[FT]ロシアの偽情報に対抗する米欧機関の情報公開

[FT]ロシアの偽情報に対抗する米欧機関の情報公開
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『フレミング氏はウクライナに派遣されたロシア兵について、命令の拒否、自軍の兵器による攻撃の妨害だけでなく、自軍の航空機を誤って撃墜した例さえあると述べた。いずれの行為もロシア軍の士気の低下を示していると、フレミング氏は指摘した。米政府も最近、実際には苦しいウクライナでの戦況について、ロシアのプーチン大統領に誤った情報が伝えられていると裏付けるような情報を発表した。

米欧の情報機関はロシアのウクライナ侵攻を巡り、機密情報を次から次へと公表している。従来とは異なる、全く新しい戦略だ。フレミング氏の講演や米政府の情報公開は、こうした新しい戦略の一環だ。

こうした戦略は、秘匿性の高い情報を外部と共有することに極めて慎重な情報機関にとって極めて異例な行為だ。安全保障に関わる重要な判断や認識を公開すれば、情報の提供者や収集の方法を含む「手の内」を明かすことになる。米中央情報局(CIA)などのために自国の機密情報を収集する各地のスパイの命が危険にさらされることになりかねないというのがこれまでの考え方だった。

新戦略はヘインズ米国家情報長官がけん引

ロシアが繰り出す偽情報に対抗するため、こちらも機密情報を積極公開する米国の新しい作戦をけん引するのは、3人の関係者によると、米国の情報機関を統括するアブリル・ヘインズ国家情報長官だ。

「機密情報を公開する新方針はアブリル・ヘインズ氏のおかげで決まった」と欧州の高官は話す。「偽情報に対抗する手段としては、まさしく天才的といえる妙案だ」

米政府高官の一人によると、この戦略は国家安全保障会議が立案、調整した。そのうえでヘインズ氏、バーンズCIA長官らが実行に移した。

熟練の外交官だったバーンズ氏は長く、情報を提供するのでなく、それを利用する立場だった。バーンズ氏は、こうした経験から得た洞察力とロシアに関する専門的な知識を兼ね備え、新たな戦略を指揮するうえで適任だったと、米政府の高官経験者は指摘する。

オバマ米政権で対ロシア経済制裁を担当した元外交官のダニエル・フリード氏は「バーンズ氏は外交官で、優秀なロシア専門家でもある。ロシア人がどのように思考するのか、よくわかっている」と証言する。フリード氏はいま、米シンクタンクのアトランティック・カウンシルでフェローを務めている。

フリード氏に言わせれば、ヘインズ氏、バーンズ氏のほか、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)のような米政府高官は情報を扱う仕事が長く、どう使えば効果的なのか熟知している。「素人が陥りがちな誘惑の罠にはまるようなことはない」

米政府はロシアがウクライナに侵攻する前から機密情報を積極的に開示してきた。同盟国が懐疑的だったことから、プーチン氏が侵攻を目指していると、確信をもって予想していた。だが、ロシア軍の作戦上の失敗について詳細な情報を公表するという決定は、新たな情報公開戦略の前進を意味する。ロシア政府は、停戦協議へ真剣に取り組んでいるとか、(ウクライナへの侵攻を言い換えて)独自に主張する「特別軍事作戦」の第1段階が成功したとか、主張しているが、それらの偽りを暴く狙いがある。

米政府高官の一人は「私たちはこうした内容(ロシア軍の失態)を公にできるだけの情報を持っている」と主張した。「その情報によれば、ロシアがこの戦争を当初の計画通りには遂行できていないのは明らかだ」
ウクライナ首都からのロシア軍撤退は「明らかな敗走」

米欧の情報機関によれば、ウクライナの首都キーウ(キエフ)からのロシア軍の撤退は戦略の転換ではなく、明らかな敗走だ。それはウクライナとの停戦協議におけるロシアの立場を弱める。米政府は、ロシアが協議に真剣でないとみなしている。

米政府高官の一人は「私たちは停戦協議でウクライナがなるべく優位に立てるようにできる限りのことをしている。プーチンにどんな情報が届けられ、どんな情報が伝わっていないかが明確になれば、ウクライナにとって好都合だ」と話した。

