強硬プーチン氏 NATO不拡大要求、大統領再選にらむ

強硬プーチン氏 NATO不拡大要求、大統領再選にらむ
編集委員 池田元博
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD245PC0U2A120C2000000/

『ウクライナ情勢が緊迫している。ロシアのプーチン大統領は敵対するウクライナとの国境付近に大規模な軍部隊を展開。軍事的な緊張をあおりながら、西側の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)の不拡大などを要求し、米欧に具体的な対応を迫っている。米欧は強力な制裁措置を警告して自制を求めるが、ロシアは強硬姿勢を崩していない。軍事侵攻の懸念が広がる中、プーチン氏はどこまで本気で、真の狙いはどこにあるのか。

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ロシアは昨年12月、米国とNATOに対して欧州安全保障に関する合意案を提示した。NATOの東方拡大停止のほか、東欧からの事実上の軍撤収、核兵器や短・中距離ミサイルの国外配備の禁止、米国はバルト3国を除く旧ソ連諸国に軍事基地を設置しない、といった内容を盛り込み、文書で法的に保証するよう求めた。

これに先立ってプーチン政権が進めたのが、ウクライナ国境付近へのロシア軍部隊の大規模な増派だった。

米国との交渉実現、ロシアには一歩前進

危機感を強めた米欧はロシアとの対話に応じ、1月に入って米ロの戦略的安定対話、NATOとロシアの協議、欧州安保協力機構(OSCE)の会合が相次ぎ開かれた。21日には米ロ外相会談を実施した。

21日、スイス・ジュネーブで会談前にあいさつするブリンケン米国務長官(左)とラブロフ・ロシア外相=ロイター

いずれも進展はなく、継続協議となった。だが、「(1990年の)東西ドイツの統一問題以降、米国が欧州安保を巡って初めて、ロシアとの本格交渉の席についた」(カーネギー財団モスクワセンターのドミトリー・トレーニン所長)のは、ロシアにとって一歩前進といえるのだろう。

NATO不拡大問題、なぜいまなのか

ではロシアはなぜ、ここにきてNATO不拡大の法的保証を要求し始めたのか。

NATOの東方拡大政策はクリントン米政権時代に始まった(1995年、モスクワでの米ロ首脳会談の夕食会で乾杯するクリントン米大統領㊧とエリツィン・ロシア大統領)=AP 

「我慢の限界に達したからだ」。ラブロフ外相は1月の記者会見で、米欧がNATO不拡大の約束を破って中・東欧諸国を加盟させ、軍事インフラや軍事基地を東方に展開してきたと批判。「NATOが我々の国境とじかに接することは絶対に容認できない」と述べ、旧ソ連圏のウクライナなどの加盟を断固阻止する立場を強調した。

米欧の「約束違反」はこれまでプーチン氏が何度も言及。かつてドイツメディアと会見した際には、旧西独で東方外交を主導した政治家の故エゴン・バール氏が90年、ソ連側に「軍事機構としてのNATOは中(・東)欧に拡大してはならない」と断言していたとする「未公表」の会談記録まで持ち出していた。

ウクライナではロシアの軍事侵攻への警戒が高まっている(22日、首都キエフでのウクライナ軍の軍事訓練)=AP

もっとも、NATOの東方拡大は90年代末から始まっている。ロシアがとくに警戒するウクライナのNATO加盟問題は、現時点で具体的な議題に上っておらず、近い将来に実現する可能性は皆無だ。

NATOの東方拡大は実は、2004年の旧ソ連のバルト3国などの加盟を含め、ほとんどがプーチン政権下で進んだ。当時は対抗手段がなかったが、今はウクライナの軍事的な緊張をあおれば、米欧はロシアを無視できなくなる。自らの”責任”を感じるプーチン氏はこれを利用して「現状を修正し始めようとしている」と、トレーニン所長は指摘する。

求心力維持の思惑大きく

プーチン氏は14年春にウクライナ領クリミア半島を併合し、国民の熱狂的な支持を集めた。しかし近年は「併合効果が薄れ、政権の正当性を訴える要素がほとんどなくなっている」(政治評論家のセルゲイ・メドベージェフ氏)。ここにきて米欧にNATOの不拡大を要求し始めたのは、政権が新たな目標を掲げて、求心力を維持しようとする思惑も大きいようにみえる。

折から旧ソ連のカザフスタンでは、燃料価格高騰への不満に端を発した暴動のあおりで、長期独裁後も院政を敷いていたナザルバエフ前大統領が失権し、完全引退を余儀なくされた。

院政を敷いていたカザフスタンのナザルバエフ前大統領は完全引退を余儀なくされた=ロイター 

24年春に実質4期目の大統領職の任期切れを迎えるプーチン氏は、一昨年の憲法改正で再出馬の権利を確保した。カザフの騒乱を受け、同氏が院政ではなく、大統領続投を選択する公算が大きくなりつつある。政権側が再選戦略の柱に据えようと、NATOの不拡大をはじめとする欧州安保の問題を持ち出した可能性も否定できない。

米欧に大国ロシアの存在感を誇示する思惑もありそうだ(2021年12月、バイデン米大統領㊨とプーチン・ロシア大統領㊧のビデオ会談)=ロイター

とはいえ、新規加盟を希望する国々の権利を封じるようなNATO不拡大の要求に、米欧が応じるとは考えにくい。協議は難航、長期化が予想される。プーチン氏もそれを前提にしているとみられる。

むしろ「限りなく真実味はあるが、永遠に実現しない脅威」(メドベージェフ氏)をつくり、米欧と対峙する大国ロシアの存在感を内外で誇示し続けるのが本音だともいわれる。プーチン氏の再選戦略とも絡んだウクライナの軍事的な緊張は当面、続きそうな情勢だ。
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