[FT]チリの新憲法制定に暗雲 国民の支持率が過去最低に

[FT]チリの新憲法制定に暗雲 国民の支持率が過去最低に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB152S40V10C22A4000000/

※ 今日は、こんなところで…。

『南米チリの新憲法の草案策定をめぐり、国民のいらだちがにわかに高まってきた。年内の国民投票を前に、投資家を優遇する急進的な草案が盛り込まれるのではないかとの不安が広がっている。

新憲法草案で中絶の権利が認められていないことに抗議する右派の活動家=ロイター

21世紀のチリにふさわしい憲法をつくろうとの機運が高まったのは2019年10月の大規模な反政府デモがきっかけ。格差や劣悪な公共サービス対する怒りを爆発させた国民が変革を求めて各地で街頭デモを繰り広げた。

草案策定に着手して9カ月が経過した今、当初の理念は複雑な起草作業という現実に突き当たり、多くの国民が危機感を抱いている。

チリの調査会社カデムによる4月の世論調査では、草案をめぐる審議が大詰めを迎えるなかで憲法改正を支持する人の割合は46%と過去最低に落ち込んだ。新憲法の採択を問う国民投票は9月初旬に予定されており、7月までには全ての条項の審議、承認、草案策定を終える必要がある。

「彼らは憲法ではなく、法令を作ろうとしているかのようだ」。チリ大学の政治学者ロバート・ファンク氏はフィナンシャル・タイムズ(FT)紙にこう語った。「懸案事項を並べているが、世論調査によれば、彼らが重点的に討議している問題は国民の最大の関心事とは言えないようだ」

まだ承認前だが、上程された草案には資源の国有化や大麻の合法化、議会上下院の権力分立の廃止などが盛り込まれている。

議員は多彩な顔ぶれ

昨年5月の選挙で155人が制憲議会の議員に選ばれたが、公職経験のない無党派層出身者が多い=ロイター

制憲議会の白熱した議論は首都サンティアゴ市内にある新古典主義の建物から生中継されるが、議員は学校教師や医師、先住民族の代表、ソーシャルワーカーなどの顔群れで、政治経験の未熟さや理想主義に傾きがちな性向が際立っている。1月にはほぼ丸2日間議論した揚げ句、議長を指名できなかった。

社会党所属の制憲議会議員で弁護士のリカルド・モンテロ氏はFTに対し、「現時点では収拾が付かず、多くの事柄がまだ検討中だ」と述べ、多彩な顔ぶれの議員がガラス張りの議論をすること自体に制憲作業をする価値があると強調した。

「制憲議会は(約800年前に英国民の権利を定めた)マグナカルタではなく、新たな社会契約を策定しようとしている。国民が皆より良く暮らせるよう、あらゆる立場の人たちが議論しているのだ」

リカルド・ゴンザレス・ガイヤーさん(69)はピノチェト軍政下で制定された現行憲法の改正には賛成だが、手続きに問題があると話した。

ガイヤーさんは「制憲議会の議員構成にはうなずけない」と言う。155人の議員はコロナ下の21年5月に選挙で選ばれたが、公職経験のない無党派層出身者が多い。「国民投票の前に草案をじっくり読むつもりだ」とガイヤーさんは付け加えた。

元上院議員でバチェレ元大統領率いる中道左派連合に所属していたフェリペ・ハーボー議員も、議会では左派寄りの議員が多数を占めており全国民を代表していないと認める。

草案作りに対する信頼の低下は3月上旬に発足したばかりの左派政権にとって打撃だ。

大統領は公約実現の好機

ボリッチ大統領は新憲法制定を自らの進歩的な政策課題を法制化する好機と捉えている=ロイター

保守派のピニェラ前大統領(72)の後を継いだボリッチ大統領(36歳)は新憲法制定を自らの進歩的な政策課題を法制化する好機と捉えている。

ボリッチ氏は経済分野での国の役割を拡大し、より環境に優しく全国民に恩恵をもたらす経済成長を実現すると公約し、7月までに新憲法草案の策定を求められている制憲議会の支持に回った。

だが、ボリッチ氏も問題を抱えている。インフレの加速と金利の上昇を背景にチリ経済が減速するなか、ミレニアル世代の若き大統領の支持率が4月の世論調査で50%を割ったのだ。

原油輸入価格の上昇が物価に波及し、3月のインフレ率は年9.4%と08年以来の高水準に達した。中央銀行は同月、22年の予想成長率を1〜2%に下方修正した。前年は11.9%だった。
国民は新憲法の採否を9月4日に決める。この日は1973年に軍事クーデターが起きるまで伝統的に大統領選の投票が行われてた。新憲法が否決された場合、軍政下の1980年に制定された現行憲法が存続する。

米ニューヨーク大学の政治学者パトリシオ・ナビア氏はボリッチ政権について、あらゆる有権者層を満足させ、選挙公約した社会的目標のほほ全てを達成したがっていると指摘する。

「サンタへのお願いのように誰にでも届くプレゼントはあるだろうが、つまるところ(憲法で)何でも決められるわけではない」とナビア氏は言う。チリにとって大きなリスクとなるのは、時に矛盾を生じる権利や規定を不明確なままにして、外国からの投資決定が先送りされてしまうことだという。

神経とがらせる経済界

経済界は大幅増税や鉱山会社への環境規制強化に早くも神経をとがらせている。ある国際的な資源大手は匿名を条件に、今後の法改正を恐れた経営陣がサンティアゴに担当者を派遣し、改憲作業を詳細に監視させていると明かした。

専門家によると、制憲議会に対する支持率が低下している一因は有権者とのコミュニケーション不足にある。一方、改憲反対派はメディアやSNS(交流サイト)を通じて積極的にキャンペーンを展開している。

「まだどうなるか分からないが、政府は新憲法否決を真剣に考え始める必要がある」とチリ大学のファンク氏は言う。「(19年の)社会的暴動は完全に終結したわけではない。再発の可能性も十分にある」

新憲法制定への流れ

制憲議会では環境や司法、政治システムなど分野別の7委員会で構成。

各委員会が単純過半数で承認した事案は全体会議に回り、そこで3分の2の賛成を得た場合、新憲法草案に盛り込まれる。

否決された事案は修正を加えて本会議で再投票にかけることも可能。

草案策定後60日以内に国民投票を実施。投票は9月4日で、否決の場合には1980年制定の現行憲法が存続する。

By Lucinda Elliot

(2022年4月14日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2022. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.』