中国、制裁に身構え 人民銀元委員「外準凍結は想定外」

中国、制裁に身構え 人民銀元委員「外準凍結は想定外」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB138WH0T10C22A4000000/

『【香港=周衛】ウクライナに侵攻したロシアの外貨準備(金を含む)の半分を凍結した米欧の制裁は、中国にとっても衝撃だった。

中国の海外資産もいずれ標的になり得るという厳しい現実を突きつけられた。

ロシアを助ける場合だけでなく、「統一」を目指して台湾に侵攻しても米欧の猛反発は確実だ。独自の送金網を整備し、世界最大の外貨準備の「脱ドル」を目指すが、課題は山積する。

外貨準備の半分以上はドル建て

米財務省によると、中国は約3兆ドル(約380兆円)の外貨準備のうち1兆ドルあまりを米国債で保有する。中国国家外貨管理局(SAFE)の直近のデータで、外貨準備の半分以上はドル建て資産だ。2016年の比率は59%だった。この配分を巡り中国では議論が盛んになっている。制裁を想定し、自国の金融システムの耐性を強める中国の取り組みは、世界経済に大きな影響を与えるかもしれない。

中国の著名エコノミストで、中国人民銀行(中央銀行)の金融政策委員を務めた余永定氏は日本経済新聞に対し「私たちはショックを受けている」と述べ、制裁によるロシアの外貨準備の凍結に言及した。「米国が外国の外貨準備を凍結するとは予想もしていなかった。国際通貨システムにおける国家間の信頼が失われた形だ」

北京のシンクタンク、中国グローバル化研究センター(CCG)の上級研究員で、外交官として米国に赴任した経験がある何偉文氏は「中国にとって、対ロシア制裁は人ごとではない」と話す。「仮に米国が中国を壊滅させるような制裁を科すならば、こんな形になるだろう。だからこそ、備えなくてはならない」

香港国安法の施行でSWIFT排除の議論

20年に「香港国家安全維持法」が施行された際、中国は世界の金融システムから排除されかけた。

中国の銀行を国際決済網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から退出させるべきだとの声があがったのだ。実際に締め出された銀行はなかったが、SWIFTから排除された場合の対策を巡る議論は続いている。

中国は15年、世界での人民元の利用を進める名目で、独自の国際銀行間決済システム(CIPS)を稼働させた。SWIFTの代替システムだと受け止められている。

中国人民銀行の本店(北京)=AP

だが、中国政府による資本規制が障害となり、CIPSはそれほど使われていない。人民元は外国通貨と自由に両替できず、人民元の国際化というCIPSの目的とは相いれないからだ。

足元の地政学上の緊張を受け、中国の専門家は政府に対し、ドル建て資産をほかの形に分散し、人民元の国際化と「デジタル人民元」の国境を越えた決済での利用を加速させるよう求めている。長期的にはドル基軸体制の変更を目指すべきだとの提言だ。

CCGの何氏は中国の銀行が、ロシアの武器購入を助ける金融サービスを提供することはないとみている。だが、軍民両用製品を巡る問題が残る。こうした製品が軍事でも有効だと米欧が解釈すれば、中国の銀行の何行かに二次制裁が科されかねない。

中国独自の決済網「CIPS」創設

中国は12年、CIPS創設に乗り出した。イランが核開発を非難され、SWIFTから排除された1カ月後、中国政府は「人民元の国際化」を名目にCIPSを設ける計画を発表した。

その3年半後、どんよりとした肌寒い秋の朝に上海で開かれたCIPSの発足式で、後に失脚した証券当局トップの劉士余氏など4人の当局者が大きな水晶の球を押した。

CIPSのおかげで、外国銀行は中国の銀行とやりとりして人民元市場にアクセスし、決済できるようになった。中国の広域経済圏構想「一帯一路」に参加する国の間での人民元の利用を促す狙いもある。

CIPSには大きな欠陥がある。香港ドルに対応する場合もあるが、主に人民元で決済される点だ。これがCIPSの利用が広がらない根本の原因になっている。人民元は外国通貨と自由に交換できないため、ドル、ユーロ、円に比べると資産としての魅力に欠ける。

北京でのイベントで公開されたデジタル人民元の見本(2021年9月)=AP

人民元の地位はこの10年で高まったが、世界の決済に占める割合はドルやユーロに遠く及ばない。その割合は2月、ドルとユーロの合計で76.6%だった。一方、SWIFTのデータでは、人民元が2.2%で、5番目に取引が多い通貨にとどまった。

