民主主義は監視資本主義に勝つ

民主主義は監視資本主義に勝つ 米ハーバード大ズボフ氏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1168A0R10C22A1000000/

 ※ 相当に、「タイトル」と「中身」が違っている…。

 ※ ここで言っている「監視資本主義」とは、『ネット利用者の利用履歴データを実質的に無断で収集し、収益化する企業の行動』『(データとそこから導かれる傾向や予測という)知識が少数の企業の手に集中する』現象なんかを指している…。

 ※ 『「ほとんどの人が規約を読まないことは誰でも知っている。当のネット企業も重々承知のうえでもろもろの行為の許可を求めている。たとえ読んだとしても『合意』する以外に選択肢はない。つまり実際に起こっていることは『強制』であり、自発的合意というのはまやかしだ。これは正当ではない。』という問題意識に立っている…。

 ※ しかし、いわゆる「プラットフォーマー」の「収益の源泉」は何なのかということや、従来型の「独占禁止」対策の限界…、なんて問題を考える上で、参考になる…。

『ネット利用者の利用履歴データを実質的に無断で収集し、収益化する企業の行動を「監視資本主義」と名付け、その弊害について警鐘をならす米ハーバード経営大学院名誉教授のショシャナ・ズボフ氏が取材に応じた。デジタルとインターネットの時代に個人の権利を守る新しい法制度が必要だと強調する。「民主主義は実現能力を備えている。実際、欧米の議会は前進している」との見方を示した。主なやり取りは以下の通り。

――監視資本主義とは、どんな現象を指すのでしょうか。

「20年前、米グーグルが個人のネット利用の履歴データを蓄積するという新しい行動を始めた。それから20年のあいだに、データの蓄積を収益化する理論と仕組みが世界を席巻する経済原理の一つとなった。既存の産業資本主義は自然資源を原料にして収益を生むのに対し、この原理では人々の行動や関心を監視することで得られるデータを原料とするので監視資本主義と呼んでいる」

「監視資本主義が広まった経済体制の特徴は、(データとそこから導かれる傾向や予測という)知識が少数の企業の手に集中することだ。知識の集中、知識の非対称性によって少数の企業が支配力を築いた。この体制は、価格や賃金、競争状況などをゆがめる経済的な害よりも、(プライバシーの侵害や民主主義への悪影響など)社会的な害をもたらすのが特徴だ」

――個人の行動履歴情報を「無断」で収集、活用することを違法とすべきだと提言しています。オンラインサービス企業側は「利用規約」などで情報収集について利用者の合意を得ていると主張しています。

「ほとんどの人が規約を読まないことは誰でも知っている。当のネット企業も重々承知のうえでもろもろの行為の許可を求めている。たとえ読んだとしても『合意』する以外に選択肢はない。つまり実際に起こっていることは『強制』であり、自発的合意というのはまやかしだ。これは正当ではない。金融商品の約款など、以前からこのような『付合契約』と呼ばれる供給者側が内容を一方的に定める合意の取り方は存在しており、(中身が常識の範囲内に収まっていることで)正当性を保っていた。監視資本主義が広がると、企業はこの制度を乱用するようになった。司法が前例踏襲に終始する間にテクノロジーがはるかに先を行き、法律も追いついていない」

「少なくとも現在の米国では監視資本主義は『合法』だが、決して正当ではない。ある行為が合法かどうかは、時代や場所を基とする法制度で決まる。現在は監視資本主義を有効に規制する法制度がないため、たまたま合法になっている。我々はデジタル時代に機能する新しい権利の憲章と、それを具現化する法制度を打ち立てなければならない。同意のない一方的で不当な監視、情報抽出ははっきり違法とすべきだ」

――ワシントンでの民主党と共和党の対立状況を考えると、規制を強める立法は難しいようにみえます。

「時間はかかる。19世紀後半、寡占や独占を築いた巨大企業の力の乱用に対する民衆の怒りはとても強かった。しかし、そんな強い世論があっても、消費者や労働者の権利や安全を守る法律、行政組織などができて企業を適正に規制する体制ができあがるのは1930年代、フランクリン・ルーズベルトが大統領になってから。つまり問題が顕著になってから、解決する制度ができるまでに半世紀かかった」

「馬車しかなかった時代に作ったルールで自動車が走る道路を統治しようとしても無理だった。産業資本主義という新しい存在を前提にした制度を作るのに半世紀かかった。その制度もデジタルとインターネットの時代になって、うまく権利保護の目的を果たせなくなった。その点をよく認識しないまま私たちはこの20年、監視資本主義の企業を野放しにしてきた。実物社会では家宅侵入やのぞき見を許容しないのに、パソコンやスマートフォンで個人が何を見ているかについては、企業が勝手に監視・記録し、そのデータを収益に変える行為を許してきた。今こそ新しい時代に合った権利保護の制度を作るための民主主義のプロセスを、もう一度最初からやり直さねばならない」

