バイデン政権、内憂外患の1年 中間選挙へ難路続く

バイデン政権、内憂外患の1年 中間選挙へ難路続く
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『バイデン米大統領が就任してから20日で1年になる。滑り出しは好調な経済に加え、トランプ前政権からの政策転換への期待から支持が集まったが、その後は与党の内紛による政策停滞やインフレ過熱などで有権者の不満は募る。11月に連邦議会中間選挙を控え、支持率が低迷するバイデン政権は難路に直面している。

支持率:56%→42%

米ホワイトハウスのサキ大統領報道官は今月18日の記者会見で、失業保険申請数の減少や失業率低下など実績を挙げ「大統領就任後の1年間は、米国史上最大の雇用増を記録した年だった」と述べた。バイデン氏は19日(日本時間20日)に記者会見を開いて成果を強調するとみられるが、政権を見つめる世論の目は厳しい。

米リアル・クリア・ポリティクスによると、政権発足直後の2021年1月下旬に56%だった支持率は足元で42%と最低水準で推移する。アフガニスタンからの米軍撤収を巡る混乱で国内外から批判を浴びた21年8月に不支持が支持を逆転し、10月上旬以降の支持率は40%台前半で推移する。

要因の一つが、政策を決められないバイデン政権への失望だ。10年間で1.75兆ドル(約200兆円)規模の子育て支援、気候変動対策の歳出・歳入法案はそれぞれ当初は21年中の成立を目指しながらも、なお与野党が拮抗する上院で採決のメドが立たない。

中間選挙をにらんでバイデン氏が主導し、看板政策に位置付ける投票権保護法案も頓挫しかねない。野党・共和党が主導権を握る州で投票規制を強める動きに対抗する狙いだが、ここでも与党議員が協力しないと公言。支持率低下で遠心力が働く構図から抜け出せない。

外交にも響く。中国は台湾周辺や東シナ海・南シナ海などで軍事威嚇を強める。ロシアは14年に続くウクライナ侵攻で脅し、自国に有利な安全保障環境の確約を米欧に迫る。中ロによる国際秩序への挑戦は、アフガンからの撤収など海外での軍事展開に慎重な米国の姿勢と無縁でない。

物価上昇率 1.4%→7.0%

経済政策でも有権者の評価は低い。消費者物価指数(CPI)上昇率は21年1月の1.4%から、12月には7.0%と39年半ぶりの高水準に達した。バイデン氏はインフレを「一時的」と軽視してきた。大企業の寡占が値上がりの要因だと批判するが、打つ手は限られる。

看板公約の実現は道半ばだ。21年11月に成立させた1兆ドル規模のインフラ投資法には共和党も支持する一方、連邦法人税率の28%への引き上げなど大規模な増税は歳出・歳入法案の頓挫で宙に浮く。

新型コロナウイルスで混乱したサプライチェーン(供給網)の再構築にも力を入れる。21年2月に半導体や電気自動車(EV)電池などの対中依存を減らすための大統領令に署名した。もっとも半導体に520億ドルの補助金を投じる法案はまだ成立しておらず、結果的に日本より遅れている。

通商政策ではトランプ前政権を踏襲している。中国製品への制裁関税や「第1段階の合意」を引き継ぎ、新たな戦略は打ち出さなかった。支持基盤の労働組合に配慮し、環太平洋経済連携協定(TPP)反対など保護主義的な姿勢を保つ。「同盟国との連携」を掲げながらも、日本の鉄鋼製品への追加関税を解除するのも時間がかかっている。

ワクチン接種完了率 1%→63%

コロナ対策では好スタートを切った。政権発足とワクチンの普及開始が重なり、1日20万人弱だった新規感染者は21年6月に1万人台まで下がった。バイデン氏が自らマスクを外し、7月の独立記念日には「ウイルスからの独立は近い」と宣言した。

秋に変異型「デルタ型」の感染が広がるなか、ワクチン接種の頭打ちが大きな課題になった。バイデン氏は「未接種者のパンデミック(感染症の大流行)」と批判し、物議を醸した。接種を完了した割合は直近で63%にとどまる。共和党の支持者を中心に反ワクチン層は根強い。

足元では「オミクロン型」が広がり、新規感染者は高水準だ。企業にワクチンの義務化を求める政権の措置は今年1月13日、連邦最高裁に差し止めを命じられた。米疾病対策センター(CDC)の情報発信が混乱し、医療現場からも批判が上がる。

