経済強国は「17年天下」か ともに豊かに、重圧900兆円

経済強国は「17年天下」か ともに豊かに、重圧900兆円
https://www.nikkei.com/telling/DGXZTS00000610Q1A211C2000000/

『たった3年だ。中国内陸部、巫山県双竜鎮白坪村。それまでの底辺の生活が夢だったかのように、妻や94歳の母らと暮らす劉道学さん(64)の毎日も一変した。

水もガスも道路もまともに通っていない極貧集落だった。「貧困人口をゼロにする」。習近平(シー・ジンピン)国家主席が掲げた目標を死守するため、1000万元(1億8000万円)超を投じて大型観光施設を建設。インフラ整備も進み、村民282人が貧困を脱した。

福建省への出稼ぎで年1万元を得るのがやっとだった劉さん一家も、世帯収入が5倍に増えた。特需や補助金はいつまで続くか分からない。それでも「習主席のおかげ」と幸せをかみしめる。』

『歴代王朝が苦しんできた貧困との戦いを制し、長期に渡る最高権力者として「大中国」を統べる。異例の3期目を狙う習氏の権威を支えるように、いま多くの寒村には真新しい住宅や各種「箱物」が立ち並ぶ。

世界との摩擦もいとわない強国路線の中心にいるのが習氏だ。それは絶大な権力で内政を掌握しつつある自信の表れともとれるが、同時に不安と背中合わせの虚勢もちらつく。

世界最大の経済大国の座は長く持たない――。日本経済研究センターが中国の国内総生産(GDP)を予測したところ、新たな傾向が見えてきた。

インフラや不動産など過剰な投資に頼る経済は限界に近づき、ネット企業などへの統制強化も生産性を鈍らせる。名目ベースで米国を上回るのは2033年と、昨年推計から4~5年遅れる見通しだ。

さらに試算では50年に、米国に再逆転を許す。人口減と高齢化が重荷となり、中国の「17年天下」が現実味を増す。

習氏が「共同富裕(共に豊かになる)」を急ぐのも、懸念が募っているからだ。急速に老いる14億人を養い、正当性を証明し続けなければならない。代価も桁違いだ。』

『習政権が掲げる当面の目標は35年だ。この年までにすべての市民に「豊かになっている」と実感させ、共同富裕の定着を狙う。

現在は農村部を中心に、約5億人が単純計算で年1万6000元(約30万円)以下の厳しい暮らしを強いられている。人口比では4割だが、この層の所得は合計しても中国全体の14.1%にとどまる。あと10年強で、仮にこの下位40%の所得割合を先進国平均の20.6%にまで引き上げ、上位との格差を縮めるには、5億人全員の収入をいまから3.4~4.3倍に増やす必要がある。』

『中国国家統計局のデータなどから割り出した。

現状の経済成長シナリオでは、5億人の所得は2.3~3.0倍程度にしか増えない。共同富裕の実現には、さらに地域振興や産業誘致で累計900兆円、こうした低所得層の収入を積み増さなければならない。』

『しかしそれが達成できてもなお、農村の5億人は年100万円程度の生活だ。習政権がめざす「中等先進国」には遠い。

豊かとされる都市部でも、市民の間には先行きへの不安が広がる。

「違法だが、雇ってもらう立場だから」。北京市で昨夏まで塾講師をしていた劉暁雯さん(40)は視線を落とす。職場に入る条件として、毎月の給与を現金かアプリ決済で払うと提示された。

経営者からは「社会保障費を抑えるためだ」と告げられた。中国の年金や医療保険は雇用主の負担が大きい。銀行振り込みでなければ痕跡が残らず、企業は得をする。

単発仕事で暮らすギグワーカーの増加もあり、年金未納が相次ぐ。「会社員らが加入する公的年金の積立金が35年に枯渇する」。中国社会科学院も警鐘を鳴らし、諦観が働き盛り世代を覆う。年金を持続させるには、毎年12兆円もの財政補塡が必要との試算もある。

老いる中国は人ごとではない。もはや中国とつながっていない国などないからだ。坂の上を越しつつある「大中国」を世界最大のリスクとみるか、それとも対話すべき隣人ととらえるか。次世代のために誰もが考える時に来ている。』

