スターリンと似るプーチン氏

スターリンと似るプーチン氏
英フィナンシャル・タイムズ前編集長 ライオネル・バーバー氏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD303C10Q2A330C2000000/

 ※ 『ジャーナリストのアン・アップルバウム氏は、プーチン氏が自由主義を標榜する国内のエリートを「くずどもや裏切り者」と呼んでいると指摘する。「プーチン氏がロシア社会の自浄を呼び掛ける目的はたった一つしかない。国民にスターリンと粛清を思い起こさせ、祖先の暗い記憶からの恐怖におののくようにしたいのだ」と述べる。』…。

 ※ 「恐怖」でしか、「統治」の「正統性」を、維持できない政治体制か…。

 ※ 「歴史」上、そんなに長く続いた例は、「無い」…。

 ※ 「被統治者」も、「人間」である以上、「我慢の限界」というものはあるからだ…。

『ロシアのプーチン大統領はかつて、尊敬する人物はピョートル大帝だと語った。18世紀初頭にロシアを近代欧州の列強の一つに仕立て上げた人物だ。南はアゾフ海、北はバルト海で港湾を掌握したピョートル大帝は、ロシア海軍の基礎をつくった。彼の最も素晴らしい遺産は西部に建設した都市サンクトペテルブルクで、1917年のロシア革命まで首都であり続けた。

対して、プーチン氏の遺産は、ウクライナ侵攻を決めた後では特に貧弱に見える。数日間でウクライナを制圧できるどころか、ロシア軍は多数の犠牲者を出し、戦車を破壊されるなど痛烈な反撃を受けている。プーチン氏は西側諸国を結束させ、ロシア経済を窮地に追い込んだ。

指導者としてのプーチン氏は、ジョージア(グルジア)出身で22~53年にソ連を率いたスターリンに似ている。スターリンは30年代の「大粛清」での弾圧や拷問、強制収容により、多くの死者を出した。プーチン氏は大粛清ほどの犠牲を生んでいないとはいえ、振る舞いは冷酷な独裁者のスターリンに近づいている。

ジャーナリストのアン・アップルバウム氏は、プーチン氏が自由主義を標榜する国内のエリートを「くずどもや裏切り者」と呼んでいると指摘する。「プーチン氏がロシア社会の自浄を呼び掛ける目的はたった一つしかない。国民にスターリンと粛清を思い起こさせ、祖先の暗い記憶からの恐怖におののくようにしたいのだ」と述べる。
英フィナンシャル・タイムズ前編集長 ライオネル・バーバー氏

プーチン氏とスターリンの間には他にも共通点がある。スターリンは41年、ナチスドイツ軍の猛攻に直面した。彼はウクライナのキーウ(キエフ)周辺での戦闘を命じたもののソ連軍は包囲され、壊滅した。プーチン氏も持ち運びやすい21世紀型の武器を軽視し、戦車や重砲に依存しているようにみえる。結果として、ロシア軍は第2次大戦以降で最も急速なペースで兵士の命を失っているようだ。

プーチン氏はウクライナに傀儡(かいらい)政権を早々に樹立できると考えていた。しかし侵攻の出だしでつまずくと、ひたすら恐怖をかき立てる作戦に切り替えた。南東部のマリウポリを徹底的に破壊し、占領した土地から民間人をロシアに連れ去った。ポーランドなどでの第2次大戦終盤の強制移住は、スターリンの代名詞でもある。

プーチン氏は狩猟用の格好をするなど、男らしさをアピールする。政府内の安全保障担当者たちにはウクライナ問題で忠誠を求める。スターリンと肩を並べる演技で、プーチン氏に足りないのは桜材のパイプたばこぐらいだろう。

ソ連のジューコフ元帥は回想録で、数多くの兵士の命を無駄にした責任がスターリンにあると非難した。プーチン氏もあらゆる人命に対して無関心な様子だ。私が2019年にインタビューした時、彼はロシアと英国の二重スパイだったセルゲイ・スクリパリ氏に神経剤が使われた暗殺未遂事件を「(20分の1ルーブルに相当する)5カペイカのスパイ小説」と評した。

プーチン氏は侵攻前、ウクライナが存在する権利はないという意味の発言をした。しかし戦闘が1カ月以上続いてなお、プーチン氏はウクライナの政権を崩壊させるなど当初の目標を達成していない。今後攻撃をさらに強め、化学兵器などの大量破壊兵器を投じるつもりだろうか。あるいは東部ドンバス地方を奪取するなどの領土的な野心を抑制し、面目を失わずに手を引こうとするだろうか。

ウクライナの東部と西部の分断については、朝鮮戦争の休戦協定に似た協定を持ち掛けることもできたはずだ。しかしプーチン氏は戦争への突入を選んだことで、後退しづらくなった。ゼレンスキー大統領率いるウクライナ政府は最後の1人になるまで戦う構えを示している。バイデン米大統領はポーランド訪問中、プーチン氏を虐殺者と呼び、権力の座に居座る権利はないとまで述べた。

追い詰められたプーチン氏は真実と虚構の混ざった不満を抱え込み、危険だ。国際社会はある意味で、プーチン氏がスターリンともう一つの共通点を持つことを期待するしかない。無慈悲で常軌を逸しているが、究極的には合理的な人物であることだ。

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Nikkei Asia https://asia.nikkei.com/Opinion/Vladimir-Putin-turns-to-the-Stalin-playbook?n_cid=DSBNNAR 』