[FT]典型的な産油国独裁者に化したプーチン氏

[FT]典型的な産油国独裁者に化したプーチン氏
ルチル・シャルマ氏(米ロックフェラー・インターナショナル会長)寄稿
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB140UZ0U2A410C2000000/

『2003年にニューヨークを訪問したロシアのプーチン大統領は、投資家たちとの会合で、自分は経済改革者であり、欧米の資本家と積極的にかかわりたいとアピールした。ロシアは他の産油国とは違って、「普通の欧州の国」の価値観を共有していると金融関係者の前で語った。

かつて改革を進めて経済を建て直したプーチン氏だが、権力と成功で変貌した=ロイター
筆者のルチル・シャルマ氏は、米ロックフェラー・インターナショナルの会長。前職は米モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのチーフ・グローバル・ストラテジスト。

プーチン氏がウクライナに侵攻している今、この言葉はむなしく響く。しかし、当時は誠実な印象で受け止められた。1990年代後半に金融危機とデフォルト(債務不履行)で疲弊した国のトップを引き継いだ同氏は、民営化と規制緩和を推し進めていた。一律13%の所得税を導入し、米国の保守派を味方につけた。原油価格の上昇と改革を背景に、ロシアの1人当たり年間所得は2000年の就任当初の2000ドル(約25万円)から、10年代初めにはピークとなる1万6000ドルに増加した。

権力と成功で変貌

だが、権力と成功がプーチン氏を変えた。他の新興国の指導者とは異なり、その後すぐに海外のファンドマネジャーと会わなくなった。プーチン氏の側近の1人は私にこう言った。そのような会合は「中小国」がやるものであって、米国やロシアのような大国がするものではないと。

2010年、私はプーチン氏が同席する会合で、ロシア経済の「率直な」評価を伝えるようモスクワに招かれた。会合がテレビ中継されるとは知らず、招待を額面通り受け取った私は、ロシアの成功が持続するのは難しいと話した。ロシアが中所得国として成長するためには、石油以外に産業を広げ、大手国営企業への依存を減らし、まん延する汚職に取り組まねばならないと訴えた。翌朝、親プーチン派の国営メディアが私の名前を挙げ、無礼な客人だと批判していた。そんな海外の論評や資本はロシアには不要だと切り捨てていた。

その数カ月後、ジョージ・W・ブッシュ第43代米大統領(当時)にインタビューすると、同じようにプーチン氏の変化を指摘した。初期のころは常識的だったが、00年代後半には尊大になったという。2人が最後にモスクワで会談した際、プーチン氏は自分の飼い犬のラブラドールレトリバーを、バーニー(ブッシュ氏の愛犬のスコティッシュテリア)より「大きく、強く、速い」と紹介したという。

プーチン氏は今や、ロシア帝国の勢力圏を取り戻すことに執着するロシア特有のリーダーのように語られることが多い。だが、経済の視点で見れば、国家のリーダーとして普遍的なタイプに属する。

経済不安定国家の3条件に合致

私の研究によると、独裁的な指導者の国では、民主的な指導者が率いる国よりもはるかに経済が不安定化する傾向があり、独裁者が長く権力の座に居続けるほど悪くなる。特に石油国家で不安定さが顕著だ。プーチン氏はこの3つの条件にすべて当てはまる「産油国に長く君臨する独裁者」だ。

プーチン氏は00年代後半になると、独善的になり、改革を推進しなくなった。14年のクリミア侵攻を受け、欧米諸国が経済制裁を科すと、同氏は新たな変革に着手した。それは成長を促すよりも、外資に影響されない「フォートレス(要塞)ロシア」を作り上げることを目的にしていた。

こうした防御体制はしばらくは機能したように見えたが、今、新たに厳しい制裁を受けて、ひび割れし始めている。ロシアの1人当たり所得は過去のピークの1万6000ドルからウクライナ侵攻前の時点で1万2000ドルまで落ち込んでいた。原油価格が上昇しているにもかかわらず、22年末には1万ドルを下回る見込みだ。

経済危機に陥る独裁者が多数

ウォール街が時として独裁者を受け入れてきたのは、彼らが好景気をもたらす場合があるためだ。しかし、実際には、活況をもたらした独裁者の3~4倍の数の独裁者が景気低迷、あるいは永続的な経済危機を招いてきた。その顔ぶれは、歴史上、キューバのカストロ氏から北朝鮮の金一族、ジンバブエのムガベ前大統領やエチオピアの皇帝ハイレ・セラシエ1世、ウガンダのムセベニ大統領を含むアフリカの数々の大物独裁者まで多岐にわたる。

世界150カ国について1950年以降の統計を分析すると、国内総生産(GDP)が10年にわたり7%以上の成長を続けたケースは43例あり、そのうち35例が独裁体制だった。しかし、3%未満の成長率(途上国ではリセッションのように感じられる成長率だ)が10年続いたケースは138例あり、うち100例が独裁体制だった。

極端な例を挙げると、数十年の間に急成長とマイナス成長を行き来した国は36カ国あり、その75%が独裁国だった。その多くは、ナイジェリア、イラン、シリア、イラクなどの産油国だった。

独裁政権のしぶとさ

プーチン氏は、ロシアをこの極端なケースに仲間入りさせる可能性がある。金融市場のデータは同国が99%の確率でデフォルトに陥ると示唆している。これはまさに政権初期のプーチン氏が懸命に防ごうとした運命だ。

かつて改革者だったプーチン氏は今や、どう見ても典型的な老化する独裁者だ。ベラルーシのルカシェンコ大統領、トルコのエルドアン大統領、スリランカのラジャパクサ大統領らが率いる長期強権体制の国々でも、同様の経済危機が進行している。

これらの事例をみると、独裁政権はその成否にかかわらずしぶといことがわかる。経済の悪化でプーチン氏を失脚することを期待している欧米の指導者たちは、この歴史を認識すべきだ。独裁者は政治と経済のつながりを断ち、いつまでも権力の座にとどまることができる。

By Ruchir Sharma

(2022年4月11日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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