「中国、ピークを前に強硬」 マイケル・ベックリー氏

「中国、ピークを前に強硬」 マイケル・ベックリー氏
大中国の時代 識者に聞く
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC143IM0U2A110C2000000/

『中国は対外的な強硬姿勢を強める半面、国内で少子高齢化や不動産バブルなど多くの課題を抱え経済成長は減速している。中国が世界で最も脅威となるのはいつか。衰退する大国の危険性を指摘する米タフツ大学のマイケル・ベックリー准教授に聞いた。

――衰退に向かう大国は攻撃性を強めると主張しています。

「台頭する大国は歴史上、経済の減速や他国からの包囲網によって国力がピークを迎え、衰退に転じる際に攻撃的な行動をとってきた。長期的には状況が悪くなると分かり、いま目標を達成しなければチャンスがなくなると考えるためだ」

「戦前の日本や第1次大戦前のドイツ帝国がこうした『ピークパワー』の代表例だ。中国は同じ道をたどっているようにみえる。中国の衰退が実際には米中対立の激化を意味すると懸念している」

――中国が世界にもたらす脅威はなんでしょう。

「1つは米国との軍事対立だ。大国間の戦争は歴史的に交戦国の想定より長引いた。米中とも国力があるだけに長い戦争を戦うことができてしまう」

「次に監視カメラや顔認証を駆使するデジタル権威主義の輸出だ。かつてないほど独裁を効率的にし世界中の権威主義国が中国の技術を求めている。民主主義の没落を早めかねない」

――中国のピークはいつだと分析しますか。

「2020年代後半から30年代早期にかけてだろう。その後中国の成長は鈍り、当面は非常に強大な国ではあるが、もはや台頭する国ではなくなる。最大の課題は人口動態だ。30年代早期までに中国の生産年齢人口は7000万人減り、高齢者が1億人増える」

「習近平(シー・ジンピン)国家主席も33年に80歳となり後継問題が迫る。中国が広域経済圏構想『一帯一路』などで供与した融資の多くもこの頃に満期を迎える。借金の取り立てを始めれば、各国の歓心は反発に変わる」

――中国が米国の国力を上回る可能性はありますか。

「米中間の経済力、軍事力の差は多くの人が考えるより大きい。中国の国力が米国を追い抜くことはない。中国のような人口大国は国内総生産(GDP)や軍事支出の数字は膨らむものの、14億人もの国民の面倒をみなければいけない弱みがある。食糧確保や治安の維持といった費用を差し引くと中国の実質的な富は見かけよりも小さい」

「さらに中国は水やエネルギーなど資源不足は深刻で、取り巻く国際環境も過去と比べて敵対的だ。これら全てが長期的に中国にとって逆風となる。一方で米国はこうした難題に悩まされていない」

――台湾を巡る軍事衝突のリスクが指摘されます。

「20年代後半が非常に危険だ。中国が急速に軍艦を増やし、米国は軍備刷新への投資を先延ばしにしたため古くなった主力の軍艦や爆撃機などを退役させる必要がある。台湾海峡での軍事バランスは短期的には中国の優位に傾く」

「長期的には米台がいずれも軍事力を強化し、日米もより緊密に連携するため中国に不利になる。中国が20年代後半を台湾統一の最後の機会だと捉えてもおかしくない」

「レガシー(政治的功績)を残したいという習氏の個人的な動機と、低成長になって現在のペースで軍への投資が難しくなることも20年代後半の危険度を高める。米中対立の最も激しい局面は多くの人が考えるよりずっと近い未来に訪れる。米政府が自国の立て直しや研究・開発投資にかけられる時間は少ない」

――米国や日本は中国にどう対応すべきですか。

「最優先は台湾海峡での中国への抑止力を高めることだ。台湾周辺にできるだけ多くの艦艇やミサイル、ドローンなどを備え、台湾を簡単に侵攻できる見込みを持たせないことが大事になる。他方、中国を戦争以外の選択肢を失うほど追い詰めるのも望ましくない」

「対中同盟の側面を強める日米同盟に加え日米豪印の『Quad(クアッド)』や米英豪の『AUKUS(オーカス)』の枠組みにより、アジア太平洋での防衛協力がこの1年で広がった。日本は国防への投資を増やして自衛隊を強化し、中国を除外したサプライチェーン(供給網)づくりを進めるといった取り組みをさらに拡充すべきだ」

(聞き手は山田遼太郎)

Michael Beckley 

1982年生まれ。米タフツ大学准教授、米アメリカン・エンタープライズ研究所客員研究員。近年、米外交専門誌などで「中国の台頭の終わり」を論じ、衰退時の危険性を指摘している。曽祖父母が日本出身。

大中国の時代 https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2Ftopic%2Fog%2F22012100-8.jpg?ixlib=js-2.3.2&auto=format%2Ccompress&fit=max&ch=Width%2CDPR&s=b6642935b2858734ff10bc8e60f15b59 

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察

いかなる国も世界ナンバーワンでありつづけることができない。アメリカも例外ではない。

民主主義は強権政治によって弱体化しているわけではない。それ自身のパワーをつり出す力が弱くなっている。中国問題は外の包囲網によって弱体化するのではなく、中国自身の先天性の弱点、制度面の欠陥によってピークアウトするだろう。

中国共産党中央委員会の発表によれば、これまでの9年間、計700万人の腐敗幹部が追放されたといわれている。この人たちはほとんど中国のエリート。彼らの知見は国力の増強に貢献していない。彼らの優秀な頭脳は無駄になってしまった。だからピークアウトすると思われる

2022年1月24日 8:01

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楠木建
一橋大学 教授
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分析・考察

何をもって「超大国」とするかによるが、21世紀半ばからは、20世紀的な意味での超大国がどこにも存在しなくなるという方向に進化していくと考える。

つまり、「覇権」「ナンバーワン」という概念そのものが有効性を喪失していくという成り行き。損得勘定で言っても、かつての覇権主義は国益に直結したが、これから先はかえってコストやリスクがベネフィットよりもずっと大きくなるだろう。そうした時代に覇権主義をとるのは根本的に無理がある。

2022年1月24日 8:21

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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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ひとこと解説

アメリカでは、アリソン教授が警鐘を鳴らした「トゥキディデスの罠」はもう昔の話。

この記事でマイケル・ベックリーの指摘している「中国衰退」説がむしろ主流になりつつある。

つまり、アメリカなどの抑止政策、中国の人口問題などで中国の国力はもうすぐピークオウトする。ピークオウトする前に中国が冒険的な対外行動をとる。だから危ないのだという。

こうした「予測」に基づいてアメリカは対中政策を立てている。

しかし中国の現状はむしろその中間ー超大国にはなれないが、崩壊もしないーにあるのではないかだろうか。

2022年1月24日 8:22 』