停戦条件の「中立」、安全の担保弱く ウクライナ協議

停戦条件の「中立」、安全の担保弱く ウクライナ協議
将来の侵略、排除できず
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA319OR0R30C22A3000000/

『ウクライナの「中立化」がロシアとの停戦協議で焦点になってきた。ロシアが求める北大西洋条約機構(NATO)への加盟断念の代わりにロシアや第三国から安全を保証される体制をウクライナは訴えている。過去には中立を宣言しても侵攻された例があり、脆弱性を抱えた概念でもある。

交渉団は3月29日、イスタンブールで対面協議を開いた。その後もオンライン形式で話し合いが続く。

ウクライナは中立化の具体策として攻撃を受けたときは同国を第三国が軍事支援する仕組みを提案した。ゼレンスキー大統領は米メディアのインタビューでロシアも安全保証の枠組みに参加するよう求める意向を示した。

ロシアが例に挙げたのは軍事同盟に加わらず自国を守る軍隊を持つモデルだった。目指す「中立」のあり方を巡り、双方の認識に齟齬(そご)がある。

中立とは戦時と平時を問わず、国際社会で外交上、特定の相手に加担しない立場を指す。一般に軍事同盟には加わらない。先の世界大戦や米ソ冷戦で大国とのバランスを考慮して自国の主権や領土を守る目的で広がった。

国家の立場を巡り「中立国」と「中立化」の異なる2つの概念がある。中立国は多国間の条約など国際ルールに基づいて宣言し広く承認されたものだ。中立化はあくまでも国の外交方針として宣言する考え方を意味する。

中立国は条約などで武力行使や戦争参加の可能性を排除しており、そこへの攻撃は国際法違反と批判されやすい。中立国にとって国際社会の反応も自国の安全を守るうえでの担保となる。

中立国の代表例にスイスとオーストリアがある。ハーグ条約に基づき、戦争不参加や自衛の義務、自国領土不可侵の権利を持つ。将来にわたり自ら戦争を始めず、どんな戦争にも加わらない「永世中立国」として認められる。

自国の軍隊を持ち徴兵制を採用する。軍事同盟に加わって集団安全保障体制をとるのではなく個別の安保体制で自国を守る。スイスは第1次・第2次世界大戦で武装中立を貫いた。いまもNATOにも欧州連合(EU)にも加盟していない。

一方で中立化を掲げる代表国がフィンランドだ。旧ソ連から侵略された経験を踏まえ、1948年に同国と条約を結んで国土を守るための「中立主義」を宣言した。

冷戦期は米ソがそれぞれ主導するNATOとワルシャワ条約機構のいずれにも属さなかった。今はNATOに加盟していないがパートナーシップ協定は結ぶ。

とはいえ、中立を掲げても他国から侵略されない保証となるわけではない。

ベルギーとルクセンブルクは19世紀、欧州諸国が参加する条約で永世中立国と定められていたが第1次大戦でドイツから侵攻された。ベルギーは国土の大半を掌握され、永世中立を解除された。

ベルギーとルクセンブルクはともに1949年の発足時からNATOに加盟し中立政策を事実上放棄した。

今回のウクライナ侵攻では中立を掲げる国々がロシアへの対抗姿勢をみせた。スイスは制裁に加わり、フィンランドとスウェーデンはウクライナへの武器供与を決めた。

異例の対応の背景に「中立」という概念の脆弱さへの不安がある。ロシアの侵攻は相手が中立を尊重しなければ国際秩序が簡単に破られる現実を露呈させたからだ。北欧2カ国ではNATOへの加盟論も浮上した。

停戦協議でウクライナがロシアと中立化で合意しても、後にほごにされる不安は拭えない。

1994年のブダペスト覚書ではウクライナが核兵器をロシアに引き渡す代わりに、米英ロがウクライナの安全を保証すると約束していた。それでもロシアは2014年にクリミアに侵攻し、今回はウクライナ首都近郊まで進軍した。

米英も軍を派遣してまでウクライナを守らなかった。今回、ウクライナは中立化の条件として第三国による安全保証を求めているが、その仕組みで明確な合意ができない限り実効性は定かでない。

慶大の鶴岡路人准教授は「中立化するなら安全の保証が不可欠だ。効果的な枠組みが必要になるが、突き詰めると同盟や安保条約になる」と指摘する。「これは中立と相いれず、ロシアは認められないだろう。停戦協議の難しさはそこにある」と話す。

「米英にウクライナの安全を保証する用意があるようにもみえない。だからこそ侵略前、ウクライナのNATO加盟は進展していなかった。防衛義務につながるような保証は極めてハードルが高い」との認識も示した。』