5年限りの習近平続投なら敗北、面従腹背が深刻に

5年限りの習近平続投なら敗北、面従腹背が深刻に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK24CY30U2A120C2000000/

 ※ これは、新説だ…。

 ※ 世界では、習氏の「三期目続投」がなるのかどうか…、に注目が集まっている…。
 ※ それを、この人は、「三期目続投」がなっても、それが「任期の5年限り」だったら、それは「敗北」だ…、と言っている…。

 ※ その理由は、「5年」と任期が限定されれば、かならずや「任期終了が近づくと」レイムダック化するからだ…、とする…。

 ※ 果たして、その見方が「正しい」のかどうか…。

『「この秋、中国共産党大会で決まる習近平(シー・ジンピン)続投の仕方が重要になる。1期5年に限る単純な党総書記続投だけで、超長期政権への展望がみえないなら事実上、敗北だ。求心力は衰えてゆく」。中国の政界関係者がささやく。

裏にあるのは、2021年11月の党中央委員会第6回全体会議(6中全会)での「第3の歴史決議」採択から2カ月余りたった党内の微妙な雰囲気である。今のところ、多くの関係者らが確実とみているのは「22年党大会での習近平引退はないだろう」ということにすぎないのだ。それ以外の全ては、これから9カ月程度の闘いにかかっている。

中国共産党大会の閉幕式に出席した(左から)胡錦濤前総書記、習近平総書記、江沢民元総書記(17年10月、北京の人民大会堂。小高顕撮影)

普通の民主主義国家なら、残る任期が5年もあれば政権は盤石で、レームダック(死に体)化などありえない。だが、外からはうかがい知れない共産党内の権力争いで全てが決まる中国では、この常識が通用しない。5年先のトップが違う人物かもしれないと直感すれば、その瞬間から現トップへの面従腹背が深刻になる。それが中国の政治家、役人、経済界大物らの処世術だ。

 見くびられた胡錦濤政権

実際に例がある。07年の党大会で2期目に入った胡錦濤(フー・ジンタオ)指導部は、早くも翌年から内政、外交とも求心力の衰えが目立つようになる。重慶市トップに立った薄熙来(失脚後、無期懲役で収監中)は、政治的な野心を抱いて毛沢東に倣う「紅(あか)い歌」を歌う政治運動に突っ走る。

収賄罪などに問われ、公判に臨む薄熙来・元重慶市党委員会書記(中央、2013年10月、中国山東省)=新華社・共同

先のない国家主席、胡錦濤を見くびる動きは、対日外交にまで影響した。それは胡錦濤主導で日本と結んだ東シナ海ガス田合意の不履行だ。日中和解を感じさせた08年の合意は、中国側の一方的な都合で条約交渉が進まず、放置された。原因は、利権が侵されると感じたエネルギー関連の国有企業や官僚、そして軍による面従腹背だった。

胡錦濤が手を焼いた内政、外交で中央の権威に挑戦する動きは、08年夏の北京五輪をはさんで一層、激化してゆく。もし12年党大会後もトップとして君臨するなら、抵抗勢力をねじ伏せることもできた。だが既にその力は失われていた。

当時、最高指導部メンバーだった習近平は経緯を十分、知っている。レームダック化の怖さがわかるからこそ、超長期政権へのこだわりがある。習は、できることなら終身のトップをめざしたい。例えば、建国の父である毛沢東の地位だった党主席(党中央委員会主席)である。

しかし、この地位を秋の党大会で勝ち取るには、毛沢東並みの確固たる実績が必要だ。第3の歴史決議の文面上は、改革開放政策で中国を経済成長に導いた鄧小平の地位に迫り、追い越す勢いがある。ただ、党内の誰もがその内容に納得するには至っていない。

1992年の南巡講話で改革開放に再びカジを切った鄧小平氏=AP

折しも1月18日は、鄧小平による大事績の30周年記念日だった。1992年のこの日、鄧小平は北京から南に出発。湖北省、広東省、上海市を約1カ月かけて視察し、各地で改革開放の加速を呼びかけた。いわゆる「南巡講話」である。89年6月の天安門事件以降、先進国の対中制裁と、自らの引き締め政策で中国経済は停滞していたが、南巡講話をきっかけに市場経済化と高度成長に動き出す。

 鄧小平「南巡講話」30年は素通り

だが習近平による新時代を強調する今の中国では、南巡講話30年の大きな記念行事はなく、中央メディアが目立つ形で取り上げることもない。鄧小平の事績を手放しで持ち上げるのは、政治的な空気が読めない危険な行為になった。

