「新首都はジャカルタの代わりになれず」 知事が指摘

「新首都はジャカルタの代わりになれず」 知事が指摘
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『インドネシアは2024年、北部の新都市ヌサンタラへの首都移転を始める。だが、首都ジャカルタ特別州のアニス・バスウェダン知事は日本経済新聞との会見で「ジャカルタは中心であり続ける」と述べ、首都機能の全面移転には時間がかかるとの見解を示した。首都移転はジョコ大統領の目玉政策だが、アニス氏は24年の次期大統領選への出馬が取り沙汰され、ジョコ氏との微妙な関係が透けて見える。

アニス氏は会見で「ジャカルタはインドネシア人の活動の中心であり続けるだろう。この重心を変えるようなシフトは予見できない」と述べた。首都はジャカルタから遠く離れたカリマンタン島東部に建設するヌサンタラへ移転される計画だ。

ジャカルタでは1928年、いわゆる「青年の誓い」があり、インドネシアのアイデンティティーと国のかたちが定められた。45年には独立宣言が発布された。こうした歴史を背景にジャカルタが国の「根幹部分」を形成していると、アニス氏は指摘する。
「ジャカルタの歴史は移せない」

アニス氏は「政府活動の移転は可能だが、歴史の移転はできない」と話し、ジャカルタの役割は政府活動の中心というだけではないと説明した。「ジャカルタは(インドネシアの)文化の中心で、経済の軸でもある。ジャカルタのこうした役割がすぐに低下することはないだろう」というわけだ。

首都移転はジョコ大統領の目玉政策で、法案が1月に国会で可決された。カリマンタン島のジャングルへの移転は24年のジョコ氏の任期終了前に始まる計画だ。外国の大使館や国際機関の代表部は、政府機関の後を追い、移転開始から10年以内にヌサンタラへ移るとみられている。

こうしたスケジュールは、新型コロナウイルスの感染拡大をはじめとする問題で、はっきりしなくなってきた。首都移転には300億ドル(約3兆7000億円)規模の費用がかかるとされるが、最近ではソフトバンクグループ(SBG)が出資を見送った。移転費用の26%は民間の資金で賄う計画で、インドネシア側には痛手だ。

東南アジアには、経済あるいは安全保障にからむ理由で、首都機能のすべてか一部を移転した国があり、インドネシアも追随する形となる。ミャンマーは06年に首都をヤンゴンからネピドーに移した。マレーシアは1990年代半ば、中央の一部機関をクアラルンプールから近郊のプトラジャヤに移し始めた。

ヤンゴン、クアラルンプールはその後もなお、国の活動の中心であり続けている。

ジョコ氏が首都移転の理由の一つにあげたのは、新首都が「磁力」を発揮し、ジャカルタを中心に人口が多く集まるジャワ島のほかの地域にも等しく、経済成長の恩恵を分け与える必要があるということだ。ジャワ島はインドネシアの国内総生産(GDP)の約6割を稼ぐ。ジャカルタに絞ってもGDPの2割近くを占める。
ジャカルタは交通渋滞と大気汚染に悩まされている(2020年)=ロイター

アニス氏は「ジャワ島とジャカルタへの経済の集中が過剰なのは認める」と話した。だが、経済がジャカルタに偏るのは、インドネシア政府がハード、ソフト両面のインフラ整備で全国に「均等な機会を与えなかった」からだと非難した。ジョコ氏は大統領就任後の約8年間、各地に道路や橋などのハードインフラを建設してきたが、教育や人材育成といったソフト面の開発は十分でないとの指摘がある。

アニス氏は「ジャカルタとジャワ島に人が集まる最大の理由は教育だ」との持論を披露した。同氏はジョコ政権の1期目で教育・文化相を務めた。「経済を巡り地域差をなくしたいのならば、教育がカギになる。主要都市を手始めに、すべての島で優れた教育の拠点を確保し、ジャカルタやジャワ島に来なくてもよいようにすべきだ」

アニス氏は私立パラマディナ大の学長だった2009年、インドネシアの辺境へ大学生を教師として派遣するボランティアプログラムを始めた。
現大統領の側近として政界入り

ジョコ氏が初当選した14年の大統領選で広報担当を務めたことが政界入りのきっかけだった。17年にはジャカルタ特別州知事に当選し、人口過密、地盤沈下、大気汚染、慢性的な交通渋滞といった問題を抱える首都のトップに就いた。
大雨による洪水で被災した高齢者を救助するボランティアの人たち(2021年2月、ジャカルタ)=アンタラフォト・ロイター

「ジャカルタは首都であろうとなかろうと、こうした課題をすべて解決しなければならない」とアニス氏は強調した。「首都移転がジャカルタの問題解決に直結するわけではない。例えば、ジャカルタの交通渋滞の原因を探ると、政府職員(の移動)の割合は4%にすぎない。政府職員が転勤しても、問題の96%は残り、大した効果はない」と言い切った。

19年の世界銀行の報告では、交通渋滞に伴うコストはジャカルタだけで26億ドルにのぼる。

アニス氏は同氏の指揮で、ジャカルタの渋滞緩和に向けた施策が進んでいると語った。17年の知事就任時、ジャカルタの公共交通機関のカバー率は42%だったが、21年には82%に拡大した。この間に、バス、鉄道、地下鉄、乗り合いタクシーに関するジャクリンコ社による決済システム統合プロジェクトの対象車両数は2倍の4000台超に増えたと主張した。

「公共交通機関を使うならば、歩道も必要だ」とアニス氏は話した。「過去4年間でジャカルタ全域に364キロメートルの歩道を設けた。1日あたりの公共交通機関の利用者は17年に35万人だったが、いまでは100万人に膨らんだ」
MRT(大量高速輸送システム)の正式営業開始を祝い、握手するアニス・ジャカルタ特別州知事(左)とインドネシアのジョコ大統領(2019年3月、ジャカルタ)=アンタラフォト・ロイター

こうした政策は有効なようだ。オランダの地図サービス大手トムトムによる世界の渋滞都市ランキングで、ジャカルタは16年に3位だったが、21年には46位に改善した。

アニス氏の目標は、公共交通機関の整備を進め、1日の利用者数を「少なくとも300万~400万人」に増やすことだという。

知事の任期は10月に満了する。選挙法に基づき、あらゆるレベルの首長選を24年に同時で実施するため、後任は政府が任命する暫定知事が2年間、務める。

アニス氏にはジャカルタ特別州の知事選に再出馬する可能性があるほか、大統領選の有力候補の一人だともみなされている。アニス氏は、いずれの選択肢についてもコメントを控えた。

調査会社サイフル・ムジャニ・リサーチ・アンド・コンサルティングが2月に実施した大統領候補としての支持率で、アニス氏はガンジャル・プラノウォ中部ジャワ州知事に次ぐ2位だった。

(ジャカルタで、谷翔太朗)
この記事の英文をNikkei Asiaで読む
Nikkei Asia https://asia.nikkei.com/Editor-s-Picks/Interview/Nusantara-won-t-replace-Jakarta-as-Indonesia-s-center-governor/?n_cid=DSBNNAR 』