「ウクライナ戦争の勝者」はバイデンと習近平、米中が得た3つの大成果とは

「ウクライナ戦争の勝者」はバイデンと習近平、米中が得た3つの大成果とは
清水克彦:政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師
https://diamond.jp/articles/-/301634

『5月9日に迎えるロシアの対独戦勝記念日

 ロシア軍によるウクライナ侵攻から2カ月を迎えようとしている。ロシアのプーチン大統領は4月12日、盟友であるベラルーシのルカシェンコ大統領を伴った極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地での会見で、ウクライナでの侵攻計画を計画通りに実行する考えを強調し、「(軍事作戦での)目標達成は疑いない」と自信を示した。

 一方、ウクライナのゼレンスキー大統領も、4月10日の夜、国民向けの動画演説で、「我々はより活発に武器を補給し、ロシア軍のすべての攻撃に備える」と述べ、徹底抗戦する姿勢を改めて強調した。

 ロシアでは、5月9日に対独戦勝記念日を迎える。ロシア国民が、旧ソ連の勝利を象徴する「ゲオルギーのリボン」を胸に着け、愛国心と祝典の高揚感に浸る特別な日だ。

 たとえ、この場で、プーチン大統領による何らかの勝利宣言があったとしても、少なくともウクライナ東部、ドンバス地方の完全制圧が終わるまでは戦闘は続くということだ。同時に、一度は撤退した首都キーウ(キエフ)への再侵攻がないとも言い切れない。

 筆者はこれまで、1991年の湾岸戦争以降、ボスニア紛争、アメリカ同時多発テロ事件、そしてイラク戦争と、歴史に残る戦争や紛争を取材してきた。

 それらの経験則から言えることは、「戦争当事国に勝者はいない」ということである。』

『ロシアもウクライナも勝者にはなれない

 2月24日に始まったロシアとウクライナの戦争だが、この先、どちらが優勢になろうとも、両国ともに勝者とはなり得ない。

 ロシアは、仮にドンバス地方のドネツク、ルハンシク両州を押さえ、「ロシア系住民を守る」という大義名分を成就させたとしても、国際社会では半永久的に「悪玉」のレッテルを貼られる。多くの戦死者を出し、想定以上の経済制裁を受け、1日当たり3兆円ともいわれる戦費と相まって、国内経済は相当疲弊することが予想される。

 こうした戦いに備え、巨額の準備金を確保していたとしても、国民生活への影響は計り知れない。

 一方、ウクライナも勝者にはなり得ない。ゼレンスキーが2019年の大統領選挙で公約の一つに掲げてきた北大西洋条約機構(NATO)への加盟は実現しなかった。

 NATOの規約(第5条)には、「1つ以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する武力攻撃とみなし、その結果、そのような武力攻撃が発生した場合は、各締約国が国連憲章第51条によって認められた個別的または集団的自衛権を行使する」とある。

 すなわち、ウクライナが単体でロシアと戦う状況というのは、これに該当しないのだ。
 侵攻を受けて申請したEUへの加盟も、EUのフォン・デア・ライエン委員長らの肝いりで手続きが加速化したとしても、「戦争の完全停止」「汚職の撲滅」「経済の安定」といった諸条件がクリアされる日はそう近くない。

 南東部の要衝、マリウポリや、第2の都市ハルキウ(ハリコフ)など、ロシア軍の攻撃が激しかった地域では街が廃虚と化し、その復興には時間とコストがかかる。』

『アメリカが得た3つの成果

 では、誰が勝者となるのか。

 筆者はアメリカと中国だと断言する。

 アメリカはロシアのウクライナ侵攻で、いくつもの「利」を得た。第一に、何といっても軍需産業が大もうけできた。

 バイデン大統領が、3月16日に発表したウクライナへの具体的な支援策を振り返ると、スティンガー対空ミサイル800基、ジャベリン対戦車ミサイル2000基、攻撃用無人航空機(ドローン)100機、機関銃、榴弾発射器、小銃など合わせて7000丁、小火器弾薬および迫撃砲弾2000万発などとなっていて、CNNの報道では、発表の1週間後から、順次、ウクライナに配備されている。