――ESG(環境・社会・企業統治)投資やステークホルダー論が広がるなど、倫理を重視する方向に投資家の考え方が変化しています。市場の力が企業行動を是正する可能性はないのでしょうか。

「私がハーバード経営大学院で教え始めた81年ごろ、必修授業で株主至上型経営とステークホルダー型経営の比較分析をやっていた。その後、ミルトン・フリードマンやマイケル・ジェンセンの株主至上論が世の中を席巻し、ステークホルダー型経営の分析はビジネススクールの授業から姿を消した。今盛り上がっているステークホルダー論やESG投資は、そういう意味で既視感があり、統治力として弱い。しかも市場原理主義的な考え方が、コミュニティーや公的サービスをあちこちで破壊した後に出てきたので、遅きに失した感がある」

「市場参加者や私企業によるルール設定は歓迎すべきことだが、市場環境が変わると一瞬にして消えてしまうおそれがある。取締役が交代するだけでも方針は変わりうる。つまり、企業の自主的な規範は移ろいやすいもので、長期に安定して機能する法制度の役割を代替することは決してできない。私たちは80年代以降、市場が色々な問題を解決できると思い込んできたが、その結果が監視資本主義の増長だ。問題解決には制度が大事だ」

――新時代に最適な法制度は本当にできるのでしょうか。

「3年前にはできると断言できなかったが、今はできると確信している。それだけはっきりと前進がみられるからだ。もうすぐ欧州で成立する『デジタルサービス法』と『デジタル市場法』は、ターゲット広告を規制するなど画期的な内容で、ゲームチェンジャーになると思う。ワシントンでも行動監視やターゲット広告を規制する立法に向けた真剣な議論が進んでいる」

「確かにワシントンはいつも絶望的にみえる。監視資本主義企業によって良質な報道機関が窮地に陥り、偽情報がまん延しているにもかかわらず、放っておいても民主主義が揺るがない時代が長く続いてきた。そのため、それに慣れきった市民は行動を起こすまで至っていない。だから米国では本当に民主主義が危機に陥った」

「しかし、この状態を解決する能力を備えた唯一の仕組みが民主主義であることも確かだ。歴史をみれば、民主主義の本当の危機には市民がまとまって声を上げた。時間はかかるが、解決策を議会や政権に作らせて民主主義を守ってきた。ファシズムが民主主義を破壊しそうになったときに、連合国の戦いを支えたのも民主主義だ。欧米などの議会の動きをみて、監視資本主義がもたらした民主主義の危機を民主主義自体が克服していく見通しについて、私はとても楽観的になっている」

(聞き手は編集委員 小柳建彦)

放任の弊害に気づき、欧米などで規制導入

米グーグル(アルファベットの一部門)は「邪悪にならない」をモットーとする会社として支持者を増やした。しかし創業から日が浅かった2000年に、「グーグル・ツールバー」と呼ばれるブラウザーに組み込んで使うソフトが、利用者が今どのウェブページを見ているのか逐一記録して保存する「監視」を、利用者から明示的な許可を取らずに始めていたことはあまり知られていない。

当時社内では、何をどう記録して何に使うのか、大書して説明し、許可を取るべきだという意見が浮上した。しかし、共同創業者らが「何も悪いことはしていないのだから、わざわざ懸念を呼び起こすような文言は不要だ」として却下したと、当時社員だったダグラス・エドワーズ氏が後に著書「I’m Feeling Lucky」で記録している。今思えば「邪悪」な行為は草創期から始まっていたのだ。

インターネットは90年代に普及して以来、利用者の大部分が不正をしないという性善説と、不正があっても市場原理に淘汰されるという市場信奉によって、特定の統治者を置かない分散自律型のエコシステム(生態系)として発展した。グーグルやフェイスブック(現メタ)が「監視」で莫大な収益を上げても、牧歌的な性善説を疑う声は大きくならなかった。

ここ数年、米大統領選、連邦議会襲撃事件、そしてフェイスブック元従業員の内部告発と、ズボフ氏が警告した弊害が具体化する出来事が次々と起こった。特にフェイスブックについては、利用者の安全確保や偽情報から民主主義を守ることよりも収益を優先してきた証拠がいくつも明るみに出た。そうなってようやく、放任は弊害が大きいことに世界中の政治指導者と市民が気づいた。

多くのオンラインサービス企業は「機械による行動記録は、人間によるのぞきのようなプライバシー侵害には当たらない」という考え方を繰り返してきた。しかし、「トラッキング」と呼ばれる行動監視行為に対する世論は極めて厳しくなっている。

欧米だけでなく日本やオーストラリアでの立法や規制導入の動きは、まさにその世論の反映だ。一方で、巨大IT(情報技術)企業の反規制ロビー活動もますます強力になっている。ズボフ氏の言う通り、事態の行方は各国・地域の民主主義政治のプロセスに委ねられている』