[FT]カザフ抗議デモ、ナザルバエフ氏の長期支配に幕か

[FT]カザフ抗議デモ、ナザルバエフ氏の長期支配に幕か
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『ソ連崩壊から30年、中央アジアのカザフスタンを揺るがしている政府への抗議デモは、ヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領による長期支配の終わりを告げるものかもしれない。だが、豊富な石油資源を持つ同国が独裁体制からスムーズに移行することを示唆するものではない。

燃料費値上げへの反発に端を発した政府への抗議デモを警戒する治安部隊(6日、アルマトイ)=ロイター

ソ連崩壊後の歳月の大半を通じてカザフを支配したナザルバエフ氏は2019年に辞任し、自ら指名したトカエフ氏に大統領の座を譲った。だが、ナザルバエフ氏はその後も国家安全保障会議議長の地位にしがみつき、カザフを強い統制下に置いたまま自身の支配力を維持してきた。

しかし今週、抗議デモのうねりが高まるなかで、かつては行政上の実務を託されたにすぎないとみなされていたトカエフ氏が、自分を大統領の座に据えた人物を差し置いて治安部隊の実権を公然と掌握した。「国父」と呼ばれ、首都を自身の名のヌルスルタンに改称した81歳のナザルバエフ氏は要職を解任され、国外に脱出したのではないかとのうわさも呼んでいる。

コンサルティング会社アペリオでパリ在勤の地政学アナリスト、ジョージ・ボローシン氏は「ナザルバエフ体制と19年の辞任とともに始まった不完全な権力移行は、どちらももう終わった」と指摘する。

カザフの豊富な石油・ガス資源にかなりの資金を注ぎ込んでいる西側の投資家は、混乱期の成り行きを注視している。一方、ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」が、加盟国であるカザフに部隊を派遣することを決めた。ウクライナと欧州の安全保障に関する米国との協議を控えるロシアにとっては、国境地帯で望ましくない不確実性が膨らんでいる。

燃料値上げから広がった抗議デモ

政治リスクコンサルティング会社プリズムのアソシエートディレクター、ベン・ゴドウィン氏は「支配層の内紛」を見通している。「トカエフ氏がナザルバエフ氏から権力を引き継いだが、石油やガス、金融、鉱業などの戦略産業を含めて、なおもナザルバエフ氏側が全てを支配している」と話す。

「トカエフ氏が権力を確たるものにできた場合、残されたオリガルヒ(新興財閥)との長期の交渉が必要になる」という。

抗議デモは自動車の主要な燃料である液化石油ガス(LPG)が、1月1日の価格統制解除後2倍に値上がりしたことから広がった。だが、燃料価格への不満はすぐにナザルバエフ氏に対する反発へと変わった。

英調査会社IHSマークイットのアナリスト、アレックス・メリキシュビリ氏は「経済的な問題によるカザフ西部での地域的な不満がたちまち他の地域へ広がったという事実は、一般市民の間で政府に対する不満が強くくすぶっていたことを示している」との見方を示す。

19年の大統領交代で政治の自由化が期待されたが、国民のニーズに寄り添う政府をつくるとするトカエフ氏の「耳を傾ける国家」という方針は、「全般的な民主化という面で目に見える成果を生み出していない」とメリキシュビリ氏は言う。「この春でトカエフ氏の就任から3年になるが、今もカザフに野党は存在しない」

低迷続くカザフ経済

経済状況の悪化が不満に輪をかけた。コモディティー(商品)に依存するカザフ経済は、石油価格が急落した14年以降低迷している。そこに新型コロナウイルスのパンデミックが加わり、アナリストによると物価上昇と経済格差の拡大、最も弱い人々に対する適切な公的支援の欠如が状況を悪化させている。

反政府デモには「経済状況の悪さ、競争なき政治を是正する政治改革の欠如、ナザルバエフ一族とそれに連なる一派の経済支配が関係している」とボローシン氏は指摘する。

トカエフ氏は当初、LPG価格を21年の水準以下に引き下げ、内閣を総辞職させるなどの譲歩でデモに対処した。だが、安全保障会議の実権を握ると即座に方針を変え、国内全土に非常事態宣言を発令した。

ロシアが主導し、アルメニアやベラルーシ、キルギス、タジキスタンが加盟するCSTOにも部隊の派遣を求めた。ロシアの迅速な部隊派遣はCSTOの歴史を通じて前例がない。1992年発足のCSTOは2010年にキルギスの民族衝突への部隊派遣を拒み、21年にもアゼルバイジャンと戦うアルメニアの支援に応じなかった。

地域の支配的存在であるロシアは、ほぼ8000キロメートルと最も長く国境を接するカザフの安定を維持したい考えだ。両国は経済的に密接な関係を保ち、ロシアはカザフ領内にいくつかの軍事基地とバイコヌール宇宙基地を持ち続けている。

支配構造の刷新は困難か

ロシア科学アカデミー・ポストソビエト研究センターのスタニスラフ・プリッチン上級研究員は「特にアルマトイなどで強硬な対応を示さなければならないトカエフ氏にとって、次の2日間が決定的になる」と指摘する。カザフ最大都市のアルマトイでデモ参加者は商店や銀行、スーパーなどを襲っている。

プリズムのゴドウィン氏は、産油地帯のカザフ西部は長く問題になり続けるとみている。2日に国内で最初にデモが発生した同地域には過去にもデモが行われた歴史がある。「アルマトイやヌルスルタンの人々とはかなり違っていて、極めて意志が固く、極度の怒りを抱いている。11年に見たように、彼らは何カ月も陣取る覚悟がある」

西部マンギスタウ州の都市ジャナオゼンは近年、低賃金や物価上昇をめぐりデモが頻発している。11年の石油労働者のストライキは、警察が排除に乗り出した後に暴力に発展した。

デモの要求には現実離れしたものも含まれているため、トカエフ氏が要求を満たすのは難しいのではないかとアナリストはみている。内閣が入れ替わろうとも、カザフの支配構造を変えることについても同様だという。

「新たな政府が質的にこれまでの政府と異なることは考えにくい。カザフの支配層に資格を満たす人材は限られているからだ」とメリキシュビリ氏は言う。

By Nastassia Astrasheuskaya

(2022年1月7日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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