ミャンマー軍と経済、中国・ロシアが侵食 政変1年

ミャンマー軍と経済、中国・ロシアが侵食 政変1年
ミャンマー政変1年(上)
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『ミャンマー国軍が政変で実権を掌握してから2月1日で丸1年を迎える。米国や欧州は国軍が拘束した民主化指導者アウンサンスーチー氏の解放に向け圧力をかける一方、米欧と対立する中国やロシアは国軍への関与を強め、影響力の確保を狙う。一時は民主化の成功例とされたミャンマーは、西側と対抗する中ロの強権体制の陣営に組み込まれつつある。

2021年12月、中国と国境を接するミャンマー北東部シャン州の山あいの都市モンラー。ミャンマー国軍の幹部一行は、対立する6つの少数民族武装勢力の代表者と向き合った。「中国当局の関係者が少なくとも5人、参加していた」。国軍幹部は日本経済新聞の取材に明かした。

ミャンマーは多くの少数民族を抱え、一部は独自の軍を持つ。約20の武装勢力のうち10勢力は条件付きで停戦協定に署名したが、12月の会合に出席した6勢力はいずれも未署名だ。国境地帯の不安定化を懸念する中国が仲介役になったとみられる。

中国海軍は同12月24日、中古の潜水艦をミャンマーに無償譲渡した。ミャンマー海軍にとっては2隻目の潜水艦で、国軍トップのミンアウンフライン総司令官自ら、同日の就役式に出席した。

ミャンマー国軍はクーデターにより米国や欧州連合(EU)から経済制裁を受け、国際的に孤立している。経済的に困窮するなか、手を差しのべる中国は国家運営上、大きな助け舟だ。当局が市民に接種する新型コロナウイルスワクチンの大半も中国が供給している。

中国のミャンマーへの接近は、インド太平洋地域での米国をにらんだ軍事戦略の一環でもある。現在のインド洋への主要航路はマラッカ海峡を経由するが、同海峡は有事には米海軍に封鎖される恐れがある。中国にとって陸路で直接インド洋にアクセスできるミャンマールートの価値は大きい。

中国は経済面でも影響力を強めている。ミャンマー中央銀行は12月、中国との国境貿易で人民元での決済を認めると発表した。ミャンマーの貿易業者は人民元建ての銀行口座を開設できるようになる。

中国共産党系の環球時報(英語版)は「経済的困難を背景にミャンマーが陥っている米ドルなどの外貨不足に対処することが目的だ」と解説した。天然ガスなどの中国向けパイプラインの起点となるインド洋岸のチャウピューに中国企業主導で大規模港湾を建設し、中国・雲南省とつなぐ「中国・ミャンマー経済回廊」構想もある。

中国との関係を深める軍事大国、ロシアもミャンマーに接近する。政変後の21年3月、フォミン国防次官が国外からの唯一の賓客としてミャンマーの国軍記念日式典に出席した。それ以降も国防関係者の往来は活発だ。同年6月にはミンアウンフライン氏も約1週間ロシアに滞在した。

ウクライナ問題で米欧の制裁が続くなか、ロシアにとってミャンマーは武器の輸出先として重要だ。タス通信によると、ショイグ国防相は21年12月21日、国防省の会合で、中国やインドなどと並べてミャンマーの名を挙げ「軍事協力の分野でパートナーであり続ける」と強調した。

あるミャンマー国軍幹部は「中国やロシアとの友好関係があれば、何の問題もない」と強気の姿勢をみせる。民主主義のリーダーを標榜し、国軍に厳しい態度で臨むバイデン米大統領は今秋の中間選挙を前に有権者の関心が高い対中政策やウクライナ危機への対応に忙殺され、ミャンマー問題に注力できていないのが実情だ。

バイデン政権はミャンマー国軍幹部や関連企業への制裁を発動し、スーチー氏の解放などを求め続けている。だが、市民生活への影響を考慮し、11年以前に軍事政権に科した広範な経済制裁には踏み込んでいない。米ランド研究所のズィグラー氏は「制裁はほぼ効果がなかった」と話す。

AFP通信は22年1月11日、ミャンマーの活動家グループの話として、21年に米国の制裁で禁輸対象になっているチーク材1600トンが米国企業に輸出されたと伝えた。多方面で外交課題を抱える米国の監視網が緩くなっている可能性がある。

ミャンマーが加盟し調整役を担うはずの東南アジア諸国連合(ASEAN)は内部の路線対立で機能不全に陥っている。国軍との対話の必要性を主張する22年議長国カンボジアのフン・セン首相は7日にミンアウンフライン氏と会談したが、一部の加盟国が同氏の融和姿勢に不満を表明。直後に予定されていた外相会議がキャンセルされる一幕もあった。(ヤンゴン=新田裕一、ジャカルタ=地曳航也)』