米政権、リベラル派へ配慮 核巡航ミサイル開発中止へ

米政権、リベラル派へ配慮 核巡航ミサイル開発中止へ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN030BF0T00C22A4000000/

『【ワシントン=中村亮】バイデン米政権が新型の核巡航ミサイルの開発計画を打ち切る背景には、核軍縮を訴える与党・民主党のリベラル派への配慮がある。

中国やロシアと軍縮対話のメドは立たず、オバマ元大統領から引き継いだ「核なき世界」の実現はさらに遠のいていた。

バイデン政権は2021年3月に公表した国家安全保障戦略の暫定版で「核兵器の役割を下げる手段を講じる」と明記した。国防総省が月内にも全容を公表する「核体制の見直し」で、その具体策を示す段取りを描いた。

だが見直しの過程では同盟国が核の役割低下に相次いで懸念を示し、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて米政権は抑止力維持を優先する方向が決定的になった。

3月末に公表した核体制の見直しの概要では、核使用を原則として核攻撃に対する反撃に限る「唯一の目的」と呼ばれる構想の採用を見送る方針を明らかにした。

民主党のリベラル派は反発した。エドワード・マーキー上院議員は25日、唯一の目的の見送りが報じられると「バイデン大統領は軍事戦略において実存する核兵器の役割を減らす歴史的機会を逃した」と苦言を呈した。

核巡航ミサイルの開発中止に、こうしたリベラル派の不満を和らげる意図があるのは明らかだ。

米議会予算局(CBO)は核巡航ミサイルとその核弾頭の開発コストについて30年までに100億ドル(約1兆2200億円)と推計。開発を中止すれば、国防費を減らして社会保障やインフラ整備などに使うよう求めるリベラル派の意向に沿う形になる。

開発中止は核軍縮に向けて最低限のノルマを達成したにすぎない。バイデン政権は、オバマ政権がまとめた核兵器の近代化に30年間で1兆ドルを投じる計画をおおむね踏襲する。小型核弾頭を搭載する潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の配備も続ける方向だ。

大胆な核戦力の削減を進められないのは、ロシアや中国との核軍縮協議の進展が見込めないからだ。ロシアとは軍縮について話し合う「戦略的安定に関する対話」の再開のめどが立たない。

欧州ではロシアの核兵器への警戒感が高まっている。ポーランドのトマシュ・ザットコウスキー駐北大西洋条約機構(NATO)大使は3月下旬の日本経済新聞の取材で、ロシアが隣国のベラルーシに核兵器を配備するシナリオに言及したうえで「ゲームチェンジャーだ」と危機感を表明。NATOとして核態勢の強化を迫られると言明した。

中国をめぐっては、バイデン米大統領が21年11月に習近平(シー・ジンピン)国家主席とオンラインで協議して核軍縮やサイバーに関する高官協議を提案したが、具体的な動きは乏しい。

中国は米国のミサイル防衛の高度化に危機感を強め、ミサイル開発を進めているとされる。

国防総省は21年、中国が10年間で核弾頭数を5倍に増やして1000発を保有すると予測した。それでも中国は米国に比べて核弾頭の保有数が少ないため、核軍縮への参加に慎重な姿勢を貫いている。

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渡部恒雄
笹川平和財団 上席研究員
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核軍縮を進めるためには、まずは対抗する関係国がほぼ同規模の戦略を持たなければ削減への交渉が始まりません。

中国が核軍縮交渉に後ろ向きな理由です。遠回りのようですが、まずはこれまで核軍縮条約に縛られていない中国と核戦略で互角にならなければ、中国は核軍縮交渉には乗ってこないでしょう。

全体の核弾頭数では米国が中国よりも大きいのですが、我々が暮らす北東アジアの戦域においては、核弾頭を搭載できる中国の中距離弾道ミサイルが配備されていますが、INF全廃条約の影響で米国の中距離弾道ミサイルの配備はゼロです。

米国の巡航ミサイル開発断念は日本にとっては懸念材料です。

2022年4月4日 8:10

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説

バイデン政権による新型核巡航ミサイル開発計画打ち切りは、核軍縮に向けた前向きな一歩ではなく、記事にある通り、民主党内のリベラル派に対する配慮、党内のバランス維持に腐心せざるを得ないバイデン大統領の苦心の策と言える。

バイデン政権は上院の議席数、さらには党内のリベラル派と穏健派の双方を納得させる道筋の模索に苦労し続けている。

ウクライナに侵攻したプーチン大統領は核戦力の使用をつらつかせて(※ 原文ママ)おり、北朝鮮には核実験再開を準備している兆候がある。「核なき世界」はむしろ遠のいているのが実情である。

2022年4月4日 7:48 』