市場に忍び寄る新興国危機 12カ国に債務不履行リスク

市場に忍び寄る新興国危機 12カ国に債務不履行リスク
金融PLUS 金融部長 河浪武史
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB062670W2A400C2000000/

『世界市場に新興・途上国の債務不履行(デフォルト)危機が忍び寄ってきた。新型コロナウイルス禍に加えて、ウクライナ危機、米利上げと景気リスクが一気に強まり、世界銀行は12カ国前後が1年以内にデフォルトに陥る可能性があると警告する。主要国は途上国の債務再編に着手するが、壁となるのは最大の貸し手である中国だ。

石油代金を紅茶で支払い

インド洋の島国スリランカ。インフレによる暴動で市民が大統領官邸を襲撃し、4月1日に非常事態宣言が一時的に出た。通貨のスリランカルピーは1カ月で3割も下落し、21年末にはイランへの石油代金を特産品の紅茶で支払う「物々交換」を申し出たほどだ。7月に国債の償還日を迎えるが、債務不履行に追い込まれる可能性が強まっている。

同国はコロナ禍で観光業が振るわず、外貨収入が激減した。紅茶の有力輸出先だったロシアとウクライナは貿易ルートが途絶。世銀によると同国は560億ドルの対外債務を抱えるが、外貨準備は20億ドルに減ったとされる。エネルギーの調達まで困難になり、1日あたり13時間という長時間の計画停電で経済危機を必死でしのぐ。

 スリランカ・コロンボで、火が付けられたバス=3月31日(ロイター)

世界はロシアの債務不履行リスクを注視するが、市場への打撃は思わぬところから押し寄せかねない。新興国は原油高と食糧高で苦しんでおり、米連邦準備理事会(FRB)の利上げが追い打ちとなる。世銀は具体的な国名は伏せつつも「今後12カ月で世界のおよそ12カ国が債務不履行に陥る可能性がある」と警告する。

北アフリカの地域大国であるエジプトも、3月末に国際通貨基金(IMF)への支援要請の検討に入った。コロナ禍で観光客が激減し、外貨収入の減少に苦しんでいる。主食とする小麦の輸入の8割をロシアとウクライナに頼っており、3月には通貨切り下げに追い込まれた。1300億ドルもの対外債務を抱え、サウジアラビアなどにも支援を求めている。

アルゼンチンなども債務不履行のリスクがあり、世銀は「世界が近年では最大となる債務危機の連鎖に陥る懸念がある」と警告する。新興・途上国の債務は半世紀ぶりの水準まで悪化しており、今では政府歳入の2.5倍を超す。世界は債務不履行のドミノを防げるだろうか。

問題はかつてのような国際協調の枠組みが機能しないことだ。日米欧など主要国には、半世紀の歴史がある「パリクラブ」という債務再編の枠組みがある。国家間の債権・債務を整理するための組織で、日米欧はそれぞれ自らが持つ途上国への融資残高などをすべて開示して、公平な条件で債務カットする仕組みだ。

強まる中国の「債務のワナ」

ただ、今では「低所得国が22年中に予定する530億ドルの公的債務返済のうち、パリクラブ加盟国に支払われるのはわずか50億ドルにすぎない」(世銀のマルセロ・エステバン氏)。新興・途上国はかつてと異なり市場から資金を直接調達しており、政府間債務もパリクラブに加盟しない中国からの借り入れが増えている。日米欧が途上国の債務を免除しても「減免分が中国への返済に回るだけ」(国際金融筋)という。

20カ国・地域(G20)は途上国を対象に債務削減の新制度を立ち上げたが、要請したのはエチオピアとザンビア、チャドの3カ国にとどまる。中国の低中所得国への貸し出しは1700億ドルと9年間で3倍も増え、今や最大の債権国だ。その中国は途上国向け融資に「秘密条項」を付けており、米調査機関によると「契約の4分の3はパリクラブが主導する債務整理を拒否できる条項を盛り込んでいる」という。

中国はスリランカなどへの追加の経済支援の検討に入っている。中国が債務減免などに動けば世界的なデフォルト懸念は和らぐが、その後に待ち構えるのは途上国で中国が影響力を一段と高める「債務のワナ」だろう。スリランカは17年にも対中債務の返済に行き詰まり、南部ハンバントータ港の権益の大部分を中国側に99年間も貸与する譲歩を迫られた。
米欧日はロシアへの経済制裁でウクライナ危機の打開を目指すが、その抜け穴となるのは中国だ。国際社会の分断によって、世界を襲う地政学リスクは解決が一段と困難になっている。

多様な観点からニュースを考える

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田中道昭
立教大学ビジネススクール 教授
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分析・考察

97年アジア通貨危機の際、インドネシアでは、秋口からジャカルタで暴動が起きるリスクが真剣に語られるようになり、実際に翌年には暴動が勃発し、独裁政権だったスハルト政権も崩壊しました。

当時シンガポールからインドネシアを担当していましたが、同国はIMF支援を受ける直前に同じイスラム教の産油国に支援を求めましたが、地政学的なパワーバランスが崩れることを怖れたアメリカから政府高官がジャカルタに入り、その後IMFからの支援が決まりました。

歴史的に、経済危機が起こる際には先進国が震源地になる時でも新興国へ飛び火し、新興国でより深刻な問題へ発展するというパターンを繰り返してきました。複合危機の中、要注意です。

2022年4月11日 7:14

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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ひとこと解説

世界経済のファンダメンタルズは明らかに悪化している。

これまで異次元の金融緩和に救われているようにみえた世界経済は同時にメタボのように体力を失っている。

そのうえ、戦争と疫病によって社会も激変してしまった。

そのなかで、新興国経済は危機に対応する能力が弱く、エネルギーインフレが高騰すれば、世銀が警告するデフォルトは一気に現実味を帯びてくる。

今週、中国政府は第1四半期の経済成長率を発表する予定だが、かなり低い成長になるはず。

第2四半期に突入しているが、経済の中心都市上海はロックダウン。中国でさえ、クラッシュしそうになっている。それ以外の新興国と途上国はより困難な状況に直面するだろう
2022年4月11日 7:13

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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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ひとこと解説

金利上昇や地政学的リスクの台頭による皺寄せは糊代の少ない新興国に来る。

2022年に顕在化するリスクの筆頭は新興国リスクだと指摘はしてきた。

世銀の指摘するデフォルトリスクの高い国12カ国の大宗はおそらく低所得国、格付けも元々低い国だと考えられるため、投資家の損失が甚大になり、金融システムへの影響が大きくなるわけではない。

ただし、エジプトやトルコなど債務負担の大きい国だけでなく、政治リスクが高い国や観光依存度が高い国にはそれなりにリスクが残ることは見ておきたい。

2022年4月11日 8:38 (2022年4月11日 10:37更新)

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今村卓
丸紅 執行役員 経済研究所長
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分析・考察

つい最近までの世界的な超金融緩和が新興国の外貨建て債務を膨らませ、債権者も高利回りを好んだ世界の投資家によって民間主体に入れ替わり、二国間も中国からの借入が大幅増。

さらに2020−21年のG20によるコロナ禍対策としての債務返済停止イニシアティブで新興国の脆弱性は覆い隠されたものの、それも21年末で打ち切りで時間切れ。

そこに米欧の金利上昇、ロシアのウクライナ侵攻ですから、債務危機に向けたリスク増大は必至です。

まだ金利上昇が初期、ロシアやウクライナとの経済的な結びつきがある国が少なく、危機の顕在化はスリランカなど限られているだけ。

債務危機は常に「今回は違う」、前例が参考にならず要注意です。

2022年4月11日 11:40 』