CIPSがSWIFTの代わりを十分に果たすには、中国がもっと多くの外国銀行の直接参加を認める必要があると、米戦略国際問題研究所(CSIS)経済プログラムのディピッポ上級研究員は指摘する。その場合には、海外での人民元の利用を完全には統制できなくなるだろうとも付け加えた。

CIPSの利用は年々増えており、3月は1日あたりの取引が1万4150件で、1年前から18%増えた。SWIFTは同平均4000万件あまりなので、それに比べればわずかだ。

中国の複数の当局者は、まず人民元の国際化に力を入れ、それからほかの通貨も扱うことで、CIPSを様々な通貨の決済を扱う中国の金融ツールにできればよいと指摘する。

米欧の制裁がロシア経済に極めて大きな打撃を与えている様子をみて、中国の複数の専門家は制裁の影響を緩める対抗策について議論している。

北京大学法学院の郭靂副院長は3月、北京でのセミナーで、主に米国が科す制裁に対応するには、短期では特別銀行の設立やバーター取引の活用、中期でCIPSとデジタル人民元の整備、長期ではドル覇権の解体を目指すべきだと主張した。

サウジは人民元建ての原油販売を検討

最近の報道によると、サウジアラビアは中国への原油販売を人民元建てで決済することを検討している。

サウジの原油輸出の25%あまりが中国向けだ。中国が代金を人民元で支払い、サウジがこれで中国国債を購入すれば、人民元建ての原油取引「ペトロユアン(石油と人民元を掛け合わせた造語)」が増え、人民元の価値が大きく上昇してほかの国も続くようになる――。オーストラリアの銀行大手オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)のアナリストは投資家向けのメモで、こう予測した。

ロシア下院の金融市場委員会のアクサコフ委員長は3月、ロシアと中国が銀行決済網の相互接続について協議していると明らかにした。

キーウ(キエフ)近郊のブチャで、破壊されたロシアの軍用車両のそばを歩くウクライナの兵士ら(6日)=ロイター

中国政府の顧問で中国人民大学教授の時殷弘氏は「CIPSは、SWIFTがなければ何も解決できないというのが現時点での共通認識だ。中国がロシアを支援し、制裁に苦しむリスクをおかすことはない」と明言した。

イエレン米財務長官は4月6日の議会証言で、仮に中国が台湾に侵攻した場合、バイデン米政権は中国にあらゆる制裁を行使する用意があると語った。

CSISのディピッポ氏は、中国が台湾を攻撃した場合、人民銀を含めた中国の銀行がSWIFTから締め出される可能性はあると指摘した。

ロシアに科された制裁が中国に向かう場合、米国は本当に中国の外貨準備を凍結できるのか。中国銀行の副行長(副頭取)だった王永利氏は最近の記事で、中国の外貨準備の大半は米欧にあると明らかにした。

王氏はさらに、中国が(制裁に際して)保有する米国債を売却したり、金を買いだめしたりする可能性があるとの見方に反論した。

米国は人民銀の外貨準備凍結に慎重

実際には、SAFEのデータによれば、中国は近年、外貨準備を徐々に多角化し、ドル建て資産のリスク管理の一環として金を買い入れている。中国が発表した最新のデータでは16年の外貨準備に占めるドルの比率は59%で、世界平均の65%あまりを下回った。

米財務省の外国資産管理局(OFAC)の局長上級顧問を務めた米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのブライアン・オトゥール上級研究員は、米国は中国との貿易を停止することで経済成長を阻害したくはないので、(制裁を科す場合でも)人民銀の外貨準備の凍結には極めて慎重になるだろうとの見方を示した。

足元で中国の外貨準備がリスクにさらされているわけではないが、国際金融は一段と不安定になりそうな雲行きだ。

制裁を受けている国は貿易や投資について、自分たちの枠組みを優先する可能性がある。
ロシアはすでに新興国グループ「BRICS」を構成するインド、中国などの国々にそれぞれの通貨の利用拡大と決済システムの統合を呼びかけている。

インドは石油や軍の装備品の取引で、ロシアが14年に稼働させたロシア版SWIFTである「SPFS」の利用を検討していると伝えられる。

この記事の英文をNikkei Asiaで読む

Nikkei Asia https://asia.nikkei.com/Spotlight/The-Big-Story/China-scrambles-for-cover-from-West-s-financial-weapons/?n_cid=DSBNNAR 』