ウクライナ危機で3シナリオ 東西再分裂・ロシア政変…

ウクライナ危機で3シナリオ 東西再分裂・ロシア政変…
2.24の先に待つ世界(中)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM091TT0Z00C22A4000000/

『2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、間もなく2カ月が経過するが、双方に甚大な犠牲を出しつつも戦闘はなお続いている。国際秩序を揺るがし、世界経済に多大な影響を及ぼしているウクライナ情勢は今後いかなる展開をみせ、世界をどう変えうるのか。

【前回記事】地政学が変える投資地図、世界のリスク総点検

シナリオ① 再び東西分断

考えられる第一のシナリオは、世界が再び冷戦時代のような東西分断期に入るというものだ。

ロシアのプーチン政権は短期間でウクライナ全土を制圧し、親ロシア派の新政権を樹立するという当初のもくろみをくつがえされた。ロシア軍は装備、軍費、部隊の軍紀や士気などさまざまな面で問題を露呈しており、西側諸国の制裁でロシア経済も今後時間が経過するほどダメージが深く、大きくなる。

ここにきて注目すべきは、ロシアのペスコフ大統領報道官が「特別軍事作戦は見通しうる将来に終わるかもしれない」と述べたことだ。考えられるのは、第2次世界大戦での対ドイツ戦勝記念日である5月9日といった節目で、東部2州などをロシアに正式に併合すると宣言して戦闘終結の「大義名分」とし、何らかの停戦合意をウクライナと結ぶ展開だ。

だが、ロシア側が東部の占領を続け、バイデン米大統領が「戦争犯罪人」と非難するプーチン氏が大統領の座に居座り続ける限り、米欧日などがすぐに対ロ制裁解除に動くこともないだろう。

既に外資のロシア撤退が相次いでいるが、次第にロシアを支援する中国などへの投資を敬遠する動きが出かねない。世界は民主主義諸国と強権諸国の間に深い溝が走る冷戦時代のような東西分断期に再突入する。

シナリオ② ロシアで政変

2つ目のシナリオは、戦闘を続けることでロシアの経済的な窮状が深刻化。これが引き金となってプーチン政権の基盤が揺らぎ、最終的に新たな政権にとって代わられるという展開だ。

プーチン大統領はウクライナ侵攻の引き金を引いた=ロイター

「ロシア国民は圧政と貧困に耐えるのに慣れている」としばしば指摘される。ただ、かつてのソ連と現在のロシアには大きな違いがある。それは、この約30年間にいったんは世界経済とつながることで財閥は資源輸出で大いに潤い、一般国民も西側の商品やサービスの良さを知ってしまったということだ。

ロシア人が再び豊かさを手にするには、ウクライナ侵攻の引き金を引いたプーチン政権を転覆させるのが最も効果的だ。民主主義や自由を志向する若年層の存在は、ソ連時代にはほとんど見られなかったもので、冷戦末期に中・東欧諸国で旧共産政権が相次ぎ倒れたように、ロシアも民主化に向かう可能性は十分ある。米欧日は民主化の動きを支援するため、制裁を早期に解除する可能性が高い。

一方、プーチン政権は倒れるものの、別の新たな独裁政権が誕生する展開もありうる。注意が必要なのは、新独裁政権が向かうのは「ウクライナから手を引き、制裁解除を経て世界経済に復帰」という形と、「ウクライナの部分占領を続けるために制裁は解除されず、西側から分断された状態が続く」の2種類が考えられるということだ。

シナリオ③ 第3次世界大戦

プーチン大統領はウクライナでの作戦を統括する司令官として、ドボルニコフ氏を新たに任命した。同氏はロシアが軍事介入したシリアでの作戦を指揮し、市街地への爆撃で多数の市民を死傷させたとされる。同様にウクライナでも、市民の犠牲を無視して東部や南部で占領地域の拡大を図る恐れがある。

ロシア軍のドボルニコフ司令官はシリアで多くの市民を殺傷した=タス・共同

一方、首都キーウ(キエフ)近郊でのロシア軍による市民虐殺の疑いが明らかになり、欧米諸国はウクライナに対する武器の供与を拡大している。その中には軍用ヘリや火砲などが含まれており、軍備が充実したウクライナ軍は東部や南部でも反攻に転じる可能性がある。

その場合、戦闘は終息するどころか逆にエスカレートしかねない。懸念されるのはロシア軍がウクライナ軍の反攻を食い止めるため、生物化学兵器や核兵器などの大量破壊兵器の使用に踏み切る展開だ。実際、ロシア軍が猛攻をかけている東部のマリウポリでは、化学兵器が使用されたとの情報も出ている。

核兵器となると、カギを握るのはドボルニコフ司令官ではなく、プーチン大統領の判断だろう。大統領はすでにウクライナでの核兵器の使用をちらつかせており、威力が比較的小さな戦術核兵器であれば、その可能性は完全には排除できない。

万が一核兵器が使用されれば、米欧がさらにウクライナ支援を拡充し、反発したロシアがポーランドの北大西洋条約機構(NATO)の拠点を攻撃するような事態が起きかねない。その場合、欧州以外にも戦闘が広がり、「第3次世界大戦」という最悪の展開が懸念される。

ロシアと米国は日本周辺の太平洋海域でもにらみ合っており、米ロの直接衝突となれば日本も巻き込まれる恐れがある。

全ての可能性を視野に危機管理を

世界の大方の人々や市場にとって、ロシアの民主化を経て世界経済が元の状態に戻るシナリオ②が最も望ましい展開なのは確かだろう。

一方、シナリオ①は、環境は今より大きく変化するものの、未体験の世界でもない。東西世界が経済的にはあまりつながっていなかった冷戦時代に戻ることになるからだ。

今のところ確率は低そうだが、戦争がウクライナ以外に広がるシナリオ③が現実となれば、世界が受けるダメージは計り知れない。

市場関係者にとって重要なのは各シナリオの確率を予測するだけでなく、どの展開になっても対応できるよう備えることだろう。特定のシナリオだけを前提にするのは危機管理ではない。

(編集委員 高坂哲郎)

=つづく

[日経ヴェリタス2022年4月17日号より抜粋]
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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

ややざっくりとしたシナリオの分類で、このほかにもシナリオはありそうな気はする。

一番の可能性は戦争の長期化から膠着状態となり、そのままウクライナ東部とクリミア半島を結ぶ回廊がロシアの支配の下に入り、その状態が固定されること。対ロ制裁は継続されるが、エネルギーの輸出は継続し、ロシア経済は縮小しつつも安定化する、というパターン。

2022年4月18日 11:34』