南アジアに混乱の火種 パキスタン緊急利上げ市場、「3つのルピー」注視

南アジアに混乱の火種 パキスタン緊急利上げ
市場、「3つのルピー」注視
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL00019_Y2A400C2000000/

『【NQNシンガポール=秋山文人】南アジアのパキスタンで、経済情勢の悪化を背景にした政情の先行き不透明感が増している。パキスタン中央銀行は7日、通貨ルピーを防衛するために緊急利上げを決定。近隣のスリランカと並び、混迷が深まっている。大国インドを含む南アジアに対する市場関係者の警戒心が高まってきた。


通貨安、金利上昇……経常収支も悪化

「もし必要なら、4月末に予定している次回の金融政策委員会を前倒し実施する」。パキスタン中銀は3月8日の会合のあとに発表した声明文でこう指摘していた。1カ月後の4月7日、同中銀は有言実行する。政策金利を従来の9.75%から2.5%引き上げ、12.25%にすると決めた。

中銀は声明文で、①通貨ルピーの下落②国内および外貨建て債券の市場金利の上昇③国債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率の上昇――に直面していると説明する。ウクライナ情勢を含む内外の不透明感が物価高を促すとみており、インフレ率見通しは2022年度は11%強としている。

通貨安は激しい。パキスタンルピーはドルに対し、足元で1ドル=188ルピー近辺で推移している。中銀はかねて為替介入でルピー相場を維持してきた。17年までは100ルピー近くで推移していたが、徐々に切り下げていった。21年5月以降はタガが外れたように下落し、その後1年間で2割下げたことになる。

資源高を背景とする輸入額の増加、貿易赤字が続く。国際収支をみると、経常収支は20年7~9月期では8億6500万ドル(約1070億円)の黒字だった。それが、21年10~12月期には55億6600万ドルの赤字になった。通貨防衛に要した資産も大きく、外貨準備は21年8月末に270億ドルだったのが半年で16%減った。軍資金が乏しいだけに介入は焼け石に水で、足元でルピー安は一段と進んでいる。


下院解散、最高裁は「違憲」

パキスタンの混乱を象徴するのは、1人の政治家の動静だ。カーン首相に世界の目が向けられている。

経済政策運営の失敗とインフレで国民生活を脅かしたとし、パキスタン野党は国会・下院にカーン首相への不信任案を提出した。首相は下院の解散・総選挙を表明し対抗。野党は最高裁判所に解散決定の無効化を求めて提訴していた。

最高裁は7日、解散は違憲との認識を示した。カーン首相は近く辞職を迫られる可能性があるとも伝えられている。パキスタン中銀の緊急利上げは経済情勢もさることながら、政治の不透明感に突き動かされたものでもある。
スリランカ、インドにも懸念

視線をパキスタンから南アジア全域に広げてみよう。新型コロナウイルスの感染拡大を背景に始まった世界的なインフレは、ウクライナ情勢を触媒として一段と悪化した。経済・財政運営が盤石ではない南アジアの政治・経済を揺らしている。

スリランカは観光資源に依存した経済が災いし、債務不履行(デフォルト)の瀬戸際に来ている。

大国インドも例外ではない。足元で株価、通貨は比較的安定している。だが、懸案は外交にある。ロシア産原油の購入のほか、7日の国連人権理事会でのロシアの理事国資格停止の決議を棄権するなど、ロシアとの政治的なつながりの深さが懸念される。

3国とも通貨は「ルピー」だ。「3つのルピー」の動きは、国際政治、経済、市場の混乱の導火線となりかねず、注視が必要だ。インド洋を巡る情勢分析は、米中のパワーバランスを考えるうえでも欠かせないだけに、短期間では終わらない。』