[FT]身構える最前線の街 ウクライナ南東部マリウポリ

[FT]身構える最前線の街 ウクライナ南東部マリウポリ
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『ウクライナ南東部の都市マリウポリを襲った悲惨な砲撃から7年。この街で育ったビタリー・ドラグネフさん(35)は、再び流血の事態になるのではないかと不安を募らせている。

「この街に住んでいるともちろん不安になる。ロシアから30キロメートル、前線から10キロメートルしか離れていないのだから」と話す。前線とは、東部ドンバス地方でのロシアの支援を受けた親ロシア派武装勢力とウクライナ軍との紛争の第一線だ。

2015年の砲撃で30人死亡
ドラグネフさんは、自宅周辺が親ロシア派勢力との長期に及ぶ紛争の悲惨な現場になった2015年1月24日の朝の出来事を辛そうに振り返った。わずか30秒の間に126発のロケット弾が旧ソ連時代に建設された団地に撃ち込まれた。子ども2人を含む民間人30人が死亡し、117人が負傷した。

弾道を調べた結果、砲弾は近くの親ロシア派武装勢力の拠点から発射されたことが判明した。住民の一部はその証拠をなお信用していないが、ドラグネフさんはこうした声に耳を貸そうとしない。ミサイルがすぐそばに撃ち込まれたスーパーマーケットの近くに立ち、「侵略者ロシアの仕業だ」と言い切った。

マリウポリは再び標的になっている。ウクライナの当局者は、ロシアが侵攻してくるという観測は同国政府の周到なはったりだと言い張るが、マリウポリ市民にはロシアの脅威が重くのしかかる。

ウクライナは、同国との国境付近の各所にロシアが、少なくとも12万7000人の兵力を集めていると主張する。ロシアが14年に併合を宣言したクリミア半島、親ロ派武装勢力が実効支配するドネツク州、ルガンスク州の一部地域も含めた人数だ。ロシア軍は25日、マリウポリの東にあるロシア南部ロストフ州で厳戒態勢に入った。

軍港と製鉄所がある要衝
マリウポリは14年、親ロ派武装勢力に一時占領されたが、ウクライナ軍が奪回した。軍港と欧州で最大規模の製鉄所が2つあるため、米国や英国は、ロシアのプーチン大統領が再びウクライナ侵攻に踏み切れば、マリウポリが標的になると主張する。

仮にロシア軍が西方に勢力を拡大し、同国の本土からクリミア半島に至る回廊地帯を奪うか、南部オデッサまでの海岸沿いの地域を制圧すれば、マリウポリはロシアの支配下に置かれる。その場合、ウクライナは重要な輸出ルートであるアゾフ海の港湾にアクセスできなくなる。

「武器を手に戦う」
ウクライナの首都キエフからマリウポリに戻って来たばかりの弁護士、イェウヘンさんは「マリウポリは真っ先に攻撃や占領の対象になるだろう」と話す。

「逃げるつもりはない。武器を手に取り、戦うつもりだ。ここは私の故郷だから」と、覚悟を示した。「プーチンはロシアとウクライナが同胞だと言うが、クリミアを奪い、ドネツクとルガンスクを占領した。実際の行動は正反対だ」

ウクライナの当局者は全面戦争のリスクについて多くを語らない。だが、十分に訓練を受け、装備が改善し、実戦を経験したウクライナ軍はロシア軍に引けを取らないと強調する。

マリウポリ郊外の検問所で、厳戒態勢が敷かれていないのはなぜかと尋ねた。憲兵は「パニックは起きていない。ウクライナ軍は14年よりもずっと強くなっている。万事、うまくいくだろう」と答えた。

「戦争のリスクはない」と市長
マリウポリのバディム・ボイチェンコ市長も差し迫った脅威をなるべく小さくみせようとした。インタビューに応じたボイチェンコ氏は「テレビやSNS(交流サイト)においては(まるで)戦争のような状態だが、こうしたリスクが実際にあるとは思っていない」と話した。

ボイチェンコ氏は、皮肉を込めて続けた。「東の『友人(ロシア)』による活動が目立っているようにはみえない。(米欧の)政治家の友人が事態をあおっていると思う。いずれも交渉の一環で、誰もが力を誇示したがっている」

この地域の拠点から取材に応じたウクライナ軍のイーホル・デュミン陸軍大尉は「マリウポリとその周辺に駐留している部隊は充実しており、陸海空から敵を押し返すことができる」と強調した。

だが、匿名を条件に取材に応じたウクライナの国境警備隊の軍曹は、ロシア侵攻の脅威を軽んじていなかった。「恐ろしい状況だ。侵攻される可能性は5割くらいだと思う」と明かした。

ボイチェンコ氏によると、マリウポリの住民はロシア系が多いが、14年にドネツク州から10万人の避難民を受け入れた後、ウクライナ寄りになった。同市は学校、病院、道路の再建に予算を投じてきた。

割れる市民の見方

市民の見方はなお割れている。

ベロニカさんは雪に覆われた歩道でベビーカーを揺らしながら懸念を示した。「もちろん全面戦争が勃発するのではないかと恐れている。ロシアは侵攻してくるはずだ」。その一方、「ウクライナ側からの挑発もあり得る」とも指摘した。ロケット弾による15年の攻撃はウクライナ軍の仕業だと主張した。

年金生活者のネラ・バシリブナさんは、両親がウクライナ人だが、ロシアで生まれた。バシリブナさんは「現状ではすべてが挑発だ」と言い切った。米国が、東欧諸国に兵士を増派する計画を明かすことで「事態をあおっている」と決めつけた。「今度はウクライナに(米軍を)駐留させようという魂胆なんだ」

巨大なアゾフスタル製鉄所で、建設作業員のオレクシーさんは、朝のウオッカをすすりながら「最も苦しむことになるのは何の落ち度もない一般市民だ」と述べ、「あまりにひどい」状況だと嘆いた。

オレクシーさんの同僚は「戦争にはならないだろう」と口をはさんだ。取材に対しては「どんな未来を望むのかと尋ねられても、私たちの運命はロシア、英国、ドイツ、米国のような大国の意向に委ねられているが現実だ」と、諦めた様子で答えた。

By Ben Hall and Roman Olearchyk

(2022年1月27日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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