米印、すれ違う「新国際秩序」 ルパ・スブラマニャ氏

米印、すれ違う「新国際秩序」 ルパ・スブラマニャ氏
カナダ・アジア太平洋財団特別研究員
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD040YP0U2A400C2000000/

 ※ 『新興国の大半はバイデン氏が蘇生を試みる古い秩序を望んでいない。むしろ各地域の覇権国が実権を握る世界経済の中で、自らの道を切り開きたいと考えている。これら覇権国は冷戦時代の東西二分法の枠にはめられることを望まない。』…。

 ※ 『インドの要人は折に触れ、「欧米人に人権や民主主義について説教される筋合いはない」と声高に言う。背景には植民地時代に積もり積もった欧米に対する反感がある。』…。

 ※ 『インド人識者の間では、ウクライナ侵攻をめぐり「国際社会がロシア糾弾で団結した」とする見方が欧米人の希望的勘違いだとする論が根強い。背景には、国際関係での「正義」を決める権利を欧米に譲るわけにはいかないという、歴史に根差したインド人の強い意識が横たわる。』…。

 ※ その「思い」は、重々「ごもっとも。」ではある…。

 ※ しかし、現実に、そういう「思い」も包摂し、かつ、「他国をも、納得させる」現実的な「システム」なり、「制度」なりの「モデル」は、構築できるのか…。

 ※ まさに、その点が、問題だろう…。

 ※ 二次大戦後、「パクス・アメリカーナ」が提供する「世界秩序」が、いろんな点で「制度疲労」し、「軋み」を生じながらも、未だに「生きながらえている」のは、それに「取って代わる」「よりマシな、モデル」が出現していないからだろう…。

 ※ 『各地域の覇権国が実権を握る世界経済』とは、結局は、「弱肉強食のジャングルの掟」に支配される国際秩序…、ということになるんじゃないのか…。

『異例のすれ違いが生じている。米国と北大西洋条約機構(NATO)の同盟国がロシアによるウクライナ侵攻を阻止するために団結する一方、大半の新興国は見て見ぬふりをしている。

世界で最も人口の多い中国、インド、南アフリカやブラジルはウクライナ戦争で一方の側につかないことを選んだ。パキスタンのカーン首相は戦争を巡るインドの中立的立場を称賛している。パキスタンの首相がインドを称賛するなどめったにないことだ。

インドは米ドルではなくルピーとルーブル建てにより、大幅な割引価格で原油を購入する交渉をロシアとしている。通常の原油取引はドル建てなので、旧ソ連中心の貿易圏であるコメコン(経済相互援助会議)の時代に逆戻りしたかのようだ。当時、貿易の大半は2国間の通貨建てだった。

Rupa Subramanya カナダのカールトン大院卒。専門はインドをはじめアジアの公共政策。

米国と同盟国は経済制裁により貿易と金融を兵器として用いた。これを受けインドとロシアが冷戦時代の貿易メカニズムの復活を検討しているのは驚くべきことだ。ロシアのアリポフ駐インド大使は両国間に「西側から独立した協力と取引」のメカニズムがあると述べた。インド輸出組織連盟のサクティベル会長は英フィナンシャル・タイムズに、「他国がロシアへの輸出を禁止しているので、インド企業がロシア市場に参入する良い機会だ」と語った。

ワシントンはこうした動きを苦々しく見ている。バイデン米大統領は3月、日米豪印4カ国の枠組みである「Quad(クアッド)」のうち、ロシアへの制裁で「ややぐらついている」のはインドだけだと発言した。しかしインドのモディ首相は、ロシアやイランからインドを遠ざけようとする米国の圧力に対して常にあいまいな姿勢をとってきた。インドはイランから現地通貨建てで石油を購入する検討もしており、これも米国にとっては好ましくない。

筆者は従来、モディ首相による「自立したインド」政策が効率的な世界貿易を阻害し、インド経済を傷つけていると批判してきた。しかし戦時下においては、基幹部門の戦略的自立は必要かもしれない。米国主導の経済制裁は兵器をはじめ、インドのような新興国が生き残るために不可欠の製品にも関連しているためだ。

混乱を極める世界の中で、各国の指導者は新しい国際秩序について相次ぎ語っている。バイデン氏は3月の米経営者団体の会合に先立ち、「新しい国際秩序が生まれ、我々がそれを率いていかなければならない」と語った。一方モディ氏も最近、「新たな国際秩序の中でインドは開発ペースを加速させる必要がある」と述べた。

バイデン氏とモディ氏が思い描く国際秩序が根本的に異なることは間違いない。バイデン氏は、米国をはじめ西側の自由民主主義国が主導する自由主義的な秩序の構築を望んでいる。一方、中国やインドなど多くの新興国はこうした秩序を第2次世界大戦とその余波が生んだ遺物とみなしている。

ウクライナ戦争への対応が分かれていることが示すように、新興国の大半はバイデン氏が蘇生を試みる古い秩序を望んでいない。むしろ各地域の覇権国が実権を握る世界経済の中で、自らの道を切り開きたいと考えている。これら覇権国は冷戦時代の東西二分法の枠にはめられることを望まない。バイデン氏は新しい国際秩序を手に入れるかもしれないが、望みとは異なるものになるだろう。

関連英文はNikkei Asiaサイト(https://s.nikkei.com/3LBLJF6)に

欧米支配への反感根強く

インドの要人は折に触れ、「欧米人に人権や民主主義について説教される筋合いはない」と声高に言う。背景には植民地時代に積もり積もった欧米に対する反感がある。

1947年にインドが独立してから75年しかたっていない。インド人の集団記憶に英国支配下の人権じゅうりんは鮮明に残っている。60~70年代の対パキスタン戦争で米国がパキスタン側についた記憶も、ベトナム戦争での民間人被害の記憶とともにまだ新しい。

インド人識者の間では、ウクライナ侵攻をめぐり「国際社会がロシア糾弾で団結した」とする見方が欧米人の希望的勘違いだとする論が根強い。背景には、国際関係での「正義」を決める権利を欧米に譲るわけにはいかないという、歴史に根差したインド人の強い意識が横たわる。

(編集委員 小柳建彦)』