「脱ロシア依存」どこに? 欧州の露産ガス輸入過去最大に2018/3/1 12:00

「脱ロシア依存」どこに? 欧州の露産ガス輸入過去最大に
2018/3/1 12:00
https://www.sankei.com/article/20180301-XMW3SM5TGVLNVNVZY5VSMKZXUY/

『欧州がロシアから輸入する天然ガス量が昨年、最大を記録した。欧州連合(EU)はウクライナ危機を機に、エネルギー分野でのロシア依存の低下と供給源の多様化を目指すが、これに逆行するような傾向だ。加盟国の対応にも温度差が目立ち、米国も懸念。「脱ロシア」はかけ声倒れに終わるのか-。

(ベルリン 宮下日出男)

 「欧州における露産ガスの需要増大だけでなく、供給に対する信頼も示している」。欧州メディアによると、露国営天然ガス大手ガスプロムのミラー社長は1月3日、報道陣を前にこう胸を張った。

 説明によると、欧州とトルコへの2017年の天然ガス輸出量は計1939億立方メートルに上り、2年連続の増加。輸出先別でみると、重要な顧客であるドイツは16年比で7・1%、フランスも6・5%増えた。全体の増加幅は8・1%。理由としては、欧州経済の回復や欧州でのガス生産の減少などが挙げられている。

 ロシアの経済は石油や天然ガスなど豊富な資源の輸出で成り立っている。それをロシアに頼る欧州では、エネルギーの供給を武器にロシアがEUに影響を及ぼすことが懸案。14年のウクライナ危機で対露経済制裁に踏み切る際、エネルギーの安定供給に影響が出るとの不安が強まり、その状況の改善が大きな課題になった。

 それから3年以上。EUはエネルギー供給源の多様化などを掲げたが、欧州委員会などによると、露産ガスはEUの総輸入量の4割近く、域内消費量の3割以上を占める。簡単に実現できるものではないとはいえ、「(対露依存の)傾向が変わるサイン(兆候)はほとんどない」(欧州メディア)。』

『さらにここにきて議論の的になっているのが、バルト海を経由して露独間をつなぐパイプライン「ノルドストリーム2」計画だ。11年に稼働開始した既存のパイプラインに新たな設備を併設し、供給量を倍増させる内容で、ガスプロムやドイツ、オーストリアなどのエネルギー企業が進める。

 欧州ではウクライナ危機以前にも、露産ガスの主要経由地だったウクライナとロシア側の対立で欧州へのガス供給に大きな支障が出た経験がある。計画にはウクライナを迂回する輸送経路をつくり、欧州への安定供給を図る狙いがある。

 だが、この計画には「脱露」と逆行するとの異論が強い。特に反発するのはガス供給で素通りされる形のポーランドやバルト3国。これらの国はロシアへの警戒が強く、ロイター通信などによると、リトアニアがすでにノルウェーや米国の液化天然ガス(LNG)輸入を始め、ガスプロムとのガス契約更新を拒否するなど、自ら脱露を急ぐ。

 米国も東欧に加勢する。ティラーソン米国務長官は1月下旬にポーランドを訪問した際、「米国はノルドストリーム2に反対だ。欧州のエネルギー安全保障を損なう」と明言した。

 米国の反対の背景には、トランプ政権下で輸出拡大を図るエネルギー政策もある。

 一方、欧州市場でシェアを維持したいガスプロム側は将来的な価格上昇と需給逼迫の可能性を強調。欧州に「だれがその需要を受け持つのか検討する必要がある」とさらなる輸入増を訴え、危機感もみせる。』

『ただ、LNGはパイプラインで運ぶガスよりコストがかかり、欧州が露産ガスに頼るのは、その割安な価格にも理由がある。英オックスフォード・エネルギー研究所の専門家、チエリー・ブロス氏は、外交政策として脱露を目指す半面、市場は安価なガスを選ぶ欧州を「分裂のような状況」と表現した上で、脱露の障害となるのは「追加コストを誰が担うかという問題」だとも指摘している。

ガスプロム 天然ガスの生産・供給で世界最大級のロシア企業。1989年設立。天然ガスのシェアはロシア国内の72%、全世界の17%を占める。最大株主はロシア政府で株式の50・23%を握る。ガスプロムが50%超を出資・開発する露極東サハリンからの液化天然ガス(LNG)が日本にも供給されている。』