[FT]ロシアの侵攻に備えるウクライナ市民

[FT]ロシアの侵攻に備えるウクライナ市民 戦闘訓練参加
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『ウクライナの首都キエフ郊外、いてつくような松林での戦闘訓練に初めて参加する39歳の女性オリガ・サロさんは、ピンクのスキージャケットに濃色のブルージーンズといういでたちだった。

訓練に参加するウクライナ領土防衛軍の予備役ら(2021年12月、ウクライナ東部・ハリコフ)=ロイター

世界の大部分がクリスマスを祝っていた2021年12月の酷寒の土曜日、博物館のガイドとして働くサロさんは、ロシアが本格侵攻してきた場合にはウクライナの国土を守ろうと志願した数百人の民間人とともに隊列を組んだ。

新規の志願者は木製の模型銃を手にしていた。それよりも経験のある志願兵や予備役は多くが迷彩服に身を包み、自動小銃を携えていた。

「最悪のシナリオに備えて、正しく対応できるようにしておく必要がある」とサロさんは話した。「準備ができていれば、事は起きないかもしれない。正規の軍隊だけでなく一般人の抵抗にも遭うとわかっていれば、敵は攻めてこないと思う」

ロシアがウクライナ国境沿いに10万人の兵力を集結させているとの報を受けて侵攻の準備ではないかとの不安が広がり、緊張が増すなかでの志願者の殺到だ。危機を和らげようとする集中的な外交努力の一環として、米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領は12月30日、22年1月に予定される両国と北大西洋条約機構(NATO)主要国による交渉に先んじて電話協議を行った。

侵攻計画など何もないとしていたプーチン氏は12月21日、ウクライナと西側の支援国がロシア政府の「レッドライン(越えてはいけない一線)」を無視するのなら、「適切な軍事的・技術的措置」を取り、「敵対的な行動に厳しく対応する」用意があると語った。ロシア側は、西側によるウクライナへのさらなる軍事援助の凍結やウクライナのNATO加盟申請の却下、東欧からのNATO軍部隊の撤収などを要求している。

サロさんが参加したのは、ウクライナ領土防衛軍が国内各地で毎週実施している定期訓練の一つだ。同軍は数年前にウクライナ軍から分かれて発足し、戦争勃発時に補助的な役割を担う数十万人の非常勤の予備役を訓練している。

募集広告に呼応

21年から新規の志願者も訓練に参加できるようになり、全国的な募集広告に応じる人や、応募者に対して訓練や領土防衛軍への入隊を促すソーシャルメディア上での呼びかけに応える一般市民が増えている。

総人口4400万人のウクライナでキエフ国際社会学研究所が12月に行った世論調査では、男性の58%、女性のほぼ13%がロシア軍から国を守るために武器を取る覚悟があると答えている。男性の約17%、女性の25.5%は抗議や転覆活動など他の方法で反撃するとしている。

「誰も花を持って彼らを迎え入れたりしない。彼らを出迎えるのは銃弾だ」。ウクライナのダニロフ国家安全保障・国防会議書記はフィナンシャル・タイムズ(FT)にこう語った。「全面的な抵抗になるだろう」

兵力100万人強のロシア軍に対し、ウクライナの正規軍は兵員規模も装備も大きく劣っている。ウクライナ軍は総員25万人ほどで、その多くは東部ドンバス地方でロシアが支援する分離独立派と戦っている。14年にロシアがウクライナのクリミア半島を併合した直後の紛争において、貧弱な装備で戦闘に及び腰なウクライナ軍は不意を突かれる結果となった。

その紛争の初期、サッカーのフーリガン(暴徒)として知られていた大勢の人も含めて、自ら望んで参加した混成の戦闘員数千人が重要な役割を果たした。それからほぼ8年、ウクライナは軍事力を再編し、米国製の対戦車ミサイル「ジャベリン」やトルコ製のドローン(小型無人機)といった精密兵器で軍を近代化した。1万4000人以上の命を奪った紛争で鍛えられた数十万人の正規兵は、再招集されれば即応できる状態だ。

東部地域で演習するウクライナ軍(2021年12月、軍提供)=ロイター

ダニロフ氏は侵攻に対する抑止力として、地対空ミサイルなどの防御兵器をウクライナ軍に速やかに追加提供するよう西側支援国に求めた。

同氏は、ロシアがウクライナの国土の約半分を制圧するには、侵攻兵力を50万~60万人に増強する必要があるとの見方を示した。

12月30日夜、バイデン氏はプーチン氏に対し、ロシアがウクライナを侵攻すれば米国と同盟国は「断固たる」対応を取る用意ができていると述べた。

特殊作戦や地下活動

22年には、領土防衛軍の新たな志願者約1万1000人が予備役としてウクライナ軍に加わる見込みだ。人数は公表されていないが、重要なインフラや工場を守る増強部隊の中心となる要員や、ロシアが新たな地域を占領した際に特殊作戦や地下活動を担う要員がすでに参加を誓約している。

ダニロフ氏によると、それ以外にウクライナ全域の都市で訓練を受けているサロさんのような人々が「数万人、数十万人」の兵力に加わる可能性があり、さらに「数百万人が国を守りたいという気持ちに駆られることになる」という。

領土防衛軍に加え、数千人のウクライナ人が数十の民兵組織の訓練を受けている。一部の組織は14年に自主的に武器を取った戦闘部隊がルーツだ。

キエフ郊外の松林で志願者たちは、出血を止める止血帯の使い方や、待ち伏せ攻撃を受けた際に犠牲者を最小限に抑えるために、パトロールに出た部隊は散開隊形を取るようにすることなど、軍隊の基本を教える教官の下で何時間も訓練を受けた。遠くで爆発音が鳴り響いた。上級クラスの手りゅう弾の訓練だ。

クリミアでのロシア軍の展開を示す衛星写真(2021年10月撮影、マクサー・テクノロジーズ提供)=ロイター

「脅威を感じている」という53歳の自動車整備工のウラジスラフさんは、旧ソ連軍の兵士として覚えた基本を磨き直そうと1カ月前に訓練に応募したという。「退却しなければならなくなった場合でも、我々は敵の命を最大限に奪うためにあらゆる手を尽くす」

教官の1人は、新規の志願者も週末の数回の訓練で基本的な役割を担えるようになると話した。計画には、キエフだけで5000人規模の領土防衛隊をつくり上げることが含まれているという。

IT(情報技術)企業で働くかたわら、週末に新規の志願者を訓練している予備役のアンドリーさんは、「彼らはここに住んでいて、ここで訓練を受け、地元の環境を知っている。その彼らを不慣れなところへ移したり、よそから人を連れてきたりする必要はない」という。

酷寒の雪の中で転げ回り、ライフル射撃などの数時間の訓練を終えた後、サロさんは「寒いのは動いていない時だけ」だと話した。

親ロシア派のヤヌコビッチ大統領を追放した14年の民主化革命を記念するキエフの博物館でガイドの仕事を続けながら、領土防衛軍の部隊に加わって友人たちの手本になりたいという。

「入る人が増えるほど守りが堅くなる」とサロさんは言葉を続けた。

By Roman Olearchyk

(2021年12月31日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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