ミャンマー民主派、仮想通貨で抵抗

ミャンマー民主派、仮想通貨で抵抗
「テザー」の国内流通後押し、通貨発行権握る国軍に挑戦状
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM0337S0T00C22A1000000/

『クーデターで全権を掌握したミャンマー国軍に抵抗する民主派の「挙国一致政府(NUG)」は2021年12月、暗号資産(仮想通貨)の一種である「テザー(USDT)」の国内流通を公式に認めると発表した。「国内通貨の唯一の発行者および管理者」である中央銀行の通貨管理に挑戦する動きだ。国軍は経済をコントロールしようと躍起だが、市民側はフィンテックを活用して抵抗を続けている。

NUGは、国軍が無効とした20年の総選挙で当選した民主派の議員らが4月に発足させた。国軍を非難し、一部地域では武力によって抵抗を続けている。ミャンマーの実権を国軍から取り戻す力はないが、市民の支持率は高い。

テザーは米ドルと価値が連動する「ステーブルコイン」と呼ばれる仮想通貨で、ブロックチェーン(分散型台帳)を使い、ネット上で所有権を移転する。国軍が中銀や民間銀行を統制下におくなか、市民にとっては当局の監視や妨害を心配せずに決済や送金ができる利点がある。

NUGがテザーの流通を後押しするのは、通貨発行権を握る国軍の力をそぐことにつながる可能性があるためだ。ヤンゴン在住の経営コンサルタントは「仮に国民の大半が日常的に暗号資産を使うようになれば、中銀がいくら紙幣を印刷しても単なる紙切れになる」と指摘する。

仮想通貨を活用した抵抗運動には前例がある。昨年8月には匿名グループによる「MYD(ミャンマードル)」というプロジェクトが話題になった。「中央集権的な通貨制度を使わずに全ての市民の財産的自由を確保する」ことが目標で、独自に仮想通貨を発行して55%を市民に分配し、残る45%をNUGや慈善団体に割り当てて活動の資金源にしてもらう構想だった。

だが、MYDは12月に活動を停止し、ウェブサイトを閉鎖した。現地のIT(情報技術)専門家は「取引市場を構築できず、構想に賛同した市民もMYDを入手することができなかった」と分析する。

一方、テザーは既存の仮想通貨で、世界各国で決済手段として定着している。ミャンマー国内での取引は公には認められていないが、個人間であれば発覚する可能性は低い。NUGは11月から活動資金を賄うために利息ゼロの債券の発行を始め、テザーでの決済を認めた。この専門家は「認知が広がれば、市民間でも流通するようになる可能性がある」と話す。

さらにミャンマーの通貨、チャットの信認低下がテザー普及の追い風となりそうだ。1月に1ドル=1300チャット前後だったチャット相場は、国軍のクーデター後に急落。中銀の参照レートは現在1800チャット前後だが、市中両替商のレートは1900チャットまで下落している。資産を持つ市民の間では手持ちのチャットをドルに替える動きが加速する。

そもそもチャットは非常に使いにくい通貨となっている。クーデター直後、公務員に加え、銀行員の間でも職場放棄して国軍に抗議する「不服従運動」が活発になった。この結果、銀行の窓口が閉鎖され、人々は預金を引き出すためにATMに殺到した。各銀行は5月ごろに営業を再開したものの、現在も預金流出を恐れ、引き出し額に上限を設けている。ATMもほとんど止まったままだ。

国軍は2月以降、弾圧によって市民の街頭デモを抑え込んだ。銃撃や拷問によって1400人超の犠牲者が出たとされる。だが、市民や民主派はスマートフォンで撮影した弾圧の動画をSNS(交流サイト)で拡散させ、抵抗運動を続ける。社会の変化に合わせて専制体制に対抗する手段は進化しており、暗号資産が手段の一つになる可能性は否定できない。

(ヤンゴン=新田裕一)』