オミクロン型は一部地域で収束の兆しが出ており、感染拡大が落ちつけば政権には追い風になる可能性がある。中間選挙に向けて、コロナ対策の巧拙は政権の命運を引き続き左右する。

(ワシントン=坂口幸裕、鳳山太成)

多国間主義復活 対コロナは停滞

米ブルッキングス研究所シニア・フェローのウィリアム・ガルストン氏

バイデン政権はこの1年で「米国救済計画」とインフラ投資法という2つの非常に重要な対策・法案を成立させた。政策は新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けた米経済の回復を加速させ、失業率は改善し、新規雇用も創出した。また特に最初の6カ月はコロナワクチンの効率的な普及に成功した。

外交面では、米国の戦後の伝統である多国間主義の復活に成功した。他国を無理やり服従させたり無視したりするのではなく、米国は同盟国を尊重し協力するという信頼を回復した。

一方、コロナ対策は検査キットの調達が後手に回るなど停滞に転じた。高インフレへの対応も遅れた。この2つは米国民にとって最も差し迫った問題であることから、バイデン氏の支持率低下につながった。アフガニスタンからの米軍撤収を巡る混乱も、バイデン氏のイメージを傷つけた。大統領選で米国民が期待していた米国を結束させる努力が不十分との不満もある。

外交上の今後の大きな課題の1つは、大国間競争時代の復活だ。現在は欧州での危機への対処を迫られており、アジア太平洋地域でも平穏は続かないだろう。外交は憲法が大統領に大きな権限を与えている分野であり、11月の中間選挙で与党・民主党が議会少数派に転落し「分割政府」となった場合、バイデン氏は外交問題により重点を置くようになると予想する。

バイデン氏は、実現可能な政策をできるだけ迅速に実行すべきだ。また実現した政策の支出規模ではなく、それが米国民の生活をいかに改善したかの詳細を説明したほうがいい。
インフラ投資法により地方部も含めた全米の国民がインフラ改善やブロードバンド拡充などによる恩恵を受けると説明した14日の演説は正しい方向だ。もっと共和党と協力していく姿勢を示すことも必要だろう。

(ワシントン=芦塚智子)

実行力乏しく 有権者が失望

元共和党全国委員会広報部長のダグラス・ヘイ氏

バイデン米大統領の支持率が低迷しているのは実行力が乏しく、有権者の失望を招いているからだ。

最初の事例は米軍のアフガニスタン撤収だ。バイデン氏は外交経験が豊富でトランプ前政権と異なり外交チームはプロが構成するとした。有権者は撤収を望んだが、米国が大慌てで逃げ出したように見えるやり方での実行を望んでおらず、バイデン政権の能力に疑念が生じた。

新型コロナウイルス対策でも検査を重視すると言いながら、変異型「オミクロン型」の拡大時には検査を受けるために長蛇の列ができて対応は後手に回った。

(1.75兆㌦の)歳出・歳入法案の実現が難しくなり、次に投票権保護に向けた法案を進めようとしたがこれも難しいようだ。一つのことを実現できず、挽回するために実現がもっと難しい課題に取り組んで頓挫する悪循環が起きている。

支持率低下は特に無党派層で大きい。トランプ前大統領は毎日、米国民に大統領のことを考えさせたが、無党派層は不確実性を嫌い、政治を毎日考えることにうんざりした。バイデン氏は政治や生活に落ち着きを取り戻すとして当選した経緯がある。

しかし身近な問題としてガソリンや食料、自動車の値上がりが起きた。無党派層は「平静を取り戻すためにバイデン氏を選んだのにどうして毎日、政治に注目しなければいけないのか」と疑問を抱いている。

11月の中間選挙で上下両院の多数派奪還を目指す共和党にとって見通しは明るい。2010年の中間選挙で共和党が下院の多数派を奪還したときに当時のオバマ大統領の支持率は40%台半ばだった。バイデン氏は現時点でこれを下回っている。

懸念材料は共和党候補を決める予備選であまりにも過激な主張をする候補を選ぶことだ。中間選挙は投票率が低くなりやすい。(穏健な)共和党支持者を少しでも投票から遠ざければ、確保できたはずの議席を失いかねない。この点でトランプ氏の存在はプラスに働かないかもしれない。

(ワシントン=中村亮)

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