米、プーチン氏批判に回帰 核兵器・戦争長期化リスクも

米、プーチン氏批判に回帰 核兵器・戦争長期化リスクも
一時は停戦にらみ軍に矛先、民間人虐殺で転換か
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN01DCU0R00C22A4000000/

『ロシアのウクライナ侵攻を巡る米国の批判の矛先がプーチン大統領に回帰した。一時は軍や情報機関を批判対象にしてプーチン氏に停戦交渉の余地を残そうとしているとの分析があった。民間人の虐殺で転換したとみられる。追及には核兵器使用や戦争長期化のリスクが高まるジレンマもある。

米国はウクライナ情勢について直接の軍事介入を控えている。武器供与などでウクライナを支援するものの、戦争が長引くことによる人道危機も懸念する。「出口戦略」は定まっていない。

バイデン米大統領は当初、ウクライナ侵攻を「プーチンの戦争」と呼んだ。ウクライナ南東部マリウポリなどでの無差別攻撃を受け、3月半ばには「戦争犯罪人」「生粋の悪党」と批判のトーンを上げた。

3月26日、ワルシャワでの演説では「この男が権力の座にとどまってはいけない」と断じ、プーチン政権の転覆を狙うような発言に踏み込んだ。事前に用意した原稿にないアドリブだった。

この発言に米国内や欧州から非難が相次いだ。フランスのマクロン大統領は「私はプーチン氏と協議を続けるので、そのような言葉は使わない。事態をエスカレートさせるべきではない」と苦言を呈した。

プーチン氏が政権転覆を迫られていると危機感を持てば、核兵器を使う誘惑にかられる可能性があるという分析が背景にあった。

米政府は軌道修正に動いた。発言から4日後、ホワイトハウスのベディングフィールド広報部長は「プーチン氏が軍に欺かれたと感じているとの情報がある」と説明した。軍や情報機関が戦況の誤った情報を伝えているとの見解を示した。

米国が機密情報をあえて公表したことには責任追及をプーチン氏に集中させない狙いがうかがえた。

流れを変えたのは4日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊で多数の民間人の遺体が見つかったことだ。バイデン氏はプーチン氏を「戦争犯罪人だ。残忍だ」と再び厳しい表現で責めた。7日の主要7カ国(G7)首脳声明は「侵略の立案者」と名指しした。

深刻な人道危機が判明したからにはプーチン氏の責任を追及せざるを得ない。国際世論だけでなく米国世論もロシア批判を強めており、バイデン氏は11月の中間選挙をにらんで弱腰の姿勢をみせられない事情もある。

一方で、プーチン氏を責め立てれば核使用を誘発しかねないとの懸念は増す。停戦交渉も進みにくくなる。

米欧の専門家は「エスカレーション抑止」と呼ぶロシアの軍事戦略を警戒する。ロシアは局地的な戦争が起きた場合、米国などの介入を防ぐために小型核兵器を限定的に使う戦略を採用しているとの見立てだ。

プーチン氏は侵攻を始めた2月24日の演説で「ロシアは最も強力な核保有国の一つだ。直接攻撃をロシアに加えれば攻撃した側が敗北する」と核の使用をちらつかせた。

27日にはショイグ国防相らに核戦力を運用する部隊を「高度な警戒態勢」へ移行させるよう指示した。

懸念はロシアにおける第2次世界大戦の対独戦勝記念日である5月9日に向けて一段と高まっている。プーチン氏が歴史的な節目の日にウクライナ侵攻の「勝利」を表明できるよう、成果を急ぐ理由があるためだ。

ロシアの軍事戦略に詳しい小泉悠・東大専任講師は「米欧に援助をやめさせ、ウクライナの戦意を喪失させるために核兵器を使うリスクがある」と指摘する。

プーチン氏に近いとされるゲラシモフ軍参謀総長は核抑止を重視する姿勢を示してきた。小泉氏の資料によると2019年に軍事アカデミー総会で演説した際もこう発言している。

「喫緊の課題は核抑止と非核抑止の手段を裏付け改善することだ。いかなる仮想敵もロシアと同盟国に対するあらゆる圧迫には望みがないことを理解すべきだ。我々は座して待つつもりはない」

米国の対ロ批判の変遷は世界最大の核保有国による侵攻へ対処する難しさを映している。(ワシントン=坂口幸裕)

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