『中国「米国に比肩」の夢
GDP逆転、9年後か幻か
中国の習近平(シー・ジンピン)政権は建国100年の2049年までに米国と肩を並べる強国を築く方針を掲げる。米中の経済規模の首位逆転の時期やその後の見通しは、国際社会における双方の勢力圏づくりに大きな影響を及ぼす。今後を左右する様々な条件から描く中国経済の未来図は、規制や改革など当局の手綱さばき次第で良くも悪くも大きく変わる。

名目国内総生産(GDP)で33年に中国が米国を追い越し、17年後の50年に米国が抜き返す――。日本経済研究センターは最新の調査でこう分析する。標準的なケースでは中国のGDPは38年に米国を5%近く引き離す。40年代は差が縮み、米国に再逆転を許した後、60年には米国を1割下回ると予測した。』

『日経センターは企業の設備(資本)、労働力、技術進歩や効率化が左右する生産性の3つの条件から、60年までのGDPをはじき出した。これまでの経済発展で資本蓄積が進み、今後は設備投資の伸びが鈍化。不動産の過剰投資規制も中期的に投資を抑える。働き手の減少で労働参加率は低下が続き、ネット企業などへの規制強化が生産性向上の足かせになると想定した。

これら3つの条件次第では楽観的な見通しも描ける。ハイテク関連などで設備投資が大幅に増え、企業への規制緩和やさらなる対外開放で生産性の伸びが落ち込まなければ、比較的高い経済成長率を保てる。定年延長などによる労働参加率の上昇も含めて3つの条件すべてが上振れすれば、米中逆転の時期は31年に早まり、その後、米中の差は開き続ける。中国が覇権を取る時代の未来図といえるかもしれない。

反対にすべての条件が下振れする場合は「米国に比肩する強国づくり」という夢も幻に終わる可能性が高まる。この場合、中国のGDPは米国を追い越せず、対米比率は36年前後に9割に達した後、低下に転じる。60年には65%まで下がり、17~18年の水準に逆戻りするという結果になった。』

『中国では激しい競争社会や高い生活コストに嫌気が差し、最低限の生活が送れれば満足する「寝そべり族」と呼ばれる若者が増えている。「お金は通常の生活が送れれば十分だ。足りない分は働いて稼ぐが、多く稼ごうなんて思わない」。山東省の田舎で国語教師を勤めていた牛暁雨さん(26)は自ら寝そべり族だと認識する。

教壇に立っていた時は、校長をはじめ教員は皆「点数至上主義」に染まっていた。勉強を嫌々させられている児童の顔を見て矛盾が膨らみ、心理的な負担を重ねた牛さんはうつ病を患った。長期休暇をきっかけに「金をはじめいろいろなものへの興味がうせた」。

第一生命経済研究所の星野卓也主任エコノミストは「将来の教育費を抑えるために子を産まないという選択が増える可能性を示唆する現象だ」と指摘する。星野氏は女性が生涯に産む子の数を示す合計特殊出生率に注目。現状、1.3の出生率が21年以降、1.0で推移すると、米中のGDP再逆転は日経センターの標準ケースよりも早く、最短で45年に前倒しになると予測する。

「子は1人」という家族観が根強く、現役世代の老後への不安もくすぶるなか、出生率はさらに下がるとの見方もある。長年の産児制限のツケで歯止めがきかない出生率の低下は将来の労働力確保に重荷となる。』

『「大中国の時代 坂の上の罠」記事一覧
( https://www.nikkei.com/theme/?dw=22012100 )

①台湾うかがう「強国」の橋 習氏の焦燥、爪を隠せず

②米全土2回買える「地価」 鬼城が映す不動産バブル

③世界3万都市に監視の目 中国、制裁かわし半導体強国へ

④中国14億人市場の重力圏 近づけば不評、離れても打撃

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『「大中国の時代」取材班 阿部哲也、島田学、岩崎航、原島大介、黄田和宏、桃井裕理、中村裕、土居倫之、小川知世、若杉朋子、多部田俊輔、川手伊織、川上尚志、渡辺伸、比奈田悠佑、山田遼太郎、綱嶋亨、西野杏菜、羽田野主、松田直樹、山下美菜子、本脇賢尚、高橋耕平、遠藤智之、大塚節雄、木原雄士、小林健、大越優樹、金子冴月、高野壮一、佐藤季司で構成しました。』