[FT]パキスタン首相失職、権力を奪回した2つの政治一族

[FT]パキスタン首相失職、権力を奪回した2つの政治一族
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『パキスタンで11日、シャバズ・シャリフ氏が新しい首相に選出された。元クリケット選手のイムラン・カーン首相が追い落とされた劇的な週末の後、パキスタンは政界の2つの名家の権勢と影響力の下へ戻った。

11日、シャリフ氏の首相就任を祝うパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派の支持者=ロイター

シャリフ氏は野党パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML─N)の党首で、2017年に不正蓄財で最高裁判所に罷免されたナワズ・シャリフ元首相の弟だ。

新首相に選出されたシャリフ氏は詩句をちりばめた演説の中で、カーン政権を「腐敗し、無能でたるんでいた」と糾弾する一方で融和的な姿勢も示し、「この国を前進させたいのなら、それはにらみ合いでなく対話を通じてなされなければならない」と訴えた。

10日のカーン氏の追放劇は、パキスタン政界の名門一族であるシャリフ家とブット家の勝利だった。両家はかつて激しく対立したが、スポーツ界のスーパースターから転身して18年の総選挙で勝利を収めたカーン氏に対抗するために手を組んだ。

「昔ながらのパキスタンへようこそ」。暗殺されたベナジル・ブット元首相の息子で、野党パキスタン人民党を率いるビラワル・ブット・ザルダリ氏はこう語り、「民主主義が最高の復讐(ふくしゅう)だ」と続けた。

パキスタンは1947年の建国以降、半分ほどの年月を軍政下で過ごしているが、ブット、シャリフ両家は1970年代以降、複数の文民政権を率いた。

パンジャブ州首相を経験

国内最多の人口を抱える中部パンジャブ州の州首相を務めたシャリフ氏の首相選出により、2億2000万人が暮らす核保有国パキスタンの立憲主義をめぐる深い混迷の時代に終止符が打たれた。

カーン氏は、連立パートナーや自党の一部議員の支持を失った後、下院を解散して不信任案の採決を回避しようとした。

最高裁は解散を「違憲」と判断して下院に不信任案の採決を命じ、パキスタン史上初の不信任投票による首相の失職に道を開いた。

シャリフ氏が勝利の演説に臨んだ議場は半分近くが空席で、パキスタンの深刻な政治的分断を浮き彫りにした。定数342の下院でカーン氏側の168議員が退席して抗議の意思を示し、残りの174人による投票を経てシャリフ氏の首相選出へと至った。

専門家の見方では、カーン氏はシャリフ新政権に混乱をもたらす大きな力となる可能性がある。カラチ経営管理大学のフマ・バカイ准教授は、カーン氏の「首相としての任期は終わったが、彼の政治力はもっと強まるかもしれない」と話す。

国内に鬱積する反米感情に乗じようとしていたカーン氏は、追い落としは米国による策謀だと証拠を示さずに主張している。米政府は体制変更の企てについて強く否定している。
カーン氏は10日、「体制変更を企てる外国の陰謀に対する自由への闘争が今日、再び始まった」とツイッターに投稿した。同日夕、大勢の支持者が失職への抗議に繰り出した。

「(カーン氏は)すぐさま扇動に向かおうとしている」と語るのは、シャリフ氏の政党に所属した元議員で現在はフリーの評論家のアヤズ・アミル氏だ。「彼は、この政治体制が定着するのを許そうとしないだろう」

元パンジャブ州首相のハサン・アスカリ・リズビ氏は、米国のせいにすることはカーン氏にとって得策になりうると指摘する。

「アフガニスタン国境沿いなど、パキスタンの諸地域では反米が大衆に受ける」とリズビ氏は話し、カーン氏は強力な野党指導者として台頭する可能性があると指摘する。

「(カーン氏の今後は)新政権が国民の不満にどこまで対応できるかにかかっている。これはたやすいことではない」

パキスタンの次期総選挙は23年8月の下院任期満了後に予定されるが、選管当局はカーン派議員の一斉辞職を受けて補欠選挙を行うかどうかを決める必要がある。

シャリフ氏は、パキスタン経済にのしかかる強烈な負荷と戦わなければならない。

コモディティー(商品)価格が世界的に高騰するなかで、パキスタン国民は何カ月も2桁のインフレに耐えている。パキスタン統計局によると、食料価格は3月に前年同月比13%上昇した。

カーン氏は、燃料税の引き上げなど国民に不人気な施策を伴う60億ドル(約7500億円)の融資プログラムをめぐり、国際通貨基金(IMF)と激しく衝突していた。

シャリフ氏は議会での演説で、「我が国の経済は極端な困難に直面している。非常に深刻な状況だが、良い方向に変わらなければならないし、変わることになる」と述べた。

経済界には安心感

KASB証券を率いるナシル・アリ・シャハ・ブハーリ氏は、政界入りするまで一族の鉄鋼業で職歴を積んだシャリフ氏は経済界に安心感を与えるだろうと話す。「彼自身がビジネスマンであり、ビジネスマンが直面する難題を深く理解している」

シャリフ氏と兄ナワズ氏は汚職の告発につきまとわれてきた。両氏は政治的動機によるものだとしている。ナワズ氏は汚職で禁錮7年の刑に処されていたが、19年に治療のための英国渡航に特別許可が与えられた。以後、同氏は英国に滞在している。

シャリフ家とブット家が連携を保てるかが今後を大きく左右する可能性がある。

米国平和研究所の専門家アスファンディア・ミール氏は、パキスタンで強い政治力を持つ軍が両家の影響力をそごうとするなかで、両家は共通の大義を見いだしていると指摘する。「軍は双方の政党を深く侮蔑している」とミール氏は言う。「したがって、両家は力を合わせるのではないかと私はみている。彼らはカーン氏が共通のライバルであり、同氏が再起しうるということも認識している」

By Farhan Bokhari and Chloe Cornish

(2022年4月11日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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