韓国造船、巨大統合が頓挫 再編停滞で過当競争続く

韓国造船、巨大統合が頓挫 再編停滞で過当競争続く
EU、現代重工の大宇買収認めず
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM13D8F0T10C22A1000000/

『造船世界2位の韓国・現代重工業による同4位の韓国・大宇造船海洋の買収計画が頓挫した。欧州連合(EU)当局が液化天然ガス(LNG)運搬船の寡占化を問題視し、買収を認めない判断を下した。造船業界は不況期の安値受注が尾を引き、足元で鋼材価格の高騰などで業績不振が続く。今回の買収破談で業界再編が停滞し、過当競争が長引く可能性がある。

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EUの欧州委員会は13日、「両社のLNG運搬船の合計シェアは少なくとも60%あり、価格競争が起こりにくくなる」として買収を承認しないと発表した。

欧州には造船業界の顧客である海運大手のA・P・モラー・マースク(デンマーク)やMSC(スイス)が本社を構えており、寡占による不利益を受ける可能性を考慮したもようだ。さらにLNG運搬船の建造価格が上がれば、エネルギー価格の上昇にもつながることから「(健全な競争は)域内のエネルギー安全保障に欠かせない」(欧州委員会)とした。

現代重工側は同日、ただちに声明を発表し、「造船市場では単純なシェアだけで市場支配力を評価するのは非合理的だ」と反発してみせた。それでも韓国公正取引委員会によると、現代重工は統合審査を撤回する意向を示しており、世界シェア首位奪還を目指した買収計画は発表から2年10カ月で白紙に戻る。

現代重工による大宇造船の買収は6つの国・地域の独禁法審査が必要だった。中国とシンガポール、カザフスタンでは承認を得られたものの、欧州と韓国、日本での審査が残っていた。欧州当局が不許可としたことで、韓国当局も14日に審査を終了すると発表した。

世界2位と4位の大型統合が幻となったことで、競合他社が安堵しているかといえばそうではない。

日本の造船大手幹部は「韓国2社の統合で再編が進めば船価上昇につながるはずだった」と肩を落とす。業界再編によって安値受注の過当競争が解消に向かうとの期待が大きかったという。競合巨大化によるデメリットよりも、業界全体の交渉力向上のメリットが大きいとの見立てだ。

EU当局の発表を受けて14日の韓国取引所では現代重工の持ち株会社の終値が前日比1.6%下げ、ライバルのサムスン重工業株も1.2%下げた。大宇造船株は前日と同水準で引けた。

英調査会社クラークソン・リサーチによると、世界的な物流停滞を背景としたコンテナ船の受注増などで2021年の船舶発注量は20年比2倍に拡大した。活況に見える造船業界だが、各社の足元の業績は苦しい。

業界2位の現代重工でも20年12月期通期の売上高は8兆3120億ウォン(約7980億円)、営業利益は330億ウォンと営業利益率はわずか0.4%だった。21年1~9月期の営業損益は3200億ウォンの赤字に陥った。

16~18年の造船不況期に造船所の稼働率維持のために赤字覚悟で受注した船舶の建造が続いており、21年には鋼材など材料価格の上昇が追い打ちをかけた。市況の振れ幅も大きく、造船会社の多さから過当競争に陥りやすい業界構造が長年解消されないままだ。

一足早く再編が進んだのが中国だ。ともに国有企業だった同国首位と2位の造船大手を政府主導で統合させて中国船舶集団(CSSC)が誕生した。顧客の多くは中国国内だったため、各国当局の承認を得やすかった事情もある。

ただ海外需要中心の韓国企業は中国のように再編が進まない。強みとしてきたLNG運搬船の高いシェアがあだとなり、買収計画が白紙に追い込まれた。

経営不振の大宇造船の再建を担う政府系の韓国産業銀行は「プランB」を模索するものの、現時点では妙案がないのが実情だ。買収が白紙となったことで産業銀行が保有する大宇造船株の56%分は塩漬けのまま。いずれは売却予定の政府保有株が、造船再編の火種として残ることとなった。

船舶、付加価値向上急ぐ

造船業界は日中韓の3カ国が世界シェアの9割を占め、日本から韓国、中国へと世界首位企業が変遷してきた経緯がある。2010年代以降はコスト競争力の高い中国勢の台頭によって、ほとんどの企業が十分な利益を生み出せない状況が続く。

過当競争から抜け出そうと各社は船舶の付加価値向上を急ぐ。新たな競争軸として浮上するのが「脱炭素」だ。日本首位の今治造船は26年メドに環境負荷の小さいアンモニア燃料の大型ばら積み船を建造する。中国船舶集団(CSSC)も経営資源をアンモニア燃料船の開発などに振り向けており、現代重工業は水素燃料船を開発する方針を打ち出す。

もう一つが、船員の負担軽減や安全性向上につながる自律航行船の開発だ。現代重工は1月上旬に開催された米先端テクノロジーの見本市「CES」に初参加し、3月までに大型船での太平洋横断を自律航行で実現すると発表した。サムスン重工業も年内の商用化を目指して人工知能(AI)開発を進めている。

(ソウル=細川幸太郎、東京=川崎なつ美、大連=渡辺伸)』