「心の資本」は十分ですか さらばテイラーシステム

「心の資本」は十分ですか さらばテイラーシステム
成長の未来図②
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL066RJ0W1A201C2000000/

『「他人のいいところを探しましょう」「15分だけ昼寝をしてみては」。毎朝、スマートフォンやスマートウオッチにメッセージが届く。日立製作所の子会社、ハピネスプラネット(東京都国分寺市)のサービスだ。

ベースになるのは「人の幸福度を測る」という独自技術。人が幸せを感じているかは呼吸や心拍数、筋肉の微妙な伸縮など無意識の変化に表れる。スマホアプリに搭載したセンサーが10秒ごとにデータを取得する。

幸福度を改善

約15年間にわたって集めた延べ1千万日分の実証データを活用する。人工知能(AI)が個人別にはじきだす幸福度に応じ、その改善に役立つメッセージを自動的に作成して送信する。

実証実験では「心の資本」と呼ぶ指標が平均33%向上した。米ネブラスカ大のフレッド・ルーサンス名誉教授らが編み出した指標で「自信を持つ」「楽観的に考える」など複数の要素を数値化する。指数の33%向上は営業利益の10%ほどの押し上げに相当する。

自動車などに代表される大量生産手法の確立により歴史上でも類を見ない経済成長を謳歌した20世紀。原動力の一つとなったのが同世紀初頭に米経営学者フレデリック・テイラーが提唱した「科学的管理法」だ。ストップウオッチなどを用いて生産工程を科学的に分析し、運営者や作業員の経験と勘に頼っていた工場運営を大幅に効率化させることを提唱した。

「テイラーシステム」とも呼ばれる手法の導入で製造業の生産性は飛躍的な改善を遂げた。しかし経済の主役がモノからアイデアやノウハウといった「知」に移るにつれ従来のやり方では成長の実現が困難になった。

典型が20世紀の製造業の競争で優位に立っていた日本だ。モノづくりの現場が中国など新興国に移る中、「知」の競争に対応できる企業システムの構築に出遅れた。

熱意を持って仕事をする社員は5%。米ギャラップの調査で日本は世界の最低水準に沈む。30%を超える米国、20%前後の北欧諸国を大幅に下回る。「考える力」が問われる時代に社員が仕事に情熱を持てない状況では企業の成長は望めない。

パーソル総合研究所と慶応大の前野隆司研究室の調査では幸せの実感が低い人が多い企業は減収が多かった。社内の幸福度の低さが企業の成長を阻み、それが社員の不満をさらに高めかねない。

そうした状況を避けようと、三菱UFJ銀行など有力企業が相次ぎ社内の幸福度を調べる仕組みを取り入れ始めた。従業員の「気持ち」の領域にまで踏み込むことに賛否はあるかもしれないが、「心の資本」の再構築なしには成長の未来図が描けないという危機感がある。
知の競争へ改革

知の競争の時代にふさわしい職場のあり方や社員の働き方、報酬体系をどう確立していくか。求められるのはテイラーシステムに代わる21世紀のシステムの構築だ。

米グーグルは一人ひとりの働く喜びを重視するよう唱えたアリストテレスにちなみ、「プロジェクト・アリストテレス」と呼ぶ社内調査を10年前から実施して企業風土改革を進めてきた。

生産性が高くイノベーションを生む職場とそうでない職場との違いや要因を調べると「心理的安全性」が影響するとわかった。自由にものが言えたり組織に認められて安心感を覚えたりすることを指す。グーグルは社員のパフォーマンスに関係するこうした要素を重視する仕組みを磨いた。

企業収益が低迷し社員の賃金も増えない。それが社員の仕事への意欲を萎えさせ生産性も上がらない――。そんな悪循環から抜け出す第一歩は挑戦が報われる仕組みを整え働き手のやる気を覚醒させることから始まる。

【前回記事】資本主義、創り直す 解は「フレキシキュリティー」に

【ビジュアルデータ】豊かさの現在地 経済成長、日本と世界

成長の未来図特集ページはこちら https://www.nikkei.com/theme/?dw=21122702&n_cid=DSREA_NY2022 』