欧州、独自の安保体制強化 対ロシアで中立国にも変化

欧州、独自の安保体制強化 対ロシアで中立国にも変化
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR04CLT0U2A400C2000000/

『【ロンドン=中島裕介】欧州連合(EU)や欧州各国が、北大西洋条約機構(NATO)や米国だけに頼らない独自の安全保障体制の強化に動いている。超大国である米国の指導力の低下が欧州独自の防衛体制強化の主因だったが、ロシアの大規模な軍事侵攻がそれに拍車をかけた。

ロシアのさらなる西方への侵攻リスクに備え、これまで中立主義を貫いてきたNATO非加盟国も動きに加わっている。

3月上旬、英国をはじめとした欧州10カ国はロシアの軍事侵攻を受けてバルト海などでの軍事演習に臨んだ。この演習にはNATO非加盟国でロシアと国境を接するフィンランドや同じくNATOに加盟しないスウェーデンも加わった。

同国のフルトクビスト国防相は「今の欧州の安保秩序への脅威は容認できない。今後数カ月にわたり、合同演習を実施していく」と語った。

この10カ国の枠組みは「合同遠征軍(JEF)」と呼ばれ、2014年に英国主導で発足した。

参加国にはNATO非加盟のスウェーデン、フィンランドのほか、EU加盟国だがEUの軍事政策には不参加のデンマークなど中立主義の国も名を連ねる。バルト3国も参加する。

「北大西洋やバルト海地域の安全保障の維持」が目的で、いまやロシアの脅威への対応が最優先課題だ。

JEFはこれまで国際的に目立つ軍事枠組みではなかったが、ロシアの侵攻を受けて活動を活発化させた。

3月15日にはウクライナのゼレンスキー大統領もオンラインで招いてロンドンで首脳協議を開いた。今後も各国の陸海空軍が参加する演習を断続的に重ね、有事に備えた加盟国同士の相互運用性を高める。

米ランド研究所のジェームス・ブラック氏はJEFについて「NATOよりも素早く合意形成でき、迅速に軍を展開する能力がある」と指摘する。ロシアが北欧やバルト3国に侵攻すれば、戦闘初期ではJEFが最前線を担う可能性もあるとみる。

EUも3月下旬に採択した新たな安全保障・防衛戦略で、最大5000人のEU独自の即応部隊を25年までに整備することを決めた。

米軍やNATOに頼らずに域内の市民の安全やEUの利益を守る体制をつくるのが狙いだ。

EUのボレル外交安全保障上級代表は「脅威は増しており、無策の代償は明らかだ」と強調した。

実はJEFやEUの即応部隊は、米国の国力低下やトランプ前政権での欧州離れが議論のきっかけになったという背景がある。

さらにロシアが現実的な脅威を見せつけたことで、欧州独自の安保体制の強化は揺るぎのない中長期的な方針となった。

こうした軍事枠組みが、ウクライナ紛争の解決や、その後の再侵攻リスクも含めたロシアへの抑止力につながるかどうかも注目点だ。

ロシアは進行中の停戦協議でウクライナの「中立化」を求めており、そのモデルとしてスウェーデンの例が挙げられている。

ウクライナは「NATO非加盟」というロシアの要求を受け入れる代わりに、米英などを保証国とする「安全保障の担保」を求める。ロシアの再侵攻を防げるよう、NATOと「同等以上」の強力な安保条約とするのが条件だ。

そのスウェーデンが参加するJEFの場合、NATO条約の第5条に規定される「加盟国の攻撃を全締約国の攻撃とみなす」ような集団防衛の概念はない。ウクライナがJEFに参加しても、ロシアが再侵攻したときに援軍を送ってもらえる保証はない。

そもそも英国防省関係者は「今の参加国数が最適なサイズで、拡大は考えていない」と明かす。ノルウェー防衛大のホーコン・ルンデ・サクシー准教授は、北欧中心のJEFがウクライナへの兵器支援は続けても、「ウクライナを加盟国に招待する可能性は低いだろう」と分析する。

EUの即応部隊も具体的な活動や派兵要件はまだ固まっていない。EU基本条約(リスボン条約)には加盟国間の集団防衛条項が盛り込まれているが、軍事力で反撃できる要件などの点で曖昧さが残る。仮にウクライナが望み通りEUに加盟しても将来のロシアの再侵攻の際に、即応部隊がどこまで対応できるかは未知数だ。

多様な観点からニュースを考える

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

鈴木一人のアバター
鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
コメントメニュー

分析・考察

EUは旧ユーゴ紛争でも、アフガン、イラク戦争でも、何度も即応部隊や欧州防衛機関(EDA)の創設、EU条約第42条7項による相互防衛条項など、段階的に防衛協力の仕組みを整えてきたが、いずれも中途半端というか、実態を伴うものにはなり切れていないというのが現状。

今回もロシアの脅威が本格的に迫ってきてはいるが、それでもNATOとしてもEUとしても武器供与以上の行動は起こせないため、具体的な部隊を編成するといったところまで進むのは難しいかもしれない。

それでもじわりじわりと発展してきた欧州防衛の仕組みが、ここで飛躍する可能性もある。
2022年4月13日 4:06

柯 隆のアバター
柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
コメントメニュー

分析・考察

この問題の不可解な点は、NATOはロシアを脅威と定義するのに対して、ロシアはNATOと脅威と定義する。いったいどっちが脅威か。

ウクライナは不運なことに両者の間に挟まれ、叩かれている。

なぜNATOとロシアは直接交渉しないのか。NATOとロシアは協定を結んで、両者が互いに侵攻しないと約束すれば、ウクライナ戦争が起きなかったかもしれない。否、それでもロシアはウクライナに侵攻すれば、問題はNATOが脅威かどうかではなくて、プーチンはウクライナがほしいからであろう。そうであるとすれば、NATOはウクライナ防衛にもっと積極的にならないといけない

2022年4月13日 7:42 』