レイ・ダリオ氏「中国は国力上昇のサイクルにある」

レイ・ダリオ氏「中国は国力上昇のサイクルにある」
Foresight 2022 (1)ブリッジウォーター・アソシエーツ創業者
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN304BA0Q1A231C2000000/

『新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」が猛威をふるう中で、世界の政治や経済の混迷が続くまま迎えた2022年。世界や市場はどこへ向かうのか、有識者に意見を聞く。第1回は世界最大のヘッジファンド運用会社ブリッジウォーター・アソシエーツ創業者のレイ・ダリオ氏。米中関係を聞いたところ「国の歳入が歳出を上回り、教育水準や生産性も向上している」などと中国の国力上昇を予想した。

――米国の国力低下を指摘しています。

「実質金利がマイナスの状態で国がお金を印刷して市場にお金があふれ、インフレ懸念も高まっている。世界の基軸通貨ドルの購買力が低下し、ドル建て債券を保有する世界各国の投資家にとっても弊害であり、米国の国力の弱体化を反映している」

「これに100年に一度しか起こらないパンデミックや洪水、干ばつといった自然災害も相次ぎ、米国の国政へのリスクが拡大している。国内の秩序を保つシステムもうまく機能していない。歴史を振り返るとこうした問題に直面する国家は内戦や戦争に突入するのが常だ。米国は内戦・戦争の段階にまでは達していないが、その前の財政上のリスク、政治的リスク、社会的リスクに直面している最中だ」

――一方で中国の覇権拡大を予想するのはなぜですか。

「国の歳入が歳出を上回り、教育水準や生産性も向上している。国内の社会的秩序も落ち着いており、紛争も少ない。社会主義が資本主義よりも優れているといった議論をするつもりはない。ただ、米国の民主主義が試練に直面していることは確かだ」

「私は紀元600年代の唐時代以降の中国の歴代王朝を研究をした結果、中国人は歴史から教訓を得るのが得意だということを知った。皇帝や指導者の興隆は国の浮き沈みのサイクルの一舞台を担うのにすぎない。現在の習近平(シー・ジンピン)氏もサイクルの1つにいるわけだが、そのサイクルは国力の上昇傾向の段階にある」

――中国政府によるハイテク企業の規制強化や子供のビデオゲーム使用時間の制限など政府のコントロール強化への批判もあります。

「中国国内の問題は外国人には理解が難しいだろう。私は過去34年間にわたり中国政府幹部との関係を築いてきた立場から、彼らの言い分は米国が個人主義の国であるのに対し、中国は国家が家族の延長であり、指導者はしつけの厳しい親だと説明するのがわかりやすいと考える」

「だからこそ、ビデオゲームの使用時間に干渉したり、データを扱うハイテク企業に対して規制が追いつかないほどのスピードで金融サービス事業を拡大することを統制したりしようとしている。馬雲(ジャック・マー)氏といった億万長者の起業家が力をつけすぎて国に害を及ぼすような間違いを犯さないように親の立場で監督している。もっとも、国家の共通の繁栄を享受することが、鄧小平氏以前の共産主義に戻るということではない」

――中国政府による人権侵害への批判もあります。

「人権問題が重要でないと言っているわけではない。儒教思想に裏付けられた厳しい親としての中国政府を私が支持しているわけでもない。私は米国人であり、アメリカンドリームを体現し、我が国の政治システムを信奉している。ただ、彼らのシステムもよく理解している」

「中国の人権問題はわがヘッジファンド会社だけが直面している問題ではなく、中国に投資する世界の4万人超の投資家、数え切れない銀行や米国内外の企業が直面する問題でもある。しかし、米国人と中国人がビジネスで相互につながりを持っているのは現実であり、それを引き離すのは双方に有害だ。米中の相互理解はモノを生産する直接的な相乗効果に加え、世界の平和と繁栄につながると信じている」

――米国が国内秩序を回復し、中国に対峙する国力をつけるためにはどうすべきですか。
「両極が歩み寄る超党派の政策が重要だ。それには政治的中立派が力をつけなければならない。政治的分断をこれ以上進めてはならない。政治システム以上に人の力が重要であるという原理を私は信じている」

「同時に教育システムの向上が必要だ。教育水準は国力に反映する。学校で学ぶ科目だけでなく、文化・教養、礼儀など広義にわたる教育を意味する。最高の才能は世界のどこから輩出されるかわからないだけに、できるだけ多くの人材を国外から受け入れることも重要だ。国内のシステムが公正で教育水準が高い国に世界の優秀な才能が集まる」

「米国は世界に名だたる素晴らしい大学がある一方で、国内の教育の質の格差は大きい。富裕層は子供の教育にお金をかけて質の高い教育を施すことができるが、低所得層はそれができない。公的教育は州ごとの不動産税で賄われるだけに、富裕層の住む地域の公立学校の水準は高い一方で、貧困層の地域の公立学校は恵まれない。公的教育を取り巻く構造問題を解決することも重要だ」

(聞き手はニューヨーク=伴百江)

Ray Dalio 世界最大のヘッジファンド運用会社ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者。昨年末に新著「Principles for Dealing with the Changing World Order(変化する世界秩序への対応原則)」を出版した。「現在起きていることは、過去に何度も起きている」という事実をベースに、歴史から現在にかけて、国家が直面している問題を解決しようという狙いで執筆したという。72歳。』