原発稼働・親中国…マルコス氏独走のフィリピン大統領選

原発稼働・親中国…マルコス氏独走のフィリピン大統領選
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『【マニラ=志賀優一】5月9日投開票のフィリピン大統領選はフェルディナンド・マルコス元上院議員が6割前後の支持率で独走態勢を続ける。ドゥテルテ大統領の娘の副大統領候補と共闘し、幅広い層の支持を得ている。

同国初の原子力発電所の稼働に意欲を示し、中国への融和姿勢は現職から引き継ぐ構えだ。原発では米国と協力する見通しで、実際に当選すれば、米中間での微妙なバランスが課題になる。

6年に1度の大統領選は最も多く得票した候補が当選する。決選投票はない。憲法は再選を認めておらず、ドゥテルテ氏は政界引退を表明済みだ。10人が立候補した。

調査会社パルスアジアが6日に公表した3月の世論調査で支持率は、マルコス氏が56%で首位。2位のレニー・ロブレド副大統領(24%)を大きく引き離した。3位は首都マニラのイスコ・モレノ市長(8%)、4位にプロボクサーとして国民的英雄とされたマニー・パッキャオ上院議員(6%)が続くが、現状ではトップに遠く及ばない。

マルコス氏の父親はかつての独裁者として知られる。1986年までほぼ20年間、フィリピンの大統領を務め、多数の市民が街頭で辞任を求めた「ピープル・パワー」で国を追われた。だが、選挙管理委員会によれば、有権者の50%以上が18~41歳の若さだ。

軍を背景に人権侵害も指摘された元大統領の印象は有権者の全体では薄い。むしろ、SNS(交流サイト)を通じ語りかける息子のマルコス氏に親しみを感じるようだ。

マルコス氏は上下両院で議員を務めた。「マルコス家」のブランドはなおマニラ首都圏を中心とするキリスト教徒が多い北部の中間層や富裕層に強い支持を受ける。

共闘する副大統領候補のサラ・ドゥテルテ氏はドゥテルテ氏の娘で、イスラム教徒が多い南部のミンダナオ島の中心都市ダバオで市長を務める。正副大統領は米国のような「ペア」でなく、それぞれ別の選挙で選ばれるが、マルコス氏とサラ氏は選挙集会などでしばしば一緒に対応する。サラ氏も副大統領選で支持率がトップだ。

ドゥテルテ家とマルコス家は数年前から親交を深めてきた。マルコス氏とサラ氏は結果的にフィリピンのほぼ全土に支持を広げ、選挙戦で当初から優位に立ってきた。

マルコス氏が当選後の公約に掲げるのは原子力発電の導入だ。3月にはサラ氏と共同で出した声明で「少なくとも1つは原発を持ち、低コストの発電で電力料金を下げるビジョンがある」と明言した。その前にドゥテルテ氏が原発推進を求める大統領令に署名しており、これを「(原発利用の)格好の踏み台になる」と指摘した。

2人の声明の直後にはフィリピンと米国の高官が原子力利用で協力を進める覚書を交わした。フィリピンは温暖化ガスの排出量が比較的多い石炭火力発電所の新設を2020年に禁止した。原発で脱炭素を進める考えだ。高値が続く石油の輸入を抑え、国際収支の改善も目指す。

原発稼働はマルコス家の「悲願」でもある。マニラの西にはマルコス氏の父親が大統領の時代に米国企業が軸になって建設されたバターン原発がある。1986年の政変と旧ソ連のチェルノブイリ原発の事故の影響で、稼働しないままだ。この原発を改修するのか、新たに建設するのかは不明だが、マルコス氏が当選すればフィリピン初の原発稼働が実現する勢いだ。

南シナ海の領有権を争う中国には融和姿勢を示す。中国との経済関係を重視したドゥテルテ氏を「正しい」と評価する。21年10月に大統領選への出馬を申請した後、マニラで駐フィリピン中国大使と面会した。

現政権と同様、薬物の取り締まりには力を入れる方針だ。ドゥテルテ氏は国外からも「人権侵害」と批判されながら強引に進めたが、マルコス氏は健康被害の教育など「違った手法」で引き継ぐと説明している。

マルコス氏を追う候補 「中国への警戒」訴え

【マニラ=志賀優一】フィリピン大統領選に向けた支持率でトップのフェルディナンド・マルコス氏に引き離された候補は挽回に躍起だ。レニー・ロブレド副大統領、マニー・パッキャオ上院議員らは南シナ海の領有権を争う中国に「警戒すべきだ」と主張し、マルコス氏の対中融和姿勢を批判する。

ロブレド氏は、国連海洋法条約に基づきオランダ・ハーグの仲裁裁判所が2016年、中国が南シナ海のほぼ全域で主張する「管轄権」を否定した判断を前面に出す。この決定が「(中国の)侵略を阻むため外国に協力を呼びかけるカードだ」と主張する。

強権のドゥテルテ政権に不満を抱く大学教授ら270人以上がロブレド氏への支持を表明した。

パッキャオ氏は中国との領有権争いを解決するため「平和について議論する政府間パネルの創設」を提唱した。

マニラ市長のイスコ・モレノ氏の陣営は「貧困層などにサイレントマジョリティー(物言わぬ多数派)がいる」と主張し、世論調査にあらわれない支持者の掘り起こしに懸命だ
。』