米バイデン政権、新たな環境規制に本腰 企業は身構え

米バイデン政権、新たな環境規制に本腰 企業は身構え
ワシントン支局 長沼亜紀
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN250270V20C22A3000000/

『米国でフッ素化合物「PFAS(ピーファス)」汚染への関心が高まっている。環境と健康に有害との理解が広まり、バイデン政権が「有害物質」への指定など規制強化に本腰をあげた。企業・事業者は今後重い責任を問われる可能性があり、身構える。小売業ではすでにPFAS使用廃止の動きが広がっている。

「汚染から人々を守り、汚染者に責任を負わせる」。環境保護局(EPA)のリーガン長官は昨秋、2024年までに広範囲で進める規制作りの工程を示した「戦略ロードマップ」を発表し、こう意気込んだ。PFAS規制強化はバイデン大統領の選挙公約だ。

ロードマップによると、EPAは「包括的環境対策・補償・責任法(CERCLA)」に基づく有害物質の指定、飲料水の安全規制の制定、環境水質基準の設定、毒性評価や健康指針の発表などを計画しており、すでにPFAS化合物製造企業への毒性検査の義務付けや飲料水のモニタリング対象の拡大など、着々と取り組みを進めている。
実話に基づく映画が世論を喚起 

PFASはパーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル化合物群の総称で、数千以上の種類があるとされる。水や油をはじく、熱に強い、薬品に強いといった特性があり、1950年代以降、防寒服、レインコート、食品パッケージ、消火剤などに利用されてきた。焦げ付きにくいフッ素樹脂加工のフライパンはPFAS利用の一例だ。

便利な化合物だが、廃棄後分解されるまでに長い時間がかかり、自然界に残り続けることから「フォーエバーケミカル」と呼ばれる。生産加工、流通、使用、廃棄のすべての過程で環境に放出され、除去は難しい。人体には飲料水や大気、土壌、食品、衛生用品、ハウスダストなどを通じて取り込まれる。生体内で蓄積されやすく、出生異常、がん、甲状腺疾患、免疫機能の低下などとの関連がわかっているが、種類が多く毒性レベルやそれぞれの影響の詳細は明確にはなっていない。

PFAS汚染への世論の関心を高めるのに一役買ったのが映画「Dark Waters(ダーク・ウォーターズ  巨大企業が恐れた男)」(2019年)だ。化学大手米デュポンの工場から廃棄されたPFASの一種の化学物質パーフルオロオクタン酸(PFOA)が河川に流れ込み、汚染水を飲んだ住民ががんなどにかかった事例を扱った。

住民は1999年以降訴訟を起こすが、当時規制されていなかったPFOAで企業責任を問うのは困難を極めた。しかし原告側弁護士はついに、デュポンが内部調査の結果、PFOAで出生異常が引き起こされる可能性を認識していたことを突き止める。最終的に2017年、デュポンが計6億7100万ドル(約820億円)を支払うことで和解した。
土壌や牧草、ミルクが高濃度のPFASに汚染されていることがわかり、酪農家はミルクを販売できなくなった(米メーン州)=ロイター

米国ではミシガン州、ニュージャージー州などでも住民や農家、州政府が企業の責任を訴訟で問う例が増えている。
廃止に動く外食チェーンや小売店

政権の規制強化の動きに水道事業者や企業などは身構えている。例えば、飲料水の規制は最大許容濃度という形で設定されるとみられるが、その他の有害汚染物質よりケタ違いに低い基準が定められる可能性が高く、水道事業者は技術的に容易ではない検出・除去に取り組まなければならない。またCERCLAに基づく有害物質に指定されれば、企業は排出報告が義務付けられ、汚染浄化にかかるコストを負担しなければならなくなる。

新たなデータや基準、規則に基づく訴訟のリスクが一段と高まるため、環境法の専門家らは「衝撃に備えよ」と警告している。米大手法律事務所ピルズベリーはリポートで「企業は先を見越してPFASとのつながりを解明し、責任負担を緩和する措置を考慮すべきだ」と進言している。

一方、消費者の関心の高まりを受け、製造業者や小売大手はPFAS廃止に向けて動いている。すでに「マクドナルド」や「タコベル」などのレストラン、「ホールフーズ」などの食料品店、「オフィス・デポ」(事務用品)や「REI」(アウトドア用品)などの小売店がPFASが使われた食品パッケージ、家具、衣料品などの取り扱いの禁止・段階的削減を約束しているほか、2月には「ミリケン」(繊維化学)が年内にPFASを含む繊維製品の全廃、3月には「バーガーキング」(レストラン)が25年までにPFASを含む食品パッケージの廃止を発表した。

米ノートルダム大学が北米で販売されている化粧品を調べたところ、口紅の55%、ファンデーションの63%にPFASの含有がみとめられた。国内ではカリフォルニア州やメリーランド州などですでに化粧品へのPFAS添加を禁じる州法が成立している。連邦議会でも同様の法案が提出されており、年内にも成立する可能性がある。

化学物質に関する消費者啓発に取り組む非営利団体「Toxic-Free Future」(トクシック・フリー・フューチャー)のマイク・シェイド小売業担当ディレクターは、「5年前ならPFASの代替品を探すのが難しかったが、この数年で大きく変わった」と指摘。グローバルに展開している企業が消費者や環境団体の圧力を受けてPFAS廃止に取り組み始めたことから「このトレンドは、日本を含め世界に広がる」と予想している。

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