[FT]スリランカ、経済危機で揺らぐ大統領一族の支配

[FT]スリランカ、経済危機で揺らぐ大統領一族の支配
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『最大都市コロンボでの数千人規模の抗議デモ、食料・燃料価格の高騰、そして政府債務の返済の一時停止という前例のない事態――。南アジアの島国スリランカで深刻化する経済危機は、ラジャパクサ一族が牛耳る政治体制を揺るがしている。

スリランカ大統領府の近くで雄たけびをあげるデモ参加者=ロイター

デモ隊はゴタバヤ・ラジャパクサ大統領の経済失政を非難する。一方で、大統領の兄のマヒンダ・ラジャパクサ首相は、騒ぎを起こす市民自身が国の財政上の苦境をひどくしているのだと訴える。

「友であるあなたがたが街頭で抗議する1秒ごとに、私たちの国はドルを受け取る機会を失っている」とマヒンダ氏は11日、放送された演説で語った。同氏は2005~15年に大統領を務めている。

首相のこの言葉は、ラジャパクサ一族と不満を募らせる国民との間の大きな溝を浮き彫りにした。

ドル不足で輸入できない生活必需品

スリランカの外貨準備高は20億ドル(約2500億円)を割り込み、ドル不足で必需品の輸入が劇的に細っている。軽油から医薬品まで生活必需品に不足が生じ、計画停電が数週間前からの抗議に拍車をかけている。

スリランカ財務省は12日、乏しい外貨準備を食料と燃料に充てなければならないとして、同国史上初めて政府の対外債務の支払いを一時停止し、借り入れや債券の債務350億ドルを再編するための時間的猶予を債権者側に求めた。

スリランカ政府が国際通貨基金(IMF)と債務救済プログラムについて交渉し、インドと中国に支援を求めるなかで、大統領にとっては抗議運動が最も重大な問題となっている。かつて戦争の英雄と仰がれた大統領は今、危機の中で非難の的となっている。

「ラジャパクサ一族を政府から追い出したい」。コロンボの独立記念広場でデモに参加した女性弁護士のラガビさんは、姓を明かさずにこう話した。

ここ数週間、2200万人の国民が物価の高騰に見舞われる中で抗議デモは規模と勢いを増した。デモ隊はコロンボの大統領府前で「ゴタ(バヤ)は引っ込め」と叫び、首相の別荘周辺にも集結している。

非常事態宣言発令もすぐに撤回

機動隊が催涙ガスや放水銃でデモを鎮圧しようとしたが果たせず、大統領は2日にソーシャルメディアの停止を命じて非常事態を宣言したが、3日後に撤回を余儀なくされた。

先週には、国連の人権専門家グループがインターネットの遮断とデモ参加者への暴力を非難した。「私たちはスリランカ政府に対し、学生や人権活動家、その他の人々がオンライン及びオフラインで平和的な抗議、政治的意見の自由な共有、不満の表明を行うことを認めるよう求める」と同グループは表明した。

マヒンダ、ゴタバヤ両氏は09年、それぞれ大統領、国防相としてタミル人の反政府武装勢力を制圧し、26年にわたるスリランカの内戦を終結させた。

マヒンダ氏は15年、国民が汚職と独裁的な政治手法を問題視する中で再選に失敗した。しかし、200人以上の死者が出た19年春の連続爆破テロの後、ゴタバヤ氏がスリランカ史上初の軍人出身の大統領に選出された。

現在の危機が発生するまで、首相のマヒンダ氏や財務相の弟バジル氏、灌漑(かんがい)相の兄カマル氏など、ラジャパクサ一族はスリランカの28省庁の3分の1を率いていた。

バジル、カマル両氏とマヒンダ氏の息子ナマル氏は他の閣僚らとともに辞職したが、マヒンダ氏は首相としてとどまり、ゴタバヤ氏も国防相兼任のままで、多くのデモ参加者は納得しなかった。

うわべだけの内閣改造ではなく体制変化を

「私たちが期待しているのは、小規模な入れ替えといううわべだけの変化ではなく、体制全体が変わることだ」。コロンボでデモに参加したカトリック教会の神父は、影響を恐れて匿名を条件に語った。「未来は暗たんたるものにみえる」

ゴタバヤ氏は大統領就任時、主として減税による「繁栄する国」の実現を約束していた。だが、減税が行われたのは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が世界を経済混乱に陥れる直前のことだった。

歳入が大幅に減り、国の信用格付けが下がる中で、政府は対外債務の借り換えに苦慮している。

経済危機によってゴタバヤ氏は「ごく短期間でヒーロー(hero)からゼロ(zero)に転落した」とスリランカのシンクタンク、アドボカタのムルタザ・ジャフジー会長は指摘する。「彼は経済をよく理解していないので、ひどい判断をする経済チームに任せきりだった」

通貨スリランカルピーは年初以降、対ドルで37%超下落し、食料価格は3月に前年同月比で30%跳ね上がった。ルピー相場を支えるべく、スリランカ中央銀行のウィーラシンハ新総裁は8日、預金金利と貸出金利を7%ずつ引き上げた。

カギとなるIMFとの交渉

スリランカの対外債務のうち、約1割にあたる35億ドルほどが中国からの借り入れだ。インドは3月、スリランカに10億ドルの融資枠を提供したが、IMFのプログラムがさらなる支援のカギになるというのが専門家の見方だ。

ゴタバヤ氏は大統領にとどまる決意のようだ。与党幹事長のジョンストン・フェルナンド氏が議会に対し、「大統領はいかなる理由でも辞任しない。我々は抗議に屈しない」と述べている。

だが、ラジャパクサ一族の内部で崩壊の兆候が表れている。

ナマル氏はデジタル技術担当相を辞任する前日の3日、VPN(仮想私設網)を利用して政府によるソーシャルメディアのアクセス停止をくぐり抜け、「ソーシャルメディアのブロックを私は絶対に許さない」とツイッターに投稿した。「当局に対し、もっと進歩的に考え、この決定を見直すよう求める」

By Chloe Cornish and Mahendra Ratnaweera

(2022年4月13日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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