 これだけでも総額は8億ドル(1000億円)に上る。戦争が始まって以降は、ウクライナの周辺国にも相当額の武器が売れたことだろう。

 第二は、バイデンは2021年8月、アフガニスタンからのアメリカ軍完全撤退で招いた国際的な信用の失墜を挽回できた点だ。

 筆者は、アフガニスタン撤退については、中国の台湾侵攻などに備え、二正面作戦を避けた英断だったと感じ、担当するラジオ番組でもそのように解説してきたが、国際社会での評価はガタ落ちとなった。

 ただ、今回の戦争で、EUやNATO加盟国の首脳をけん引し、バイデン大統領自身もポーランドを視察するなど、民主義国家群を率いるアメリカのトップとして、ある程度は存在感を発揮できた。

 第三は、ロシア制裁でアメリカ経済が潤い始めたことだ。

 ヨーロッパ諸国がロシアへのエネルギー依存を見直す中、石油も天然ガスも自前で賄うことができるアメリカがヨーロッパ向けの輸出を増やせば、インフレとコロナ禍で苦しむアメリカ経済は持ち直す。ひいては、共和・民主両党が激しく競り合う11月の中間選挙でも、バイデン大統領率いる民主党には追い風になる。』

『つまり、バイデン大統領にとって、ロシアがウクライナに侵攻したことは、表面的には「憂慮すべきこと」であり「断じて容認できないこと」であったが、同時に「ありがたい」という側面も多分にあったことは忘れてはならない。

 それどころか、詳しくは後述するが、そもそもロシアとウクライナの戦争はアメリカが仕向けたと言っても過言ではないのだ。

バイデン大統領が仕掛けたロシア・ウクライナへの「甘いわな」

 思えば、2021年9月1日、バイデン大統領はホワイトハウスで、ゼレンスキー大統領と会談している。この場で、バイデン大統領はウクライナのNATO加盟に、個人的見解としながらも理解を示し、ロシアの侵攻に直面するウクライナに全面支援を約束した。先に述べたように、ウクライナは加盟できないと理解した上でだ。

 それにもかかわらず、会談後に発表された共同声明では、「ウクライナの成功は、民主主義と専制主義の世界的な戦いの中心だ」と位置付けてみせた。つまり、アメリカは完全にウクライナの側に立ち、その安全を重視する考えを打ち出したのである。

 ちなみに、バイデン氏が大統領に就任して以降、ホワイトハウスに招いたのは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(当時)に次いでゼレンスキー大統領が2人目だった。

 44歳という若きウクライナの大統領は、78歳(当時)の老練な大統領にうまく乗せられたのである。

 筆者は、この流れが、NATOの東方拡大を嫌うプーチン大統領の心に火を付けたとみる。
 もともとアメリカは、ウクライナのNATO加盟には慎重な立場を崩していない。米大統領報道官のジェン・サキもすぐ、「ウクライナには、取らねばならない段階がある」と火消しに走ったが、プーチン大統領を刺激するバイデン大統領の動きは止まらなかった。

 9月20日、バイデン大統領はウクライナを含めた15カ国の多国籍軍による大規模軍事演習を実施した。そして、10月23日には、ウクライナにジャベリン対戦車ミサイル180基を配備した。プーチン大統領がロシア軍をウクライナ国境に展開させたのは、これらの動きを受けた10月下旬のことだ。』

『しかもバイデン大統領は、12月7日、プーチン大統領と会談し、「アメリカ軍をウクライナに派遣することは検討していない」という考えを伝えている。これは「攻めるならお好きに」と言っているようなものだ。

 これらから考えても、アメリカが、ロシアの軍事侵攻を可能にする方向に持っていったと考えていいのではないだろうか。』

『中国が得た3つの成果

 ウクライナ侵攻における、もう一人の勝者は中国の習近平国家主席である。

 中国は、ロシアがウクライナに侵攻した当初から、ロシアに対し、「非難も支持もしない」というスタンスをキープしてきた。

 国際社会から仲介を求める声が相次いでいるものの、習近平自身は今も全く動こうとしていない。

 戦争が長期化すれば、対アメリカで共同歩調を取るロシアが傷む。貿易面で関係が深いウクライナも疲弊する。それは中国にとって好ましくないことだ。

 特に、ロシアが「ウクライナ東部の少数民族=ロシア系住民を守る」という名目で攻め込み、その独立を承認したことは、新疆ウイグル自治区を抱える中国からすれば認めることはできない。

