「過激なイスラム」理解するには 池内恵氏

「過激なイスラム」理解するには 池内恵氏
東京大学先端科学技術研究センター教授(イスラム政治思想)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD237R60T21C21A2000000/

『アフガニスタンでの武装組織タリバンの復権や過激派組織「イスラム国」(IS)のテロなどで、イスラム教に対する脅威が世界で論じられるようになった。

イスラムと西欧思想では価値規範が異なり、イスラム法を適用すれば民主主義や自由主義に反する部分が出てくる。民主主義で決めた法を神の命令であるイスラム法に優先させることは受け入れ難いとする信徒が多いので、摩擦は必然的に起きる。欧州など自由主義の原則が強い国々でイスラム脅威論が台頭するのは当然と言える。

イスラム教徒は、神が法を啓示した集団であるウンマ(共同体)に帰属し、それを守る義務を負う。この帰属意識が再確認され、強まっていることが過激な政治運動につながる。欧米などで優勢な自由主義は、イスラム教徒にとってはイスラム法に反し、ウンマを支配・侵食するものと受け止められる傾向が強い。

そこで、イスラム法とウンマへの脅威に対する反撃が義務だと考える人が出てくる。それがたとえ全世界のイスラム教徒の1万人に1人であったとしても、全体としては巨大な数になってしまう。過激思想はインターネットやSNS(交流サイト)で広く拡散し、容易に検索できる。実際に行動に出る信者の割合は低くても、グローバルに見ると共通の宗教的規範を掲げたテロが頻発するので、一つの運動組織があるように見える。

イスラム教は、7世紀にアラビア半島で神から下されたと信じられている聖典コーランや預言者の言行録(ハディース)が今でもそのまま読まれている稀有(けう)な世界。19世紀まではもっぱら宗教指導者による口伝だったが、今やネットなどのメディアで一般信徒が自ら過去の権威のある解釈を探し出し発信することができる。

日本には神の言葉として示された明確な宗教的規範がなく、自由主義も強くないので、イスラム教と正面から対立しないで済み「異文化」としての関心にとどまっている。日本でイスラム教徒と共存するためには、信者は極力その信仰を内なる規範にとどめ、他者に強制する自由は認めない、という原則を確認する必要がある。国家の側も、内面の規範には立ち入らないことが重要だ。
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