現在の微妙な政治情勢が透けてみえる話題の文章がある。「小さなグループが大きなルールを破壊している」と題した記事は、共産党幹部の研修教育機関である中央党校の機関紙、学習時報が1月21日に掲載した。

中身はさらに意味深だ。「野心家、陰謀家が党と国家の権力を盗み取るのを断じて防ぐ必要がある。党への絶対忠誠は抽象的ではなく、具体的であるべきだ。条件付きではなく、無条件でなければならない。そして常に『2つの確立』と『2つの維持』を守る実際の行動に反映させなければならない」

簡単にいえば、陰謀を企てるやからに権力を奪われないように、習近平を核心とする党中央と、習近平思想を守り、具体的かつ無条件に絶対の忠誠を尽すよう求めている。野心家、陰謀家という敵を想定し、こちら側に付くよう迫っているのだ。

摘発された孫力軍・元公安次官=AP

ルールを破壊する小グループとは何を指すのか。その例は摘発された公安省の元次官、孫力軍らだ。海鮮の詰め合わせにしのばせた30万米ドル(約3400万円)など、9000万元(16億2000万円)を超す賄賂を受け取っていたという。

では、かつての薄熙来のように政治的な野望を抱いた陰謀家はいるのか。それは明かしていない。ただ、習の最近の言葉から、その周辺にいる集団は推測できる。「利益集団、権勢団体、特権階層に取り込まれている党内の人物にもメスを入れる」。これは1月初めになってから、あえて公表された6中全会での発言だ。党内に向けた相当な脅しで、宣戦布告でもある。

中国政治をよく知る関係者は「この利益集団には1年以上、(習政権に)標的にされてきたアント・グループ、アリババ集団、滴滴出行(ディディ)などIT系大手、恒大集団や花様年控股集団など不動産大手、学習塾業界などが含まれる」と指摘する。

この民間企業群は、総じて習への権力集中に面従腹背の態度である政治勢力に近かった。資金的な後ろ盾にもなってきた。その政治勢力は今や「反習派」というより「非習派」にすぎない。元国家主席の江沢民(ジアン・ズォーミン)や、その側近だった元国家副主席の曽慶紅らが力を持っていた上海グループなどもそのひとつだ。

それでも彼らは経済を動かす政官界に隠然とした影響力を保っている。警戒する習は、非習派の面従腹背さえ許さない構えだ。格差是正をめざす共同富裕や、住宅高騰・少子化対策として突如、打ち出された様々な習政権の政策は、背後に控える政治勢力を徹底的につぶす手段という性格もあった。容赦のない一連の不可解な政策は、党大会に向けた政治権力闘争の側面を抜きに語れない。

党大会前に反腐敗で「政治安全」確保

中国国営中央テレビは1月半ばから「(腐敗を)一切容認しない」と題した連続テレビ特番を放送し、「政治安全」を強調した。目玉は、全国の警察を仕切る立場だった孫力軍自身にあえて「多くの罪を犯してしまった」とざんげさせた場面である。北京冬季五輪を前に明るい雰囲気が必要な時期だけに異例である。

これは汚職撲滅を掲げた「反腐敗」運動が、習政権の最大の成果だと宣伝し、党大会に向けて政治的引き締めを強めるという警告だ。逆にいえば、習政権の成果は反腐敗だけ。経済は、自ら招いた「政策不況」の様相が濃いこともあり、反腐敗の「一枚看板」を武器に今後も突っ走るしかない。

17年の党大会前に失脚した孫政才・元重慶市党委員会書記(17年3月、全人代で)

再び成功すれば、秋の党大会で単なる5年続投ではなく、自らに有利な最高指導部の陣容など目を見張る結果を出せる。少なくても今後10年、トップとして君臨する雰囲気か、終身制がにじむ形になれば、面従腹背、レームダック化を食い止めることができる。

前回党大会があった17年の夏には、習の有力な後継者候補と目された重慶市トップの孫政才(当時の政治局委員)が突然、失脚した。5年たった今年も大物が失脚する可能性は十分ある。秋の党大会まで中国政治から一瞬も目を離せない。(敬称略)

中沢克二(なかざわ・かつじ)

1987年日本経済新聞社入社。98年から3年間、北京駐在。首相官邸キャップ、政治部次長、東日本大震災特別取材班総括デスクなど歴任。2012年から中国総局長として北京へ。現在、編集委員兼論説委員。14年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。』