プーチンの戦争:ゆがんだ経済構造の下、無謀な決断は何をもたらす?

プーチンの戦争:ゆがんだ経済構造の下、無謀な決断は何をもたらす?
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00351/032300018/

『以上の事実関係に加えて、周知の通り、新型コロナウイルス感染による経済被害はロシアでも深刻で、20年の経済成長はマイナス2.7%に落ち込んだ。21年にかけての2年に及ぶ景気低迷の中で、一般企業の経営体力はさらにそがれたとみてよい。つまり、戦争前夜のロシア経済は、民間企業セクター衰退し、疲弊していたといえるだろう。』

『一方、プーチン氏の取り巻きであるオリガルヒ(新興財閥経営者)は、政府の強い庇護(ひご)の下でいわゆる「ビッグビジネス」の多くを奪取し、その結果、ごく一握りの人々がロシア企業資産の過半を所有するという産業体制が築かれた。実際ロシア財界の集中度はすさまじい。

 ロシア経済誌RBKによる、ロシアの20年売上高上位500社ランキングを見ると、これら500社の総売上高は84.9兆ルーブルであり、その対GDP比は79.4%に相当する。14年は70.9%、17年は78.5%であったから、ロシア大企業の市場支配度はその水準が極度に高いというだけではなく、漸次増大する傾向ですらある。

 RBK誌の企業ランキングが明らかにするもう一つの事実は、国有企業の際立った存在感である。上位500社中75社が国有企業であるが、その売上高シェアは推定40%超に達する。表2は、ランキングトップ20社を一覧しているが、実にその12社が国有企業である。国家の産業支配は極まっているといえるだろう。』

『これら大企業の多くを率いるのが、「プーチンのオリガルヒ」である。彼らは、例えばソ連崩壊後の混乱期に自らの才覚やエリツィン政権との際どい政治的駆け引きを介して財を成したボリス・ベレゾフスキー氏(亡命後2013年に原因不明の死去)や、ミハイル・ホドルコフスキー氏(現在亡命中)ら第一世代とは異なる人々である。血縁・地縁を介してプーチン氏と深くつながり、しばしば政府から大企業へ送り込まれた第二世代である。

 その中にはソ連時代の国家保安委員会(KGB)や内務省などの治安機関出身者が含まれている。プーチン氏と格別に親密な彼らは、その出身から「シロビキ」と呼ばれる。

 シロビキは、表2に登場するロスネフチ、ロステク、VTB、トランスネフチという超巨大企業に加え、各種報道機関をも実効支配し、プーチン氏の権力基盤を陰に陽に支えている。

 財界でのオリガルヒの跋扈はプーチン氏との結託に裏付けられており、同時にプーチン氏の威勢は彼らの産業支配によって維持されている。実に大掛かりなもたれあい構造がこの国では公然と成立しているのである。』

『こうした経済構造は典型的な「縁故資本主義」(クローニー・キャピタリズム)であり,故に最近ではプーチン氏の国民経済に対する政策的関心は薄れ、オリガルヒとの結託関係の維持に視野が狭窄(きょうさく)されていた可能性は高い。うがった見方だが、このたびの外資系企業資産接収命令も、国民向けというよりむしろ今回の事態にいら立つオリガルヒのなだめすかしが目的なのではないか。』

『ウクライナへの軍事侵攻はさまざまな形でロシア経済に大打撃を及ぼすことは自明なのだが、国家オリガルヒの産業支配バックとするプーチン氏にとって、市民生活の疲弊や国内経済の低迷という政策リスクはさほど重要な意味を持たないことが、このたびの蛮行を呼び起こしたといえる。「ロシアを核とした超大国の復活」という自身の無謀な野望を優先した、ロシア市民と経済を軽視した決定に他ならない。』