Eliot A. Cohen 記者による2022-1-27記事「Putin’s No Chess Master」

Eliot A. Cohen 記者による2022-1-27記事「Putin’s No Chess Master」
https://st2019.site/?p=18471

『※記者は元国務省顧問で、近著には《ソフトパワーなんて無力。巨棒だけが意味がある》というものあり。

 プーチンが恐れているのはウクライナがNATOに加盟することではない。ソ連から切り離されて30年にして、民主主義化の流れが定着しようとしている、そんな見本にウクライナがなっていることなのだ。この見本を破壊してやりたいのである。その口実は何でもアリなのである。

 アゼルバイジャンのような、他の「旧ソ連諸邦」もウクライナの道を支持している。プーチンは知っているのだ。ソ連はもう再建できない。

 これと似ているのは、1956年にエジプトに侵攻した英仏政府。とっくに「帝国主義」の時代は終わっているのに、それにあらがって、世界じゅうから袋だたきされ、何も得る物がなかった。

 プーチンはNATOにすごい贈り物をくれた。ソ連崩壊後に軍事同盟は必要なのかという庶民の疑念に、あまりにも明白な答えが投げ込まれてきた。ロシアある限り、それは必要なのである。いまやスウェーデンとフィンランドも、NATO加盟を真剣に考慮中だ。

 今のロシア軍は赤軍当時から「三つの基本」が改善されていない。すなわち、装備のメンテナンス、兵隊の士気、そして指揮官のイニシアチヴだ。

 世界のどの国においても、陸軍は、その国家国民の姿をそのままに反映する。ロシアの場合は、陋劣な保健衛生、天然資源の輸出で外貨を稼ぐという経済構造の原始性、腐敗し私益を追い求める指導者層……。

 サイバー戦線に関しては、西側が遠慮して攻撃を控えていたから、ロシアがプレイヤーとして目立ったのだが、もしサイバー反撃を受ければ、ロシアこそがひとたまりもない。

 1864年5月、ロバート・E・リーは、南軍の最後の力をふりしぼり、北部に反撃しようとしていた。北軍の司令官ユリシーズ・グラントは、しかしこの「ウィルダネスの戦い」で南部の力が尽きることを知っていた。

 ところがグラントの帷幕外の将官たちときたら誰も彼も、「私はリーをよく知っています。リーは全力で我が軍の左翼(もしくは右翼、もしくは後方、もしくは中央)に、とつぜん現れて我々を孤立化させ、撃砕するでしょう。危機です!」と、うろたえまくった注進ばかりするので、グラントはうんざりしてしまった。

 今、「プーチンはリスペクトを欲している」などと得々と精神分析している論筆家たちの蔟生と、グラントほどの総合判断力をもっていなかった南北戦争当時の凡庸な将官たちの姿は、重なって見えるのである。』