 しかし、中国にとって、戦争そのものはけっしてマイナス材料ではない。ある面、好ましいことかもしれない。

 ウクライナ侵攻による中国の成果は大きく3つある。』

『第一が、ロシアを対アメリカ、対民主主義国家群への切り込み隊長にできることだ。

 アメリカがどう動くか、NATOやEUはどうか、国連をはじめ国際社会の制裁はどの程度かを、ロシアを「モルモット」にしながら把握することができる。それが、台湾や尖閣諸島への侵攻を考えた場合、大いに参考になる。戦況を見ながら、ロシア軍の成功例と失敗例からさまざまなことを学べるだろう。

 第二が、ロシアと対ドル経済圏を確立できることだ。

 ロシアの資源として大きな存在感を示している天然ガスなどに関して、中国とロシアは2月4日、北京冬季オリンピックの開会式直前に、15カ条に及ぶ経済協力を結んでいる。もともと、ロシアの最大貿易相手国は12年間、中国であり、ロシアは制裁のダメージが効いてくればさらに中国マネーに頼らざるを得なくなる。

 ロシアは、SWIFT(国際銀行間通信協会)から締め出されるなど厳しい状況にあるが、中国が構築する国際送金ネットワーク「CIPS」を利用して中ロ貿易を活発化させる選択肢が残されている。そうなると、中国はロシアを対ドル経済圏(人民元経済圏)に取り込める。

 第三は、日米豪印4カ国による「Quad(クアッド)」を分断できることだ。

 対アメリカを考えた場合、日米豪印4カ国の枠組み「Quad」の分断が不可欠。その一角を占めるインドは3月1日、国連総会の緊急特別会合でロシアへの非難決議採決を、中国とともに棄権した。インドは歴史的に非同盟主義を取り、アメリカの同盟網に組み込まれることに懸念を示している。その半面、ロシアとは軍事協力も密な国だ。

 そのインドが、ロシア問題で中国と歩調を合わせたことは、インド太平洋地域における中国包囲網に風穴を開けることにつながる。5月下旬に行われる予定の「Quad」首脳会議に向け、くさびを打った形になった。』

『高まる尖閣有事リスク 日本の安保は試練の時代へ

 北にロシア、西には北朝鮮、そして南西には中国と、いずれも核保有国を抱えた日本は今後、安全保障面で試練の時代を迎える。

 いざとなれば、日米安全保障条約に基づき、アメリカは手助けしてくれるだろうが、アメリカのシンクタンク、ランド研究所の予測などでは、「尖閣諸島が攻撃を受ければ5日間で制圧される」との見方もある。

台湾有事 米中衝突というリスク『台湾有事 米中衝突というリスク』
清水克彦 著
平凡社新書
税込946円 https://www.amazon.co.jp/%E5%8F%B0%E6%B9%BE%E6%9C%89%E4%BA%8B-%E7%B1%B3%E4%B8%AD%E8%A1%9D%E7%AA%81%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF-987-%E6%B8%85%E6%B0%B4-%E5%85%8B%E5%BD%A6/dp/4582859879?_mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=%E5%8F%B0%E6%B9%BE%E6%9C%89%E4%BA%8B+%E7%B1%B3%E4%B8%AD%E8%A1%9D%E7%AA%81%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF&qid=1633320902&sr=8-1&linkCode=sl1&tag=diamondonline-22&linkId=0558b286d176c6c8273197609d093fa1&language=ja_JP&ref=as_li_ss_tl 

「ロシア軍のウクライナ侵攻は、中国が台湾を侵略するシナリオを現実的なものにした」

 これは、安倍政権で外相や防衛相、菅政権で沖縄担当相などを務めた自民党・河野太郎の言葉だが、筆者は台湾と並び「尖閣諸島」も加えたい。

 自民党の安全保障調査会は11日、敵のミサイル発射拠点を直接たたく「敵基地攻撃能力」について議論し、参加者から名称を「自衛反撃能力」などに変更する案などが出された。あの共産党ですら、志位和夫委員長が「有事の際には自衛隊を活用する」と語らざるを得ない時代である。

 政府は今年末をめどに「防衛計画の大綱(大綱)」と「中期防衛力整備計画(中期防)」の改定を目指す方針だが、名称うんぬんよりも中身の議論を急ぐべきである。

(政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師 清水克彦)』