がつかなかったが、30日に施設の医師から電話があり、父が亡くなったと告げられた」

新型コロナの集団感染で入居者が死亡したかについてこの施設にコメントを求めたが、回答はなかった。

中国当局はこの施設の入居者の死を巡る市民の議論を封じようとしている。地元のオンラインメディアの集団感染についての報道はことごとく削除された。

ある男性は、この施設に入居していた母親が死亡し、賠償金として1万5000元(約30万円)を提示されたが、見返りにSNS(交流サイト)に投稿した不満を削除しなくてはならなかったと明かす。

地元の警察からも中国のイメージを損なうコメントを投稿しないよう警告されたという。
「本当のことを言っただけなのに。家族が死んでもなぜこれが許されないのか」。男性は悔しさをにじませた。

By Eleanor Olcott, Sun Yu, Oliver Barnes and Andy Lin

(2022年4月17日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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