シンガポール、集団指導体制探る 次期首相候補に財務相

シンガポール、集団指導体制探る 次期首相候補に財務相
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『【シンガポール=中野貴司】シンガポールのリー・シェンロン首相(70)の後継首相にローレンス・ウォン財務相(49)が就く道筋が14日、定まった。

ウォン氏は新型コロナウイルス対策を指揮し、次世代の指導者としての評価を急速に高めてきたが、現職のリー氏に比べ経験不足は否めない。同世代の中堅政治家とのチームワークを重視する統治手法で、与党・人民行動党(PAP)政権の長期継続を目指す。

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「同世代のチームメンバーと共に、国民に心を込めて尽くし続けたい」。ウォン氏は14日夕にリー氏が事実上の後継者発表をした直後、SNS(交流サイト)で即座に決意表明した。短い文章の中に3回、「チーム」という言葉を盛り込み、集団指導体制を志向する考えをにじませた。次期首相レースで競い合っていたライバルの政治家たちも祝意と支持を相次ぎ投稿し、PAP政権の一枚岩を演出した。

ウォン氏がチームワークを強調するのは、経験不足の裏返しでもある。リー氏が副首相を14年間務めた上で、2004年に満を持して首相に就任したのに対し、ウォン氏は国会議員になってから11年しかたっておらず、財務相にも21年5月に就いたばかりだ。リー氏のようなカリスマ性や国際的な知名度も乏しく、禅譲を受けた後は、首相に権力を集中するよりも閣僚との役割分担を重視する統治を模索する見通しだ。

リー氏の説明によると、ウォン氏の選出はウォン氏と同世代の政治家の意見を集約した結果で、リー氏自身や上の世代の政治家は意見を求められることはなかったという。この選出手法は、ゴー・チョクトン氏が第2代首相に上り詰める過程と酷似する。ゴー氏の評伝によると、ゴー氏が1985年に第1副首相に就任する直前、同世代の政治家らが集まり、ゴー氏を次のリーダーにすることを決めたという。ゴー氏は5年後の90年にリー・クアンユー初代首相の後継として首相に昇格した。

ウォン氏は「普通の家庭」出身である点も、ゴー氏と似る。リー・シェンロン氏がリー・クアンユー氏の長男として英才教育を受け、早くからいずれ首相に就任するとみられていたのに対し、ウォン氏はシンガポールのメリトクラシー(能力主義)を体現する人物として自らを国民に売り込もうとしている。強い指導力よりも、国民からの共感を求心力にしたい考えだ。

リー・クアンユー、シェンロンの親子と一般家庭出身者が交互に首相に就く配列は、時にカリスマ性を、別の時には庶民性を求めるシンガポール国民の二面的な願望を反映しているかのようだ。独立以来、シンガポールではまだ3人の首相しか誕生しておらず、在任期間が20年近くに及ぶリー・シェンロン氏が首相職を禅譲する時は、シンガポール政治の大きな節目となる。

シンガポールは独立以来、PAPの一党支配が続いており、PAPの敷いた路線が覆ることはほとんどない。禅譲時期はまだ不確かとはいえ、今後はウォン次期首相に向けての基盤作りが着々と進んでいく見通しだ。ただ、20年の前回総選挙で野党が議席数を増やしたことからも分かるように、PAPの力もかつてほど絶対的ではなくなっている。国民がウォン氏を「首相の器」ではないと判断すれば、想定外の波乱が起きる可能性も残っている。』