華流EV「デザインも悪くない」 世界に足場拡大

華流EV「デザインも悪くない」 世界に足場拡大
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『ノルウェー王宮にほど近いオスロ市内の目ぬき通り。風変わりな自動車のショールームが開業したのは2021年10月のことだ。その名も「NIO(ニオ)ハウス」。中国の電気自動車(EV)新興、上海蔚来汽車(NIO)にとって初の海外進出の足ががりとなる店舗だ。

ショールーム開業と同時にNIOは新型多目的スポーツ車(SUV)「ES8」の受注を始めた。「ノルウェーは始まりにすぎない」。NIOノルウェーのゼネラルマネジャー、マリウス・ハイラーはこう語る。22年中には車大国のドイツにも進出する計画も明かす。

NIOだけではない。17年創業の愛馳汽車は、フランスを皮切りに既にドイツやオランダなどにも進出し、着々と欧州で販路を広げている。

中国で生産されるEVが国内を飛び出し、世界で広がる。中国政府によると21年のEV輸出台数(乗用車)は20年比で約3倍の49万9573台に急伸し、2位のドイツに2倍以上の差をつけて世界首位に立った。

英調査会社のLMCオートモーティブなどの調べでは21年の中国のEV生産台数は294万台と世界の6割を占めた。世界の7割弱を生産するスマートフォンに続き、中国はEVでも「世界の工場」の地位をうかがう。

中国勢が狙うのはEV先進地の欧州だけではない。3日までタイで開催されたバンコク国際モーターショー。会場中央にひときわ大きなブースを構えたのが、中国大手の上海汽車集団だ。

目玉は最低価格を約76万バーツ(約280万円)とこれまでから2割値下げしたワゴン型EV「MG EP」。トヨタ自動車が現地生産する「カローラ」よりも安い。会場を訪れた会社経営者は「価格だけでなく中国EVはデザインも悪くない」。ブースには人だかりが絶えず、タイで圧倒的なシェアを持つ日本車からショーの主役を奪った。

車両価格の2割が課税される日本製と異なり、中国から輸出するEVに関税はかからない。さらに上海汽車は将来の現地生産を条件にタイ政府から補助金も引き出した。中国勢はEVで主導権をうかがう現地政府も巻き込み、したたかに世界で足場を広げる。

「トヨタは09年からタイでハイブリッド車(HV)を手がけている電動車のパイオニアだ」。タイ法人社長の山下典昭は勢いづく中国勢をけん制する。シェア首位のトヨタも22年、初の量産EV「bZ4X」を投入するが、EVでは挑戦者だ。

21年に約2千台とタイのEV市場はまだ小さいが、上海汽車のシェアは5割に達する。EVが主役になれば、年300万台の東南アジアの主要市場で約8割のシェアを持つ日本車の牙城を中国勢に奪われかねない。

中国EVの競争力の源泉が産業集積だ。「規模の競争力」。車載電池で世界首位の寧徳時代新能源科技(CATL)董事長の曽毓群はこんな言葉を口にする。20年以降、3兆円近い投資計画を打ち出して生産能力を高め、正極材など主要材料の調達網も中国に築いてきた。日本の部品大手は中国でのEV生産コストは他の地域の半分程度で済むと試算する。

「素晴らしいと言わざるを得ない」。21年10月、独フォルクスワーゲン(VW)社長のヘルベルト・ディースは中国EVの性能に驚嘆の声を上げた。新型コロナウイルスの影響で中国への出張が途絶えるなか、ディースらVW幹部はNIOや比亜迪(BYD)などのEVをドイツまで持ち込み、実力を試してきた。

ディースは11月、従業員代表との協議の場で主力車「ゴルフ」を引き合いに、こう切り出した。「次の『ゴルフ』がテスラや中国から来たクルマになってはいけない」。安全性を疑問視する声も残る中国EVだが米テスラと並ぶ競合になると認め、危機感を募らせる。

環境規制は過去にも自動車産業の勢力図を一変させる引き金となった。1970年代に米国で施行された環境規制「マスキー法」はホンダが世界で初めて克服して日本車が世界を席巻する契機となった。中国EVは次の覇権を見据え、世界で膨張する。(敬称略)

                 ◇

世界最大のEV生産国となった中国。EVシフトが加速するなか、エンジン車で先行した欧米や日本勢を巻き込んだ競争の最前線を追う。

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深尾三四郎
伊藤忠総研 上席主任研究員
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別の視点

日本車にとっての牙城・東南アジア市場が中国勢に切り崩されるリスクに備える必要がある。

中国勢は低コストかつ高性能であるEVの新車投入スピードが速いだけでなく、自前でEVインフラの拡充にも積極的に取り組んでいる。

タイで上海汽車や長城汽車が急速充電器の設置や充電ステーションの開設を急いでいる。
中国勢のEV攻勢を後押ししているのが車載電池で世界最大手のCATLだが、同社はニッケル産出量が世界屈指のインドネシアでの工場建設を計画中。

日本勢は世界シェアが高い二輪車や産業用車両も含めた自動車の既存流通網を有効活用し、「都市鉱山」である車載電池をリユース・リサイクルで囲い込む戦略を早期に構築すべきである。

2022年4月12日 0:11』