[FT]見えないカザフ争乱の背景 抗議デモか、権力闘争か

[FT]見えないカザフ争乱の背景 抗議デモか、権力闘争か
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『中央アジア、カザフスタンのトカエフ大統領はデモ参加者を「テロリスト」と呼んだ。ロシアのプーチン大統領は「革命」を企てる「外部勢力」だと決めつけた。カザフ支配層の権力闘争だという見方もある。

トカエフ大統領はナザルバエフ前大統領の側近を要職から解任した(11日、ヌルスルタン)=タス共同

164人が死亡し、8000人近くが拘束されたカザフの騒乱で間違いないのは、1週間前に周辺部の地方都市で始まった数百人のデモが発端だったということだ。

その後、デモ参加者は雪だるまのように膨れ上がり、数日のうちに全土でたいへんな人数が社会と政治の変革を求めるようになった。

暴力が伴う衝突、国際空港の占拠、政府施設への襲撃に至った事態を鎮めようと、カザフ政府はロシアに部隊の派遣を求めた。 

トカエフ氏はロシアへの出動要請について、騒乱が「一つの(指揮)中枢」が調整した「クーデターの試みだ」と主張し、正当化した。

ところが、この騒乱はカザフの社会と経済に対する深い憤りを背景に自然発生した抗議活動が火をつけたようにみえる。

「デモ参加者ははじめのうち、いつものようなスタイルで抗議する人たちだった。だが、カザフ社会のとても大きな格差に不満を持つ都市周辺の若者や貧困層が加わった」と、最大都市アルマトイのよく知られた人権活動家エフゲニー・ジョフティス氏は説明する。

発端は燃料値上げへの地方都市での抗議デモ
最初のデモはジャナオゼンという小さな都市で、その地域の問題への抗議活動として始まった。産油地帯のカザフ西部で自動車の燃料として広く使われる液化石油ガス(LPG)の価格が2倍に跳ね上がった問題だ。

首都ヌルスルタンから南西へ1000マイル(約1600キロメートル)以上離れたジャナオゼンは、2011年に起きた労働者の権利を巡るデモで警察官が石油施設で働く14人を殺害した後、国内の人権侵害を象徴する場所になっている。

拡大したデモはほどなく、事実上の権力者であるナザルバエフ前大統領とその家族を追放し、経済支配をやめさせるといった、様々な要求も掲げるようになった。

デモ参加者は「老いぼれは去れ!」と声を合わせた。19年に大統領職をトカエフ氏に禅譲するまで30年にわたりカザフを統治した81歳の独裁者、ナザルバエフ氏のことだ。

トカエフ氏はデモ参加者の要求を受け入れた。内閣を総辞職させ、燃料価格を引き下げ、ナザルバエフ氏を強大な権力ポストである国家安全保障会議議長から外した。

それでもアルマトイの状況は収拾がつかないほど悪化していった。アルマトイはかつての首都だ。ナザルバエフ氏がアスタナに遷都し、その後に自身のファーストネームであるヌルスルタンに改称した。

表面的にはいくらか落ち着きを取り戻し始めた先週末の時点で、政府は燃料問題への抗議とその後の騒乱を区別しようとした。

トカエフ大統領「自然発生の抗議を装った」
トカエフ氏は10日「(デモ参加者の要求は)全て聞いたが、何の意味もなかった」と言い切った。「自然に発生した抗議を装った騒乱の波だったのだ」

計画的な騒乱だというトカエフ氏の主張は事態の推移と一致しないと専門家は指摘する。
カザフの元官僚でフランス在住のムフタール・アブリヤゾフ氏はその理由の一つとして、デモには明確なリーダーや共通の要求がなく、ナザルバエフ氏への不満があるだけだと指摘する。

アルマトイの政府庁舎に侵入したデモ参加者ら(5日)=ゲッティ共同

「権威主義の国では(抗議行動で)リーダーが一人だけということはない。なぜなら、(簡単に)つぶされてしまうからだ」とアブリヤゾフ氏は説く。「カザフ市民はとにかくナザルバエフ氏(の権力維持)にうんざりしていた。臨界点に達したのだ」