米英が機密情報の公開を加速させているのは、ロシアの政府関係者や一般市民らがウクライナの現状をより正確に把握できるようにするためだと、米欧側の政府関係者は明かす。

米国家情報会議(NIC)に勤務した経験があり、いまではカーネギー国際平和基金(ワシントン)のロシア専門家であるユージン・ルーマー氏によれば、プーチン氏とロシア軍幹部との間には明らかに距離がある。それは、軍事作戦に関してプーチン氏が見通しを誤ったという米国の見方を裏づけるという。

「それは世界に、プーチンの対ウクライナ戦略が無益で、愚かで、狂気をはらんでいると知らしめている」とルーマー氏は話す。「できれば、こうした認識がロシアの国民にも伝わり、ロシアの国内における(戦争への)見方にも影響してほしい」

ロシア軍を巡る機密情報の公表は、戦争が始まってからの大局的な戦略の一つだ。ロシア軍の計画や動きに関する機密情報を開示してウクライナに国際世論の支持を集め、ロシアによる「偽旗」作戦や偽情報の拡散を阻むことが目的でもある。

複数の米政府関係者によると、バイデン米大統領は2021年秋、進行中の情報公開作戦を承認し、ロシアの思惑についての機密情報を積極開示するよう求めた。
「ファイブアイズ」の枠外とも情報を共有

ウクライナ侵攻に関し、米政府は同盟国や友好国に対し、通常よりも幅広い機密情報を提供している。実際の侵攻が近づくと、ヘインズ氏やバーンズ氏が欧州を訪れ、英国、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国による機密情報共有の枠組みである「ファイブアイズ」のほかの国々にも機密情報を伝えた。

こうした情報の開示は通常の機密解除の手続きで実施される。これに関わる人材などを情報機関のなかで増やし、迅速にできるようにしている。

米政府は、ロシア軍が兵力をウクライナ国境付近に大規模に集結させていることを示す情報やプーチン大統領が侵攻の準備をしているという見方などを公表した。このことが、侵攻開始後のロシアに対する制裁に対する支持を高め、フランスやドイツなど懐疑的な態度を取る同盟国にプーチン大統領が真剣に侵攻を計画していることを説得することにつながった。

米政府高官の一人によると、21年11月上旬から22年2月中旬の間に、バイデン政権はウクライナ危機を巡り、同盟国やパートナー国との会合や電話会談などを300回以上もこなした。その多くは、機密情報の共有に関する内容だった。バイデン氏だけでなく、サリバン氏、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官らも参加した。

バイデン政権は、アフガニスタンでの情報活動が失敗した一方、ウクライナにおけるロシアの軍事作戦に関する予想の大半が正確だったことで自信を深めている。アフガンに関しては、政府軍が進撃してきたイスラム主義組織タリバンにすぐ降伏するのでなく、数カ月間は持ちこたえると考えていた。ウクライナ侵攻を巡る米国の情報の正しさは、(イラク戦争の前に)イラクが大量破壊兵器を保有しているという誤った情報を主張していた米国に懐疑的な同盟国を納得させるのに役立っている。

フランスのような国はロシアの意図をつかみきれなかった。フランスの情報機関のトップは、ロシアの侵攻を予測できなかったとの理由で解任されたという。

ウクライナ侵攻が始まってから、英国も通常は機密扱いの情報を積極公開するようになった。背景には、ロシアが08年にジョージア、14年に(ウクライナ領の)クリミア半島にそれぞれ侵攻した際、さらには15年、アサド政権を支援するためシリア内戦に介入した時に、米欧が機密情報の共有に乗り気でなかったという反省がある。

米欧側の政府高官の一人は「機密情報の公開は、ロシアが自国の行為を否定できないようにするために必要だ」と説明する。「ジョージア、クリミア、シリアの件では、これができなかった」

米政府は、 先を見通すために必要な機密情報や有用だと考えられる情報を、これからも積極的に公開し、広めていくと、複数の当局者は話す。

CIAでの経歴が長い情報と防衛の専門家であるロルフ・モワット-ラーセン氏は、積極的に情報を公開するいまのような戦略を「情報活動の新しいパラダイムだ」と指摘する。

現在は米ハーバード大ケネディスクールのベルファーセンター で上級フェローを務めるモワット-ラーセン氏は、この新戦略によって「情報がその価値を最大限に高めるには、積極的に紛争へ関与すべきだとわかる」と解説した。

By Felicia Schwartz & Demetri Sevastopulo

(2022年4月6日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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