騒乱カザフを巡る中ロの思惑 権力移行にらみ接近

騒乱カザフを巡る中ロの思惑 権力移行にらみ接近
編集委員 坂井光
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK117670R10C22A1000000/

『中央アジアのカザフスタンで発生した大規模な抗議デモは思わぬ副産物を生んだ。独立から30年にわたり続いた「ナザルバエフ体制」に終止符が打たれる可能性が高まっているのだ。そんな変革期に乗じ、隣国の2つの地域大国が影響力を及ぼそうと動き出した。

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カザフの地方都市で抗議デモが始まったのは1月2日。燃料価格の高騰への不満がきっかけだった。その矛先は長期独裁体制を敷いたナザルバエフ前大統領に及んだ。一部暴徒化したデモの波は全国に広がり、同氏の銅像などは破壊の対象となった。

トカエフ大統領はデモ隊をテロリストと決めつけ、治安部隊には警告なしでの発砲を指示した。あわせてナザルバエフ氏を安全保障会議議長から解任し、同氏の腹心とされる治安機関トップを国家反逆罪の疑いで拘束した。内閣も一新し、権力基盤を固めつつあるようにみえる。

カザフではナザルバエフ氏(左)からトカエフ氏に権力が名実ともに移ろうとしている(2019年6月、握手する2人)=AP

ナザルバエフ氏は1991年のソ連崩壊に伴うカザフ独立から初代大統領として君臨。2019年に辞任してからも影響力を行使していた。

いち早く行動したプーチン氏

同氏の消息は11日現在、明らかになっていない。だが、抗議デモはナザルバエフ体制からトカエフ体制に名実ともに移行することを意味するものになるかもしれない。

ロシアのプーチン大統領は機をみるに敏だ。カザフのデモが広がり、政府が「非常事態」を宣言した5日の翌日には、ロシアが主導する軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」の加盟国であるカザフのトカエフ大統領をはじめ、キルギス、タジキスタン、ベラルーシ、アルメニアの首脳からカザフへのCSTO部隊の派遣で合意を取り付けた。

部隊はロシア軍が主体となり、ベラルーシ、タジク軍などを含む2500人規模。プーチン氏は「デモ隊は外国の訓練を受けたテロリスト」「外国の侵略を目の当たりにした」など盛んに発言し、武力による制圧を正当化し、トカエフ氏擁護の姿勢を鮮明にした。

ロシアにとって旧ソ連のカザフは同盟国であり、いわば裏庭だ。ロシア人比率は高く、国民の2割近くを占める。ロシア語は公用語のひとつだ。関係は多岐にわたり、いまもロケット打ち上げには同国のバイコヌール宇宙基地を利用している。

反ロシアに転じたウクライナを巡り米欧と対立するなか、カザフの政治混乱を放置し、影響力を低下させるわけにはいかない。プーチン氏はナザルバエフ氏については口をつぐんでおり、トカエフ体制への移行を確信しているかのようだ。

カザフを巡り中ロの思惑が交錯している(オンライン協議する中ロ首脳=CCTVのサイトより)

一方の中国はどうか。習近平(シー・ジンピン)国家主席の反応も早かった。

中国国営テレビによると、7日にトカエフ氏にメッセージを送り、外国のテロリストに断固立ち向かった同氏の迅速な対応を称賛。「カラー革命」は容認しないことを伝えた。さらに、カザフは隣国の兄弟国であり、恒久的な包括的パートナーとして支援をいとわないことを表明した。

中国にとってもカザフは地政学的に重要だ。石油、ガス、銅などの資源を輸入。中国が中央アジア諸国から輸入する天然ガスのパイプラインが通過する。

さらに中国と欧州を結ぶ鉄道輸送「中欧班列」の主要ルートもカザフを通る。これはすでにロシアを通過するシベリア鉄道の輸送量をはるかに上回っている。カザフは習氏が進める広域経済圏構想「一帯一路」の要衝なのだ。

習氏は中国通のトカエフ氏に期待

習氏にとってトカエフ氏が実権を握ることは関係を強化するチャンスでもある。

トカエフ氏はモスクワ国際関係大学で中国語を専攻したのちソ連外務省に入省。1983年から北京語言大学に留学するなど、外交官としてのキャリアの多くを中国畑で過ごした。独立後はカザフの外務次官や外相として中国との関係強化に貢献したとされ、深圳大学の名誉教授にも任命された。

11日、オンラインで下院にスマイロフ前第1副首相の新首相就任を提案するカザフスタンのトカエフ大統領(ヌルスルタン)=タス共同

中ロがトカエフ氏を支持するのは、一義的には隣国のデモを放置すると自国にも波及しかねないからだろう。だが、中央アジアの資源大国の権力移行期に自国に有利な関係を築きたいとの思惑があるのは確かだ。

トカエフ氏としては中ロだけでなく西側ともバランスをとるのが最善の外交政策だが、今回のデモ制圧を受けて中ロにより配慮せざるを得なくなった。

裏庭を守りたいプーチン氏と、一帯一路の要衝を攻めたい習氏。いずれにせよトカエフ氏は専制的な手法を強めることが予想される。

3人は2月の北京冬季五輪開会式で顔を合わせる可能性が出ている。』