アルマトイには不満が噴き出す素地もあった。カーネギー・モスクワ・センターのアレクサンドル・ガブエフ氏とティムール・ウマロフ氏によると、アルマトイにはカザフの各地から人が集まり、最近では犯罪が増えていた。抗議活動の拠点として知られるようにもなっていた。

アレクサンドル氏とウマロフ氏は「失うものを持たない怒れる若者が多数、存在していたことが、暴力につながったと説明できる」と最近のリポートで分析した。

トカエフ氏は、デモが始まった後で「宗教過激派、犯罪者、ならず者、混乱に乗じて悪事を働こうとする者、チンピラたち」に乗っ取られたと主張した。

「お金で動員された」との書き込み
実際、現場からのブログやSNS(交流サイト)への投稿によると、デモ参加者の一部は組織化されたグループとしてバスで乗りつけていた。この集団がお金で動員されたと指摘する書き込みもある。SNSに投稿された動画には、警察から武器を盗み出したり、車に隠した武器を取り出したりする様子も収められていた。

人権活動家のジョフティス氏は「(デモの)状況は制御不能になった」と話し、カザフ南西部のイスラム過激派が加担した可能性も考えられると指摘した。

こうした「テロリストたち」が国外から指示を受けているというカザフ政府の当局者の言い分を裏づける大きな証拠はない。トカエフ氏は「テロリストたち」が(デモで)死亡した仲間の遺体を夜間に安置所から運び出したとまで話した。「これが痕跡を隠そうという連中のやり方だ」と主張した。

ビクラム・ルザフノフ氏の件をみれば、デモ参加者の動機を見分けることがいかに難しいのかがわかる。隣国キルギスの著名ピアニストであるルザフノフ氏は先週、200ドル(約2万3000円)を受け取って騒動に参加したとカザフのテレビで告白した。放映された顔面にはあざがあった。だが、カザフで釈放されて帰国した同氏は、(テレビでは)キルギスへの送還をもくろんでうその自白をしたと報道陣に語った。

専門家の一部は、問題の根幹にはトカエフ氏とナザルバエフ氏の権力闘争があるとみている。デモ発生後、ナザルバエフ氏は公の場に姿を見せていない。

「いくつかの交渉が進んでいる」
アルマトイでの衝突は、ナザルバエフ氏の弟のボラット氏が管理していると伝えられるアルティンオルダという市場の近くで起きた。トカエフ氏は、ナザルバエフ氏の側近であるマシモフ氏を国家安全保障委員会議長から解任した。

「トカエフ氏の最初の一手がマシモフ氏の解任だったのは驚くにあたらない」と話すのはフランスのコンサルティング会社アペリオのアナリスト、ジョージ・ボローシン氏だ。「いま私たちが目の当たりにしているのは権力闘争だ」

ナザルバエフ氏のほかの側近たちはまだ無事のようだ。危機の発生でマシモフ氏が詰め腹を切らされたのかもしれない。そう推測するのは、アルマトイのコンサルティング会社ストラテジック・ソリューションズの創業者、サイモン・グランシー氏だ。

「明らかにいくつかの交渉が進んでいる」とグランシー氏は話す。「いずれにせよ、もはやナザルバエフ氏に大きな政治力はない」

トカエフ氏がロシア主導の軍事同盟である集団安全保障条約機構(CSTO)に支援を求めた事実も、グランシー氏の指摘と符合する。

ボローシン氏は、トカエフ氏がマシモフ氏の解任後、カザフの特殊部隊を味方につけられるかどうか確かでなかったため、応援を呼んだと指摘する。特殊部隊はアルマトイでデモ参加者がトカエフ氏の自宅に放火する様子をおおむね座視していた。外国が関与しているというトカエフ氏の主張は、国内の紛争に対するCSTOの介入を正当化するための口実にすぎなかった。

ベラルーシを強権で統治するルカシェンコ大統領が指摘したように、国内に不満がなければ外国が介入しても成功しない。「認識すべきなのは、外部要因だけでは十分でないということだ。その背後には内部要因の存在が不可欠なのだ」。ルカシェンコ氏は10日、CSTOに対し、こう語った。

By Nastassia Astrasheuskaya

(2022年1月11日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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